1 思い出しましたわ
「あへぇっ?」
目覚めと同時に変な声が出ましたわ。いや、変な叫び声で目が覚めたと言うべきかもしれませんわね。さっきまで寝ていましたのですから。目覚めた私が横たわっているのは、ホームセンターのパイプベッドではありませんわ。
「ホームセンター?パイプベッド?」
そもそも、そんなものは知りませんわ。いや、思い出せるのですけれど、私は見たことがないですわ。ないはずですわ。
「どういうことなの……」
落ち着いて。まず深呼吸。女性は落ち着きが大事なのですわ。自分の変な声で目が覚めたのは恥ずかしいのですけれども。
「うーん、変に生々しい夢でしたわね」
夢の内容を思い出す。私は夢の中で大人の男性でしたわ。
「変な趣味に目覚めたかしら……」
大人、それも中年と呼ばれるような男というのは、いないとは言いませんが極めて稀で、私も当然会ったことがありませんわ。
「シャルの天国みたいな夢だったわね……」
シャルというのは、そういう創作物が大好きな私の友人。年を重ねた男性と、早熟な女性の絡みが大好きな変態さんだけど、それ以外は非の打ち所のない女性ですわ。
「あれさえなければお相手に困ることも無いでしょうに」
とはいえ本人は特に気にしている風もないのだから、よけいなお世話というものですわね。ご両親は大変でしょうけど。というのもシャルはこの国で二つしかない頭爵家のひとつであるボタン家の長子。子をなさないまま成人を迎えているので後はお相手を見つけてお家を継ぐだけ……なのに、シャルの希望が「大人の男性」だもの。無茶苦茶だわ。
「ていうかこれ……ゲームで見た奴……」
自分でも何を言ってるかわからないけど、夢と現実がごっちゃになってる気がしますわ。ゲームも、パソコンも、テレビも、ここには無いものですし。クレジットカードというものも。でも夢の中の私はそれらを当たり前に使っていて。そして一番の問題は
「あれがただの夢だと思えないことと……ゲームで見た未来よね」
外はまだ暗い。いつもならこんな時間に目覚めてもすぐに寝直すのだけれど、さすがに変に目がさえてしまってるわ。なので少し記憶を整理しましょう。夢の中の私がプレイしていたゲームは最近通い始めた学園が舞台で、主人公は二年で編入してくる転校生。すてきな男の子と結ばれるのが目的のゲームですわ。私は……悪役令嬢と言うのかしら。要するにお邪魔キャラね。それにしても使ったことのない言葉がすらすら出てくるわね。あれはやはり夢というより、そのように生きた記憶、つまり前世の記憶というものなのかしら。
「それにしても……転校生の設定、本気かしら?」