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31、迷コンビ 愛の再会編

 ユージンは宙を舞いながら、痛みと強烈な既視感に襲われていた。せいぜい数秒程度がやけに長く感じる。地上には目を丸くした仲間の姿。マツダの取り巻きの姿も確認できた。


 穴熊でさえ呆然としている。

 当たり前だ。どう考えても吹き飛ばされるべき悪党は自分である。勇者と思っていた男が吹き飛ばされているのだから、意味がわからないだろう。


 ユージンは地面に落下、転がる。マツダに撃ち込まれたギフトに加え、穴熊に切られた足が痛む。未だ立てないでいるユージンを無視してマツダは声を上げた。


「さあみんな、俺たち勇者パーティが助けに来たぞ!」


(おいこら、学習せんやっちゃな。みんなって俺は。農民って勇者に助けてもらえんじゃないの?)


 ユージンはマツダの行動の真意が分からなかったが、もっと分かっていないのが穴熊である。突然の闖入者に、状況が把握できない穴熊が尋ねた。


「おいおい、勇者パーティーだか何だかんだ知らねえが、どうして勇者の仲間がそいつを攻撃してんだ?」


 穴熊がユージンの気持ちを代弁してくれた。


(うんうん、もっと言ってやってくれ。それにしても勇者の仲間かー。多分まだ俺が勇者だと勘違いしてるな。良かったわ)


 しかしマツダの行動は幾ら何でも意味がわからな過ぎる。するとマツダはそんなユージンを睨みつけて言う。


「どうしてだって?」


(説明しておくれ。勇者が盗賊より農民を優先的に攻撃するって、よっぽどの事情があるんだろう)


「この男は俺を殴ったんだぞ」


(子供か!いや、殴ったけど!俺も悪いけど!)


「しかも勇者の名を騙ってるんだ。勇者の名前を使って盗賊をビビらせて追い払ってたのを見た。戦えば勝てないからってそれを利用する最低な奴なんだよ!」


(……ば、馬鹿野郎。そのシーンを見てたなら今勇者が1番損するポジションだって分かってるよな。頼むから馬鹿なことは言うなよ?)


 すると穴熊が口を挟む。


「ふん、別にコイツが勇者を語っても構わねーだろ。それに名前でビビって逃げ出す奴らなど最初から弱者だ。そういう意味じゃあコイツは、俺の部下たちを全て攻略したんだから大したもんだぜ」


 騙ると語る。もつれた誤解の糸は解けない。穴熊はまだ、ユージンを勇者だと信じている。


「ダメに決まってる、それは俺の役目だ!」


 しかし本物の勇者は許せない。未だに状況を掴めない穴熊は、さらにマツダに疑問をぶつける。


「お前勇者が好きなのか嫌いなのかハッキリしろよ」


(そりゃマツダは勇者のことは好きだよ。多分俺のことは大っ嫌いだろうけど)


 なにせあれだけ、はしゃげるくらいである。勇者という肩書きが、好きで好きで仕方がないのだろう。


「好きに決まってる。愛していると言っても過言ではない!」


「お、おう。そこまで熱く言われると気持ち悪いな。それで、何しに来たんだお前は」


 ここでようやく、ユージンは全員の立場と発言に含まれた大地雷に気がついた。


 穴熊はユージンのことを勇者だと思っている。

 そしてマツダは勇者を愛していると断言した。


(なんかコレ、またそっちの気があると思われてねえか)


 ユージンは嫌な予感に苛まれ、先ほどまで命をかけて守ろうとしていた仲間たちを見た。


 冬に紅、梓と岬。ユフィまで。


(何ショック受けた顔で、やっぱりみたいな空気出してんの。アホなの君たち?)


 ユージンは何とか立ち上がり、雲行きの怪しくなり始めてきた穴熊とマツダの会話を遮った。


「おいマツダ。俺が悪かった。後で土下座でも何でもするから、ここは引いてくれ。お前だってみんなを助けにきたんだろう。今はこれ以上喋らずにみんなを連れてここを離れてくれ」


 それはほとんど懇願に近かった。

 それでもユージンは、マツダがユージンの望む方向に動いた試しが、今まで一度だって無かったことを考えるべきだった。ユージンを無視して、マツダは穴熊の問いかけに答える。



「何しに来ただって、決まっている。俺の勇者を取り戻しに来たんだ。誰にも渡さない、永遠に俺のものにして2度と離さない。片時もな」


 キメ顔で言うマツダに、穴熊はもはやドン引きである。ユージンの方を、恐ろしいものでも見るように見ている。


「違うからね、お前が思ってんのと絶対違うから!」


 ユージンの弁明が虚しく響く。穴熊が勇者のギフトを狙っている以上、きちんと誤解を解くわけにいかないジレンマである。


「何で女性陣はシリアスな顔でゴクリとかいってんの?」


 あちこちに突っ込む対象が分散していて、振り返りすぎた首は疲弊しきっていた。そうこうしてる間に、穴熊はマツダの方に剣を向ける。


「おいおい、せっかく見逃してやろうってのにわざわざ死ぬ気か」


 強烈に嫌な予感。マツダはユージンへの宣戦布告のつもりなのだろう。剣を突きつけられているというのに、穴熊を無視してユージンを見つめ、宣言する。


「死ぬ気はない。今日が初めて、本当の意味で俺と勇者が一つになる日にするつもりだからな」


「やめろおおおおおおー!」


(もの凄い誤解が加速してるから!ヤバイ方向で奇跡の噛み合いかたしちゃってますから!)


 いよいよユージンは絶叫した。


「お前に勇者は渡さない!」


 当然マツダはユージンに言っている。だが穴熊は自分に言われていると思ったのだろう。


「そうは行かん。こっちにも事情がある。ソイツは俺が貰う」


「何!?笑わせるな、盗賊には高嶺の花だ」


「いや、俺のものだ」


「いやいや俺のだ!」


「いやいやいや、しつこいぞ。俺のだ!」


「いやいやいやいや俺のだって言ってんだろ!」


 何か盗賊とマツダでユージンを取り合ってるみたいになってる。


「嫌あああぁぁぁぁあぁぁあ!!!!」


 ドゴォ!


 ユージンは我慢の限界を迎え、マツダに思いっ切りドロップキックをかました。足が痛むが、立派な正当な防衛行動だとんじて。


「ま、また殴ったな、しかも今度は蹴り!」


「こんだけ愛されててDVは盗賊の俺でもどうかと思うぞ⁉︎」


 なぜか穴熊まで一緒になってユージンを責め始める。穴熊の目には、勇者と乱入者はかつて愛し合った者の成れの果てに映っているのだ。それは怖気の走る勘違いだった。



 穴熊の行為は事態を悪化させることになる。マツダの意識が再びユージンに戻って来たのだ。


「また俺を邪魔もの扱いか。思えば初めて会った日からそうだ。俺がモンスターを倒した時も、買い物の時や盗賊の時だって!そんなに(勇者の地位が)欲しいのか?だったら今すぐやろうぜ」


 マツダは上着を脱いで、生っ白い腕に力を込めた。


 たしかにユージンは勇者の称号を必要とした。しかしマツダにとって勇者という冠は、自分の名前にこそ載せられるべきものであり、既に自分の名前の一部らしい。よほど気に入らなかったのか、勢いが止まらない。


(だけどね、今お前凄いこと言ってるよ。超ド級の変態だからね。あと岬さんや、スマホで動画ってのを撮ろうとしないでくれる。やるって戦るって意味だからね)


「お、おいちょっと待て。流石にそれはマズイだろうが!」


(……穴熊よ。いつの間にかお前が1番常識人になってるこの世界は間違ってるよ)


「正直に言えよ、羨ましかったんだろう。顔も成績も運動も、何をやっても凄い俺が。妬ましかったんだろう。何一つ特別な物なんて持ってないお前は。いつも誰かに囲まれている俺と違って、友達もいなさそうだもんな。だから欲しくなったんだ!人の物なのに!」


「知らん知らん知らん知らん知らん」


 ユージンはマツダの成績も運動能力も見たことがない。顔だって浩介のような爽やかな系統の方が好感が持てる。


「略奪愛だったのか……」


(穴熊さーん、何で俺がマツダを寝取らにゃならんのじゃ!)


「そういえばお前も欲しがってたな。何ならまとめてやってやろうか?」


 マツダが穴熊に向き合う。だがその場はもうカオスである。


「い、いや俺は違うぞ。俺が悪かった、だから近づいてくるな!」


 穴熊が男同士の修羅場にたじろいでいる。そらそうである、人は未知との遭遇に弱い。というか普通に巻き込まれたくない。


(勇者と農民と盗賊の三角関係。全員男。何なんですか?俺そんなに悪いことしましたか?)



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