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10 誘拐ですわ

目が覚める。おかしいわ。学園から屋敷までは歩こうと思えば歩ける程度の距離。うたた寝したとしてもすぐ起こされるはずよ。にもかかわらず馬車は走り続けているわ。


「来てしまったかしらね」


帰省ではなく休みに入ったすぐ、学校帰りを狙われるとは思わなかったわ。確かに普段の行き帰りの方が気がゆるんでるわね。


「どこに向かうのかしら」


襲撃でもされるのかと思っていたのだけれど、このままどこかに拉致されるのかしら。のんびりはしていられないけれど、それほど慌ててもいないわ。膝の上に地図ウインドウを開いてみる。オートマップって便利よね。

かなり遠くまで連れてこられてるわね。どうするつもりかしら。ゲームでちゃんと描写してくれてたらもっとちゃんと対策できたんだけど……


とりあえず寝てしまった理由っぽい小さなつり下げ式の香炉を手に取ってみる。香りと魔術の組み合わせなのでしょうね。残念ながら私はまだ基礎しか習ってないのでぜんぜんわからないけど。ちゃんと勉強すればこういうモノを作ったり改造したりもできるのかしら。せっかくなのでこれはいただいておきましょう。


馬のいななきと共に、馬車が止まったわ。本当にかなり遠くにきてしまったようね。お父様が心配しているのではないかしら。


「降りていただけますかお嬢様」


あら。いつもの声ね。これは……買収されたとか人質取られたとかそういうのかしら。前者だと良いわね。問答無用で使用人が殺されて賊に入れ替わったとかではなさそうなので、そこは安心したわ。


「ええ、降りるわ」


外から扉を開けてもらう。いきなり刺されるということも無さそうね。


「ここから少し歩いていただきます」

「どこへ行くのかしら」

「少し道から外れますが、それほど遠くではありませんので」


地図上には確かダンジョンが近くにあったはずよ。でも、ダンジョンの奥まで連れて行って置き去りとか手間がかかりすぎるわね。やはり人目に付かないところで始末しようというつもりかしら。どこかでストーリーが変わってしまって私が不要になったとかだとちょっと困っちゃうわね。


あまり歩き慣れてない身には少し大変だったけど、確かにそれほど遠くはなかったわ。そして今目の前には怪しい……ほんとうに怪しいとしか言いようのない、灰色のフードをかぶった人が二人いるわ。


「お嬢様を連れてきたわ。これでいいのよね!」

「まだだ」


そう言うと灰色の片割れが何か呪文を唱え始めたわ。内容がぜんぜんわからないのは悔しいわね。でも効果はすぐにわかったわ。ポータルというのかしらね、人一人が通れそうな不思議な空間の裂け目ができたわ。


「そこに押し込め」

「わ、わかったわよ!」


そう言うと使用人は私を、そのポータルの近くに連れて行き、そして。


私をその中に突き飛ばしたわ。

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