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32、迷コンビ 愛の迷走編

 ユージンは色々諦めた。マツダは人の話を聞かないし、穴熊は混乱している。睨み合う両者を無視して逃げ出すタイミングを測ったほうが、よほど建設的である。身振り手振りで浩介に、この場を離れるようにサインを送る。山に隠れてしまえば、逃げ切る可能性はグッと高まる。


 幸いパニックを起こしている穴熊は気付かない。熱くなっているマツダも同様だ。ちなみにマツダの取り巻きも、普通に勇者を置いて浩介の後に続いている。


「分かった、俺も覚悟を決めるよ。穴熊お前も来いよな」


 ユージンはあえて、混乱の火に油を注いぐ。もうマツダとデキていると思われるのには、目をつぶる方向で動く。心が死ぬ音が聞こえてくる程気持ち悪いが我慢である。


「三つ巴か、面白い」


 そう言って構えるマツダの姿に、ユージンは頭を悩ませた。


(あとはコイツをどう逃すかなんだよなー。俺にとっては害しかなかろうが、流石に盗賊に売り飛ばされるのは気の毒だし)


「何だお前らは、異世界人ってのはみんなこうなのか!?」


 そんなわけがない。そろそろと足音を立てないよう、慎重に浩介が皆を先導する。


「そうだな、おそらく男なら一度は憧れるんじゃないか」


(んー、俺は別に無かったな、勇者への憧れ)


 自分の心を大虐殺することに決めたユージンは、もはやすれ違う会話を楽しみ始めた。その間にも、浩介たちは一歩ずつ進んでいく。


「お、男ならって。普通女じゃないか」


(俺だって女にモテたいわ)


 後ろで動く冬子たちは、まだ穴熊にはバレていない。


「女はあんまりだな。やりたがるのは男だろう」


(お前またグロテスクなことを)


 逃亡はいい調子に進む。


「おかしいだろ!」


 穴熊の中での異世界のイメージがとんでもない物になっていく。会話の調子は最低である。


「むしろ遊びでならみんなやったんじゃないか」


 白熱する議論。


「遊び!?みんなだと!」


 ユージンには別に、同性愛者に偏見はない。でも尻軽は嫌である。


(つーかなわきゃねーだろ。ヤバイものを見る目で見てくんな)


 もう少しだった。このまま浩介たちが逃げ切れば、当初の予定通り囮になって、マツダと別れればいいだろうと、ユージンはアホらしい会話を眺めながら考えていた。


 山の中に浩介たちの姿が消えていこうとしたその時である。マツダは振り返って言った。言ってしまったのだ。勢いよく抜いた剣をユージンに向ける。 





「さあかかってこい農民。この勇者松田の伝説の聖剣が、貴様を切り裂く!」


「お前それ俺が買ってやった剣じゃねーか!」


 誤魔化すことも忘れて、反射的にツッこんでしまったのは痛恨の極みである。


 穴熊は一瞬怪訝な表情をみせた後、冷静な思考を取り戻す。そして他の面子がいない事に気が付いた。視線をさ迷わせたあと、木々の間に隠れようとする獲物見つけ出す。


 穴熊はすぐさまギフトを発動して、浩介たちの前に土壁を作って行く手を阻む。


「貴様ら、くっ、逃すかよぉ」


 バレてしまった。もう少しというところで、またまた作戦は失敗だ。




 マッツダくぅうんーーー





「俺のメンタルの消耗を返せ。男好きのビッチと思われたんだぞ。汚物見る目でずっっっと見られてたんだぞ。普通に家から出なくなるレベルだわ!」


 ユージンにはもはや、遠慮する理由は残されていない。思いの丈をぶつけるべく、マツダに詰め寄った。


「ん、ちょっと待てよ。何でお前が勇者なんだ?」


「だよねーそっちもバレるよねー」


「俺が本物だがらだ。そいつはただの農民の癖に嘘をついてたんだ!」


「もう黙れおまえ」


「農民?じゃあコイツにはギフトはないんだな」


 穴熊は大袈裟に驚いてみせる。だがマツダは気付かずペラペラと喋り続けた。


「ギフトなんてあるわけ無いだろこんな農民に!こいつは俺を殺して勇者の地位を奪うつもりなんだ!」


「何でそういう大事な情報を今から戦う敵に教えるんだ。そんなつもりないわ!俺は平和で普通の暮らしが好きなのに」


 取り巻きを除いた全員が、マツダに引いている。冬子に至っては完全に吐瀉物を見る目だ。だいたい血を流す農民を見てよくそんな事が言えるものである。


「オマエは事態を悪化させる天才かよ」


「成る程。じゃあこの農民を吹き飛ばしたのが勇者のギフトって訳か。凄い威力じゃないか」


 ユージンの眼前には、あからさまにおだてられているだけなのに、満面の笑みに変わるノリノリの勇者が居た。


「お前は褒められるの好きな」


「そうだ、聖なる光を見ただろう。だがまだまだ全力じゃないぞ、70%ぐらいだな!」


 まだ余力のあることを誇らしそうに言う勇者。


「だからそう言う………情報を……」


「成る程、確かに火でも爆発でもない見たことのない光の攻撃だったな。だがそうか、あれで7割か」


 穴熊は知りたいことは全て分かったとばかりに、顔つきを変えた。


「正直アジトを無茶苦茶にしたコイツには少しばかり警戒させられたが……お前なら問題なさそうだ。お前が勇者なんだよな?」


 穴熊に問われて頷くマツダ。穴熊は剣を構える。



「大きな名前にはリスクが伴うんだぜ?」


 舌なめずりしながら穴熊は狙いをつけた。



「走れえええええ!」


 ユージンはマツダの首根っこを掴み、冬たちとは逆方向に走り出した。



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