7.会員2号
いきなり現れた女の子。彼女の纏う白衣の下には、セーラ服が見える。
多分うちの学校の生徒だろう。というか、他校の生徒が理科室に入ってくるわけがない。
口ぶりから察するに、恐らく先輩だと思われる。
「あの、どちら様でしょうか」
「ふむ、人に名前を聞く時は、まず自分から名乗るべきではないか?」
いや、別に名前聞いてないし。やっぱりめんどくさいことになりそうだ。
「えっと、僕は――」
「いや待て! 当ててみせよう! 超常現象研究会の会長である私が当てられないはずがない!」
うわぁ、何この人……。
「そうだな、君はあの高遠樹と幼馴染のようだな。このことから推理するに、君の名前は……」
樹は校内でも有名人みたいだ。
そう言えば中学の時も、先輩とか、後輩とかからも告白されたって樹が言ってたっけ……。
「北村和也だ!」
「違います」
「うむ、ならば石井聖太だな! どうだ、当たっているだろう!」
「違います」
誰だよ、その2人。掠りもしていないじゃないか。
「片貝です。片貝巧と申します」
「おしい!」
「おしくないです」
彼女は相当電波な人らしい。こういうキャラの人って、漫画やラノベだけの存在だと思っていたけど、実際に目の前にすると扱いに困る。
相手にしていると、ご飯を食べる時間がなくなってしまうだろう。適当なところで見切りをつけて、お暇することにしよう。
「私は、2年C組の栗川留美奈だ。超常現象研究会の会長をしている」
「そうですか……。じゃあ僕はこれで――」
「待ちたまえ!」
だが、栗川先輩に呼び止められてしまった。先輩には逆らえないのは1年生の悲しいところである。
「何でしょうか?」
「話しは聞かせてもらったと言っただろう。さきほどの話しは、片貝くん、君の超能力が関係している」
とうとう、栗川先輩の口からオカルトな単語が出てきた。しまいには宇宙人とか言いだしそうだ。
「なんで超能力が関係していると思うんですか?」
「それはだな……勘だ!」
「失礼します」
付き合っていられない。昼食の弁当は教室に置きっぱなしなので、僕は戻らないといけないのだ。
しかしどうしよう、これで先輩に目を付けられるかもしれない。まあ、女の先輩だし、放課後に屋上に呼び出されることなんてないか……。
「待って! お願いだから待って! 話し聞いてよ! 学食奢ってあげるからぁ~!」
「ちょっ!」
涙目の栗川先輩から、腕を掴まれる。これでは逃げるに逃げられない。
「わ、わかりました。聞きますから、手を離して下さい」
「ふむ、ならば聞かせてやろう」
栗川先輩の態度は一変し、また強気なものとなった。
この人……。
「
私は物心ついた時から超常現象、超能力と言った科学では説明できないものについて研究していた。
しかし、それらの存在はテレビ、ネットではよく見かけるが、私は直接見たことがなかった。
私も1度、凡人達と同じようにそれらは存在しないと、考えたこともある。
だがある時私は気付いた。私達はそれらを目の当たりにしてはいるが、認識できていないだけなのだと。
そう、それは才能というものを隠れ蓑にして、私達に当たり前だと思わせていたのだ。
片貝くんは疑問に思わなかったか?
高遠樹は成績優秀でスポーツ万能だ。されど、彼は勉強はおろか運動も普段からあまりしていないと私は聞いている。
勉強はともかく、筋肉を付けるとなれば運動は必須だ。
にもかかわらず、彼の肉体には長年鍛えつづけてきた人間と同程度、もしくはそれ以上の筋肉がある。
つまり、これは運動をしなくても筋肉を手に入れられることが超能力だと言っても過言ではないのだ
」
「なるほど……」
言われてみればそんな気がする……。
確かに、樹はあまりサッカーの練習はしていない。僕の知らないところで体を鍛えているのかもしれないが、それにしたってずば抜けている。
何で栗川先輩が樹のことをそこまで知ってるのか、疑問に思うところではあるものの、それを聞くと話が長くなりそうなので黙っておくことにしよう。
「さきほど片貝くんの超能力が関係していると言ったな。さて、片貝くんの超能力についてだが、これは恐らく彼氏持ちの女性にのみ働くものだろう」
「はぁ……」
「君の超能力とは、彼氏持ちの女を誘惑するものなのだ!」
栗川先輩はキメ顔だった。
いや、僕が超能力で涼乃を誘惑してるとか言われても困るし。それだと、僕はどうしようもできないじゃん。
「何かその超能力の発動条件とかあるんですか?」
「ふむ、彼氏持ち以外で条件があるとするならば、幼馴染であると言うことだろう」
限定的過ぎないですかね? その超能力。
「じゃあ、涼乃の不可解な行動は全て僕の超能力が原因だったんですね」
「その通りだ!」
「教えてくれて、ありがとうごさいます。これからは超能力が発動しないように気をつけます。では、今度こそ失礼します」
「待ちたまえ、会員2号!」
流石にこれ以上は待てない。それに会員2号って何?
「学食を奢ると言ったではないか。君は私との約束を破るのかい?」
親しげに栗川先輩がそんなことを言ってくるが、僕はさっき彼女と出会ったばかりだ。
「学食でこの入会用紙を記入してもらう。それで君は晴れて我が超常現象研究会の会員となる」
「嫌です」
「ね、名前だけ貸してくれない? 学校から同好会認定してもらうためには、会員が2人以上いないといけないの。お願い!」
やっぱりこの人……。
結果から言うと、僕は栗川先輩のお願いを断ることができなかった。
せっかく作った弁当は、夕食へと持ち越しとなってしまった。
腹いせに学食で一番高いメニューを選んでやった。栗川先輩は顔をしかめていたけど、知ったことではなかった。
僕は得体の知れない同好会に所属することになってしまったのである。