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7、地雷原の真ん中で俺の天使はひとりだけ

 ユージンは基本的に争いが嫌いだ。


 切った張ったの刃傷沙汰はもちろん、子供の口喧嘩だって見たくない。平穏とは優しい心から生まれるものなのである。なのにたどり着いた集会場では、早速問題が発生していた。


「俺はこんな大勢人がいる場所じゃ眠れないんだよ。分かるだろ」


「それなら私だって同じ。それにあなたは彼に好かれていないと思う」


「2人ともいい加減にしなさい。自分たちが楽をするためにこれ以上彼に迷惑をかけるべきじゃないわ。私が行って、彼の家の家事を手伝います」


「「あざとい」」


「な、なにがよ」


 上から順にマツダ、紅、冬子である。三人は今、誰がユージンの家に泊まるかで揉めているのだ。


 村の人に手伝ってもらい、今晩泊まるための最低限の着替えや寝具を集めたのだが、なにぶん宿屋もない小さな村である。客人や旅人だって滅多に来ない。だから足りなかったのだ。


 布団が。


 さすがに床で寝るのも気の毒なので、我が家のソファーを寝床として提供すると申し出たところ、真っ先にマツダが名乗りを挙げた。


「なら俺だな。まあ農民の家じゃあウチの高級寝具のようにはいかないだろうけど、ここよりはマシだろ」


(いや、お前だけは絶対ないよ?俺だってさすがに自分の家に招待する人間は選ぶからね)


 すると今度は紅がマツダを遮った。


「あり得ない、あなたが行けば必ず揉める。だったら私が行く方がマシ」


(おお、俺のマツダへの嫌悪感を察して名乗りを上げ・・・・・・)


「それに異世界の生活や人間にも興味がある。研究心をくすぐられる。私が行って彼の部屋を漁っ・・・・・・じゃなくて情報を集める」


(・・・・・・・たわけじゃなさそうだ。もしかしてコイツも平穏を崩す地雷なんじゃなかろうか)


 そこに冬子が割り込んでくる。


「もう、自分たちの都合を押し付け合わないの。喧嘩になるくらいなら私が行きます。お……男の子の家にお泊まりなんて恥ずかしいけど」


(うーん、確かに発言を聞く限りいちばんマシな気がするけど)


「冬子、常識人のフリして自分を売り込むのは腹黒い。冬子だってユージンの家に行ってみたいだけ」


「なっ、別に私はそんなつもりじゃ!」


「浩介も私も冬子が腹黒なのは知ってる。そういう所も面白いから好きだけど今回は譲れない」


(美少女、心の中は真っ黒なのか。異世界ってのは地雷原だな)


 延々と続く口論は、ただでさえ疲れ果てたユージンの心身を確実に追い込んでいた。

やっぱり泊めるのはよそうかな。そう思い始めた時だった。浩介がループしている会話を止めに入る。


「おいおい、ユージンの家だぞ。ユージンが決めるのが筋だろうが」


(浩介よ、俺は信じてたぞ。真のイケメンは心も男前だってな)


 すると凄い勢いで三人が詰め寄ってきた。


「命の恩人たる俺だよな!」


「私のは私情じゃない。純粋な研究心」


「私なら炊事洗濯手伝うよ!?」


(うーん、マツダは論外。紅の純粋な心は多分純粋だからこそ人としてアウトなやつ。となると冬子だが、何か目が怖いんだよな)


 結論を出すのに時間は掛からなかった。


「じゃあ浩介で」


「「「えぇっ⁉︎」」」


「いや、マツダは絶対うちに来たって満足しないだろうし、やっぱり異性を家に泊めるのも気がひけるからさ。その点浩介なら気も合いそうだし」


 さすがに家主の決定には逆らえないのか、3人はそれ以上押してはこなかった。

だが、マツダは苛立たしげにこっちを睨みつけてくるし、紅は浩介によく分からない瓶とピンセットを渡している。


 そして冬は小声で何かボソリと呟いた。

「 …… こんな美少女の誘いを断って男を選ぶなんて、BLか?」


(何かマジで腹黒い呟きが聞こえて来た気がするが、心の平穏のために聞かなかったことにしよう)


「そうだね、ユージンくんが決めたんならそれでいいと思うわ。浩介なら変なこともしないでしょうし!」


 ユージンは笑顔て言う冬子を心の中でそっと地雷認定した。心の中まで清いのは浩介だけだった。ちなみにユージンにBLの気は決してない。


「そうか、悪いな3人とも。俺は家事は得意じゃないけど力仕事なら任せてくれ。よろしくなユージン」


 差し出された浩介の手を握って、ユージンは自分の決断の正しさを確信した。三重に響いた舌打ちがその証拠であある。こうしてユージンは集会場に他の異世界人を残し、浩介と二人で家路に着いた。


 長い1日だった。


 バタバタしていて気付かなかったが、既に辺りは真っ暗である。振り返ると、普段は静かなはずの集会場に灯った明かりが見える。見慣れた村の見慣れない光景を眺めて歩くと、普通ではない事が起きているのを強く実感するのだった。



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