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異世界転移 された方はたまったもんじゃありません  作者: あいば村
王立学院編 (入学)
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24、クラス

 クエロは不安な気持ちで、学院で初めて出来た友人の背を見つめていた。口をつぐんで見送ることしか出来ないことがもどかしい。罪悪感で胸が張り裂けそうだった。


 どうしよう、ボクを庇ったからこんな事になっちゃってるんだ。


 前の授業でのユージンの素振りを思い出して、クエロの中で焦りはいっそう増してくる。おまけにユージンが手に取ったのは、見慣れない形の剣だった。とてもガルベスに勝てるとは思えない。


 やっぱり今からでも止めるべきかな。ユージンがあんな奴の手下になるくらいなら、ボクがイジメられる方がマシだ。


 悪い想像ばかりが募って、クエロは隣に立つキャシーを見上げた。


「ねえキャシー、ガルベスって強いの?」


 ふにゃふにゃの情けない声が出る。少しでも不安を和らげたくて、この場で唯一のユージンの味方に縋りついた。


「そうねー、ガルベスちゃんってやる事は小物感満載だけど、あれで結構強いわよ。Cクラスでも上から数えた方が早いでしょうね」


 和らげるどころか不安は大きくなった。強いということなんだろうか。


「ボクいままで、どうせ別のクラスに行けるわけないと思ってたから、クラス毎にどのくらい能力が違うのか分かんないんだけど」


「そうね、まず前提としてこの学院に入れた時点で十分に凄いと思って聞いて頂戴」


 クエロの疑問を、キャシーは丁寧に説明してくれる。


「学院はSクラスからNクラスまで、全部で20クラスに分けられているの」


 成功を約束されたピラミッドの頂点がSクラス。生徒会長のクロフォードや、ユージンの友達の異世界人がいるクラスだ。それから超人の集まりであるSクラスを除けば、天才の集まりといえるAクラス。ポテンシャルは十分な秀才たちの集まるBクラス。


 キャシーはひとつづつ指を折りながら説明を続ける。


「そしてその下に位置するのがCクラスよ。通称『コモンクラス』だったかしら。まあ本人たちはその呼び方嫌いみたいだけど。ガルベスちゃんに言ったらたぶん怒るわね」


「どうして?たしか普通とか一般って意味だよね。嬉しくはないだろうけど怒るほどかな」


「他の学校に行けば十分エリートとして通用するからよ」


 ギフテッド専門の学校は、アプレンデール学院だけというわけではない。しかし王国内に散らばる多くの学校が、身も蓋もない言い方をしてしまえば、アプレンデールの入試に落ちた生徒の受け皿なのだとか。


「つまり入学が決まった時点で、王国の中の上位数%の才能ってことなんだ」


 クエロは獣人の国からの留学生なので、彼らと同じ入試は受けていない。キャシーはよく出来たクエロの解答に微笑む。


「でも学院の外から見ると、S ・A ・Bの3クラスまでがエリートって認識みたいでね。CクラスからEクラスまでは普通と思われているから、余計にムカつくみたい。Fクラスの「フールズ」とアタシたちNクラスは論外だけどね」


「自分たちは入試で落ちているのに?」


「喉元すぎれば忘れるのよ。やっぱり派手に新聞に載るのは上位クラスの子達だしね」


 キャシーは呆れたように言うが、クエロにはそう思いたい他の学校の生徒たちの気持ちも少しだけ分かった。


 どれだけいい成績を残しても、アプレンデールの下位クラスより劣っていると思えば辛くなる。天下のアプレンデールと言ったって、トップが優秀なだけでそれ以外は自分たちと変わらない。そんな風に考えていたいのだ。


 それはクエロが落ちこぼれだから分かるのであって、キャシーには伝わらないだろう。だからあえてクエロはなにも言わなかった。かわりに同級生を不思議な目で見つめる。


 キャシーには謎が多い。ユージンが来るまで積極的に話すことはなかったが、それでも一度もクエロを蔑んだ目で見たことはなかった。


 成績だって悪くないし、ギフトの能力も抜きん出ている。それでも留年したのは、長い間入院していて出席日数が足りなくなったという噂だ。しかしそれだけでNクラスまで落とされる理由になるだろうか。まさか奇抜な見た目のせいということもないだろうけど。


「それじゃあCクラスでも、他の学校の生徒と比べればエリートなんだ」


「でも卑屈なプライドが高くて攻撃的なのが多いのよ、あそこ。アタシ個人的に1番嫌いだし。やーよね、プライドばっかり肥大化しちゃって。上を見ると天才揃いなもんだから表立っては言えないもんで、どんどんネジ曲がっちゃうんだわ。井の中の蛙大海を知らずよね」


「そう言われれば、獣人だからってボクに嫌なこと言ってくるのはCクラスの人が多かった気がする。逆にそれより上のクラスになると、上流階級の貴族とかが多くてボクにはあんまり興味を持たないんだ」


「でしょ?他人にどう思われるかとか、下らないことが気になるのよあの子達。まあ全員とは言わないけど、やっぱりクラスごとに特色は出るしね。うちに来なきゃ地元で十分天才児で通るでしょうし」


「生まれた時からずっと落ちこぼれのボクにはピンとこないけど、学院に来る前は天才とか神童と呼ばれてたなら、普通って呼ばれるのも嫌なのかな」


 クエロは再びユージンを見つめた。すでに訓練場の中央でガルベスと向き合っている。


「ユージンと逆だ。ユージンは普通のつもりだけど全然普通じゃない」


「そうねー。ユージンちゃんってあれで本気で、自分が総人口のど真ん中と思ってるから余計可笑しいのよね」


 思わず口をついた言葉に、キャシーもクスリと笑った。そして話を締めくくる。


「で、以降DクラスとEクラス、Fクラスと続く。最後がアタシたちのクラスってわけ」


「あれ?全部で8クラスしかないよ、それじゃ数が合わないじゃない」


「SクラスとNクラス以外はそれぞれ3つの学科に分かれてるのよ」


 騎士や冒険者を目指す戦闘科。商人や文化人、学者を輩出する研究科。最後の1つはギフトを使った特殊な武器や道具を生み出す、クラフトと呼ばれる職人を目指す工房科。みんなそれぞれ、自分に合った学科を選んで振り分けられるそうだ。


「Sクラスは例外ね。何やらしても出来ちゃう可愛げのない集団だから。あら、やっぱりアタシSクラスがいちばん嫌いかも」


 キャシーが分かりやすく説明してくれたから、大体の事は分かった。でも納得いかない事もある。


「だったらボクらは?どうしてNクラスは学科を選べないのさ」


 クエロが気になって聞いてみると、珍しく真顔でキャシーが逆に尋ねてくる。


「あなた、ウチのクラスの面子がそんな常識的な枠組みに収まると思うのかしら?」


「うん、聞いたボクが馬鹿でした。でもそっか。じゃあやっぱりCクラスのガルベスは強いんだ」


「素行の悪さでCクラス止まりだけど、単純な戦闘力でいえばBクラスの真ん中ぐらいはいけるんじゃないかしら」


「Bクラスって、まさにエリートじゃないか!」


 クエロは驚きの声をあげた。


「そういう意味では、Cクラスを普通って呼ぶのもちょっとだけ可哀想かもね。戦闘科ならそこらの町の衛兵より全然強いと思うし。少なくとも駆け出しの冒険者よりはずっと」


 クエロは嫌な予感がして、自分でも分かってるはずなのに聞いてしまう。そこらの衛兵というが、衛兵だって兵士だ。村の周りに出る異獣や盗賊と戦ってるような人たちなんだ。


 訓練を受けた人間と、それ以外の人間の戦闘力は大きく違う。弱い兵士と普通の兵士より、一般人と弱い兵士の差の方がずっと大きいと思う。場合によっては、0と1の差は1と10の差よりずっと大きい。


「……ねえキャシー。ちなみにガルベスの選択学科ってさ」


 当然のようにキャシーが答える。


「もちろん戦闘科よ。ガルベスみたいなお馬鹿ちゃんにそれ以外あると思う?ギフトも戦闘向きだしね。なかなか初見じゃ避け辛いわよアレ」


 クエロは最後まで聞かずに、修練場の中心に駆け出そうとした。


「ボクやっぱり止めてくる!」


 だってユージンはこの前まで普通に畑を耕してただけなんだ。武器を扱うことのない農民が、衛兵に勝てるわけない。ましてやそれより強いガルベス相手じゃ結果は見えている。


 なのにクエロは腕を掴まれて止まってしまう。なにが可笑しいのかキャシーはニコニコと笑うだけで少しも焦りを見せない。


「なんでそんなに平然としてられるのさ!」


「大丈夫よう、それに今からじゃ間に合わないわ」


 呑気に構えるキャシーに怒りが湧いてくる。


「何だよそれ、キャシーはユージンが心配じゃないの?」


「心配、ねえ」


「このままじゃユージンが、卒業するまでずっと嫌な思いをしちゃうじゃないか!先生が公認なんだ、きっとボクよりも酷い目に合っちゃうよ」


 再び駆け出そうとした時にはもう遅かった。


 キャシーの言う通り、クエロが声を上げるよりも先に、無情にもイリス先生の戦いの開始を告げる声が訓練場の空に響いた。





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