3 生存戦略ですわ
あの時死んでしまったのかしら。それより後のことは思い出せないみたいだから、やはりそういうことなのかしらね。考えている私を侍女が手際よく着替えさせていく。いつものルーチンで、気にしたこともなかったけど。
「ありがとう」
なんとなく口をついて出た言葉に侍女がびっくりした顔をする。それはそうよね。普通こんなことでお礼なんて言わないもの。でも中年男性の記憶がもたらした気恥ずかしさのようなものから、何も言わずに済ませることができなかったわ。まあ、お礼を言われて気を悪くすることもないでしょうし、良いんじゃないかしら。
それにしても、厄介ね。できればヒロインが転校してくる前に少しぐらい調べておきたいところなのだけど、イセというのは名前を挙げるだけでかわいそうな目で見られることが確定してるような家名なのよね……むしろそれがどうやってあんなに堂々と末裔を名乗って受け入れられるのか、全然想像もつかないのだけど……
それに私も学園に入学してまだ日が浅いのだからあまり変な目立ち方はしたくないわ。入学時点で女性というのは、そうでなくても少し目立つのだし。二年次くらいになると概ね半々ぐらいにはなるのだったかしら。ああなるほど、前世の世界の人が遊ぶゲームの舞台としてはちょうど良いのでしょうね。
身支度を終えお父様との朝食が終わればいつものように馬車に乗って学園へ向かうわ。前世の常識のせいで若干の奇妙さを感じるけれども、お父様はもちろん女性よ。お母様は当主としてのお仕事が忙しいのでなかなか朝食はご一緒できないの。
「確か……二年次に上がる少し前に、『悪役令嬢』シロ・ノワールは魔法に目覚めるのよね」
シロ家の次期当主ノワールというのが私。シロノワール……今まで普通に自分の名前と認識していた組み合わせに前世の知識のせいでノイズが入るわね……まあ気にしても仕方ないわ。
お母様にもお父様にも、というか誰にも相談できないイセの末裔の話はともかく、彼女が転校してくる前に、その後に備えることぐらいなら多少は出来そうだもの。そして、魔法が使えるようになると言うなら、その素質が私にあることが確かなのなら、それは大きな備えになるに違いないわ。
「まずは魔法の力を得ること。それと……」
胸の前で手を合わせ、それを開く。手の間にはステータスの表示されたウインドウ。
「レベル上げ、かしらね。」
転生とかゲームとかではない「ちゃんとした」シュリンプバース作品が気になる方は黒周ダイスケさんのPANDALIDAE(完結済み)を是非。
https://kakuyomu.jp/works/16816927861561174858
自分はちゃんとエビの味を出せるんだろうか……