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1.劣等感

 身近に自分より遥かに優れた存在がいる人間は――特に僕――とても不幸だと思う。


 劣等感に苛まれ、努力しても報われないと考えたり、ひねくれて努力すら止めてしまうことだってあるだろう。


 何より周りからの評価がえげつない。必ずと言っていいほど比較されてしまう。


 自分がいくら結果を出しても全てが霞む。

 勉強にしてもスポーツにしても遊びにしても、麒麟児の生み出す結果と凡人の生み出す結果には天と地ほどの差がある。


 僕、片貝巧(かたかいたくみ)にはそんな天から二物を与えられたような幼馴染が身近に2人いる。


 一人は、大和涼乃(やまとすずの)


 物心ついた時には、涼乃とは友達になっていた。彼女といつどこで出会ったか、もう覚えてはいない。


 涼乃は僕より成績が圧倒的にいいのに、何故か上を目指さず、本来合格できるはずの学校よりランクの低い――僕と同じ――高校に入学した。


 そのこともあってテストでは常に学年1位か2位を取っている。


 僕は得意教科ですら、涼乃の苦手教科の点数を上回ったことがない。


 これだけなら、ただのガリ勉なだけだと考える人もいるかもしれない。


 でも、そうじゃない。


 涼乃が勉強時間は少ない。宿題だけやったら、後は全て自由時間らしい。自分の勉強は後回しにして、僕に勉強を教えてくる始末だ。


 それに涼乃は絵を描くのが上手い。

 美術の評価は5、もちろん五段階評価での話だ。コンクールでも数えられないくらい賞をもらっている。


 女子となれば、男子の皆が気にするのはその容姿。こちらはどうなのかと言うと……。


 飛び抜けていた。


 地毛なのか、染めているのかは分からないが、髪の色は茶色。肩の近くまで伸びてフワフワとしている。


 キラキラとした瞳に付属した睫毛も上向きに綺麗に整えられている。


 顔のパーツの一つ一つが一級品で、ケチの付けようがない。


 だから涼乃はモテた。兎に角モテた。


 ただし、涼乃に告白した男子達は漏れなく玉砕している。


 どうやら涼乃には好きなやつがいるみたいだ。それを理由に涼乃はいつも交際を断っている。


 ちなみに玉砕した男子達の中に僕は含まれない。僕が告白したところで結末は分かりきっている。


 そもそも、涼乃は僕のことを異性として見ちゃいない。


 たまに涼乃の家に遊びに行くのだが、僕がいる前で下着姿になろうとしたことだってある。僕の気持ちなんて知らずに。


 仮に付き合えたところで僕と涼乃では釣り合いが取れず、すぐに破局してしまうだろう。


 それに涼乃が好きなのは、恐らくもう一人の幼馴染の高遠樹(たかとおいつき)


 樹は涼乃に近寄る男はブロックしつつも、さりげなく自分のことを涼乃にアピールする強かな男だ。


 学業の面でも涼乃に負けていない。試験では毎回一進一退の攻防を涼乃と繰り広げている。


 容姿に関しても言わずもがなイケメンだ。それに背丈も、僕より顔一個分くらい高い。


 しかし、樹は文化的なものでは涼乃に及ばない。代わりに運動能力が非常に優れていた。


 スポーツといっても多種多様ではあるが、樹はどの体育の授業でもその才能を遺憾なく発揮する。彼の雄々しい姿を見たクラスの女子達は、いつも黄色い声を上げている。


 樹も涼乃同様、女子から何回も告白されている。もちろん樹は全部断っていた。


 告白した女子の皆、樹が涼乃に好意を抱いていることを知っている。だが、気持ちの整理をつけるために、フラれることを覚悟した上で告白するらしい。


 何でも、女子の間では誰が告白するか順番が決まっているのだそうだ。順番を守らないと村八分にされてしまうのだとか。全く、恐ろしい話だ。


 アイドル並みに女子から人気の樹だか、さりとて男子達からはそれほど人気がない。


 当然と言えば当然。しかし、仲の良い男子がいない訳でもなく、所属するサッカー部では1年生ながらにしてレギュラーを獲得している。


 それを鼻にかけていないのだから、まさに涼乃にふさわしい男と言えるだろう。


 僕はそんな2人と幼稚園の時から高校まで同じ。果てはクラスまで一緒だ。


 2人はクラスでもカーストのトップ。クラス自体が2人を中心に回っていると言っても過言ではない。


 ただ、正直言うと僕は――。



 二人のことが苦手だ。



 別に嫌いという訳じゃない。


 ただ、2人がいることで僕はいつも周囲の人間と比べられてしまう。


 涼乃の幼馴染というだけで、涼乃より勉強ができないと馬鹿にされる。また、涼乃と親しいせいで男子から妬まれる。


 樹の幼馴染というだけで、樹より運動ができないと馬鹿にされる。また、樹と親しいせいで女子から「高遠くんの足を引っ張っている」と言われる。


 もし、2人の性格が悪ければ僕はどれだけ救われただろうか。


 何でもできる上に、性格までいいから質が悪い。尚更人間としての格の違いを思い知らされる。


 2人は僕を決して見下したりはしない。僕と対等に接してくれる。


 けれど、2人の内どちらかはいつも僕の傍にいて、僕を守ってくれる。まるで保護者のように。


 同じ時代に生まれ、同じ時を過ごしたと言うのに僕との差は歴然。


 僕は何1つ2人に勝てない。勝てるものがない。


 僕が何か秀でて2人に勝るものがあれば、きっと今みたいなおんぶ抱っこのような関係になっていない。


 そんな僕は2人の庇護の元、表面上は楽しい高校生活を送っていた。


 僕のコンプレックスは2人に隠して――。



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