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3.腹が立つ

 あれから僕は、涼乃と樹と関わることがなくなった。教室で会ったら、挨拶をする。それくらいだ。


 クラスの中でも、2人が付き合ったことは噂になっていた。――とうとうあの涼乃と樹がくっついたのかと。


 2人は幼馴染で美男美女、お互い気心の知れた間柄。2人が付き合っていないことに疑問を覚えたクラスメイトも多い。

 まあ、そのせいで僕が2人の関係の邪魔をしているなんて根も葉もないことを言われたんだけどね。


 2人と疎遠になったことで僕の環境にも変化が訪れた。


 まず、涼乃と親しいことで僕にヘイトを向けていた男子がいなくなった。代わりに樹が更に嫌われた。


 次に、僕は2人以外のクラスメイトともよく話すようになった。


 今まで誰も僕に声をかけてくることはなかった。男子も女子も。天上人とも呼べる幼馴染2人が傍にいたことで、どうやら僕に話しかけづらかったらしい。

 

 だからなのかもしれないが、平凡な僕の方が人によっては親しみやすいみたいだ。


「片貝、今日ゲーセン行かね?」


 僕にそう言ってきたのは、席が隣の川中透(かわなかとおる)くん。


 高校に入って涼乃と樹以外からの初めての遊びの誘い。僕に断る理由はない。


「いいね、行こう」


 向かったのは駅の近くにあるゲームセンター。

 駅の近くには一本道の商店街があって、平日でもそこそこ賑わいがある。


 昔なつかし、店主が大声で宣伝している八百屋や、最新のスマホを取り扱う携帯ショップなど軒を連ねる店は様々だ。

 目的のゲームセンターもこの商店街の中にある。


 道を歩く人もまたそれぞれだ。夕飯の材料を買いにくる主婦や、仕事帰りのサラリーマン、学校帰りの学生もこの商店街を利用する。



 ――――。



 その中で一際目立つ男女がいた。


 指を絡めて手を繋ぎ、仲の睦まじさが伺える。

 眉目秀麗な男、容姿端麗な女、まさに理想のカップルだ。


 涼乃と樹だった。


 2人はこちらに気付いてはいない。歩きながら何やら楽しそうに話しをしている。


「……」


 何だか気分が悪くなってきた。

 2人のことなんてどうでもいいはずなのに。


 これから川中くんと遊ぶのだ。このままではいけない。


「どうした?」

「なんでもない。早く行こう」


 2人を見ていてもあまりいいことはなさそうだ。




 僕達はそそくさとゲームセンターへ入った。


 ゲームセンターにはクレーンゲーム、メダルゲーム、プリクラもあれば、アーケードゲームもある。


 クレーンゲームとメダルゲームはお金がかかるから却下。プリクラも男2人で撮るのは恥ずかしい。


 最終的に選択肢として残るのはアーケードゲーム。僕はその中でも格闘ゲームが好きだ。


 涼乃か樹と対戦すると、容赦なくボコボコにされてしまうけれど、2人以外になら僕でも勝つことができる。


「これにしない?」


 選んだのはコンボ重視の格闘ゲーム。


 1度コンボを決められるとなかなか抜け出せないのだが、それだけに最初の一撃をどう当てるのかが重要になってくる。

 その一撃一撃を読み合うのが面白い。


「へぇ、片貝って格闘ゲーム好きなんだな」

「まあね」

「意外だな、こういうゲームなんてやらないかと思ってた」

「そうかな?」

「何たってあの高遠くんと大和さんの幼馴染だからな。片貝は2人みたいに真面目な奴に見えた」


 ある意味僕は、涼乃と樹によってベールに包まれた存在になっていたのかもしれない。


 それに2人も真面目かと言われると、そうじゃない。学校での2人は優等生。だから真面目――優等生 = 品行方正のイメージがあるせいか――と勘違いされたのだろう。


「まあ、俺はこのゲーム、シリーズ通してやり込んでるから、財布が空になっても知らないぜ?」


 川中くんが筐体の脇から、顔を出してどや顔で僕を煽ってくる。


 望むところだ!

 僕だってこのゲームはやり込んでる!

 簡単には負けないぞ!


 ………………。


 僕の圧勝だった。


 川中くんはというと気の毒なほどに連コインしている。

 対戦当初、積み立ててあった100円玉のタワーは崩壊し、今はみる影もない。


 おかげで僕は、ワンコインで長い時間ゲームを遊べている。


 対戦中に僕がコンボを決める度に川中くんが「あっー!」と叫ぶものだから面白くて仕方ない。


 ゲームとは言え、勝てるのは嬉しい。負けてばかりの僕にとって、人に勝つということ自体貴重なのだ。


「ちょっと両替してくるわ」


 とうとう100円が尽きたらしい。


 流石にお金を使わせすぎてしまった。あとで何か奢ってあげよう……。


 待ってる間、僕は一人でCPU相手に無双していた。


 CPUは人と違ってろくにコンボもしないし、ガードも下手、負ける要素がない。実に退屈だった。


 川中くんは両替ついでにトイレにでも行ったのか、中々戻ってこない。


 ――Here Comes New Challenger!


 乱入を知らせるメッセージが、画面に表示される。


 川中くんだろうか?

 でも無言で乱入してくるって……。


 乱入者はキャラクター選択画面でこのゲームの主人公の男キャラを選んだ。


 おそらく川中くんではない。


 川中くんは女キャラを使う。キャラクターだけで判断するのは短絡的かも知れないけど……。


 ――Fight!


 対戦が始まる。


 開始と同時に相手は猛攻をしかけてきた。


 僕はガードすることしかできない。反撃したいところだけど、攻撃が止まない。


「あ」


 亀のように縮こまっていると、中段を入れられ袋叩きにされてしまった。


 ――Perfect!


 僕は一回も相手にダメージを与えることができずに負けてしまう。


 結局その後のラウンドも何もできないまま3たてされ、ゲームオーバーとなった。


 僕の100円を奪ったのはどんな奴なのか、顔を見てやろうと反対側の筐体に行くと――


「巧じゃん! 巧もここに来てたの?」

「お、対戦相手って巧だったのか。なるほど、ガードが固いわけだ」


 会いたくないはずの幼馴染がいた。


 なんだよ……。

 なんでデートで格ゲーなんてやるんだよ!

 ラブコメよろしくプリクラでも撮ってればいいだろ!

 不愉快だ、全く……。


「わりぃ、片貝。遅くなっちまって……あれ?」

「えっと、同じクラスの川中くんだよね? 巧と遊んでたの?」

「はい、そうです」


 やっと戻ってきた川中くんは、カーストトップの涼乃に話しかけられたじたじだ。彼氏の樹もいるせいか、気まずそうにしている。


「あ、そうだ!」


 涼乃が手をポンッと叩く。


 ――嫌な予感がした。


「せっかくだし、みんなで遊ぼうよ!」


 は?


 樹とデートしているのだから、樹とだけ遊べばいい。別にみんなで遊びたいなら、わざわざデート中ではなく日を改めればいいものを。


 涼乃の考えていることがよく分からない。樹もきっと嫌だろうに……。


「ご、ごめん。俺用事あるの思い出したから帰るわ」


 川中くんはそう言うと、逃げるようにゲームセンターから出ていってしまった。


 やっぱり川中くんは嫌だったようだ。


 僕と川中くんは陰キャと呼ばれるタイプの人間。涼乃と樹は正反対の陽キャ。


 それほど親しいわけでもない2人と遊ぶのは、川中くんにとって苦痛以外の何物でもないのだろう。


「あ、今日買い物あるんだった! だから僕も帰るね」

「待って!」


 僕も適当な理由をつけて帰ろうとすると、涼乃から腕を掴まれた。


「なに?」

「私達、最近あんまり話しとかできてなかったでしょ? ちょっとだけでいいから付き合ってよ」


 それを彼氏の前で言うか?


 話をするのはいいとして、何を話すつもりなのか皆目見当がつかない。


 案の定、少しだけ樹もむすっとしている。実際、樹からしてもあまり気分のいいものじゃない。


 これじゃあ、僕がデートを邪魔しているみたいじゃないか。邪魔をしてきたのは2人の方だというのに……。


「いやだ」

「そんなこと言わずに、ね?」


 あー、腹が立つ!

 一体何がしたいんだ?


「いい加減にしろよ! 帰るって言ってるだろ!」

「ごめん……」

「んじゃ」

「待てよ」


 涼乃の手を振り払い、帰ろうとすると今度は樹から制止される。


「そんな言い方ないだろ? 涼乃も悪気があったわけじゃない」


 はいはい、そうですか。悪気がないから何をやってもいいんだね。


 ただでさえ川中くんと遊べなくなったのに、悪者扱いかよ!


「うるさいな! どうせイチャイチャしてるとこ見せつけたいだけだろ! そんなのならお断りだね!」

「そんなつもりじゃ……」


 僕は2人を無視して1人で家に帰った。


 その日は最悪の気分で夜を過ごす羽目になった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] いい感じに歪んでるところが最高です。
[一言] そのまま川中くんを追いかけたんだろうか?川中くんの方がヒロインだ…… 幼馴染の父親Aさんと父親Bさんがいて、AもBも母親の元カレだったってこと? てか、どう考えても負け組女の遺伝子VS勝ち…
[良い点] グダグダ流されずに、ハッキリと自分の意見を言い行動できる主人公素晴らしい。 [一言] 父親達は主人公母と付き合った後、寝取られて現在まで上手く行っている=ヒロインも一旦付き合ってから寝取っ…
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