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異世界転移 された方はたまったもんじゃありません  作者: あいば村
王立学院編 (入学)
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25、ガルベスくんの完全なる勝利

 夏の熱風が吹き込んできて訓練場の土が捲き上る。


 ガルベスは腰のベルトにナイフをいくつもさしながら、勝利を確信していた。盗賊如きに泣いて命乞いをした農民など、自分の敵ではない。


 なんといってもガルベスは、Cクラスの戦闘科でさえ黒星をつけられたことがないのだ。チンケな盗賊など眼中になく、ひとつ上のBクラスの連中にだって8割方勝てると思っている。その思いは、農民の剣を振る姿を見て確信へと変わった。


 なんだよあの無様な姿は、あんな奴に負けるはずがねえ。


 既に頭の中には、自分が勝利した後の姿が浮かんでいる。まずは呼び名だ。これから卒業まで使える便利なパシリが出来る。ポチがいいかブタ野郎がいいか。


 ガルベスはある意味、典型的なCクラスの生徒である。


 地方の下級貴族の家に生まれ、幼い頃から周りが苦労する事でも簡単にやってみせた。勉強も運動も躓いたことなどなかった。常にトップに立ち続けてきたのだ。


 褒められ続けた彼は、己がギフテッドであると知った瞬間に確信に至った。自分は人より優れている。だから劣っている他人を使うのは、当然のことなのだ。


 だがその確信は、学院の入学試験を受けるために訪れた都で崩れ去る。ガルベスは自分が頂点ではない事を、初めて知ったのだ。


 Cクラスに配属になったと知った時、初めにガルベスが覚えたのは怒りだった。何故自分がトップではないのか。その苛立ちで、家の家具を片っ端から壊して回った。


 けれど実際にSクラスの面々を目の当りにすると、いくらガルベスでも認めざるを得なかった。


 BクラスやAクラスの生徒と己を見比べれば、教師に見る目がないだけだとウソぶける。


 しかしアイツらは、生物としてのスペックが違いすぎる。


 初めて自分より上の存在を知ったガルベスは、毎日を苛立ちとともに過ごすことになる。何もかもが気に入らない。トップにいるはずの自分が、学院内では中間層に位置するCクラスに入れられた事も、それを聞いて、今まで自分の子分面してへこへこしていた地元の奴らがざまあみろと、嘲笑っていることも。


 しかし己より格上の存在を自覚してなお、ガルベスには努力して上のクラスを目指すという発想が抱けない。周りと比べて常に、必要なことは人より先に覚えてきた彼は、今まで努力などしたことがないからだ。


 やり場の無い怒りはガルベスや、よく似た境遇の者を荒れさせた。王都に観光に来ていた地元の知り合いを、ギフトを使って叩きのめしたのである。きっかけはやはり、蔑むような嘲笑の視線だった。


 その事件のせいで、ガルベスと暴行に関わった2名の生徒は、罰としてNクラスへの降格処分を受けることになった。


 ふざけやがって、俺はBクラスの奴らより強いんだ。それが獣やオカマのいる最底辺のNクラスだと。ガルベスの中には消化しがたいドロドロとした感情がしこりのように折り積っている。その反動が残酷な欲求となって噴き出す。


 そうだ、農民をパシリにした暁にはあの獣を虐めさせてやろう。なに、今は庇っていても構わない。まずは徹底的に痛めつける。教師が認めてるんだから奴は逆らえない。


 自分の思いつきにガルベスは満足した。それは実に冴えたやり方のように思えた。


 そこで言ってやるのだ、クエロを虐めればお前は助けてやるとな。あの女は獣のくせに、ちょっと顔がいいからといってガルベスを邪険に扱いやがった。自分を馬鹿にする奴は許しちゃおかない。クエロの心が折れたら許してやってもいい。その時はアイツも支配下だ。


 既に必勝のパターンは仕込んである。これから先に起こる愉快な未来を想像して、ガルベスは清々しい気持ちのまま開始の合図を待っていた。


 試合の時間はすぐそこまで迫っていた。相手は見慣れない剣を持ってボサっと立っている。素人のくせに生意気にも自前の武器を持っていたことが、ガルベスの神経を逆撫でした。苛立ちが余計に募って、それは殺意にまで近づいていた。


「それじゃあくれぐれも殺さないようにな。あたしの竹刀が地面を叩いたら開始だ」


 教師が宣言する。知るか、さっさと始めろ。


「おい農民。今なら痛い目見ずにパシリにしてやるぜ?」


「遠慮しとくよ、俺も一応勝つつもりなんでね」


 はやるガルベスとは対照的に、のんびりとした口調だった。とことんガルベスの神経を逆撫でする態度だ。さっきの体たらくで、なぜこんな馬鹿なことが言えるのか。


「あー、男が拳で語る前に下らねえ口喧嘩すんな。それじゃ用意はいいな」


 竹刀が振り上げられる。腕に力がこもった。その切っ先が地面の方へ向く直前で、ガルベスはユージンに向かって剣を構えて突進した。


「くたばれ!!」


 合図はまだだが農民の体に触れたわけではない。これは反則にはならないはずだ。


 農民はまだ剣を抜いてすらいない。鞘を握りしめて中腰のまま突っ立っている。


 ギフトを用意するまでもなかったか。だがガルベスは念のために、ギフトを発動させる。


 誰かが悲痛な声で叫んでいるのが、耳に心地良い。


 勝った!


 ガルベスは自分の完全なる勝利を確信した。


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