22、捜索
攫われた4人を救出するべく、ユージンたちは監視役の向かった方向に歩いていた。
「ところでお兄ちゃん、盗賊のアジトの場所って何処なの?」
ユフィが可愛らしく尋ねてくる。
「何だ、そんなことか。俺は完全無欠の凡人だぞ」
その身も蓋もない言種に、ユフィは怪訝そうに眉根を寄せた。それに構わずユージンは堂々と胸を張る。完全に開き直った態度である。
「ギフトもないのに分かるわけないだろそんなもん」
「「「えっ!?」」」
当然三人は驚く。当たり前だ。ここまでずっとユージンが先導して歩いてきたのに、今更何も分からんとは此れいかに。
「心配するな、大体の検討はついてる。多分ポルカ山だ」
ポルカ山は村の東側に位置する山である。かつては噴火を繰り返していた火山らしいのだが、今ではすっかり落ち着いて、村の子供たちにとってはいい遊び場だ。ユージンも子供の頃は何度も足を踏み入れた。猟師も獲物を取りに行く、村からほど近い山だ。盗賊が消えた方向とも一致する。
最初の手がかりは監視役の向かった方向である。これはユフィが確認しているから間違いない。
「で、でも方向だけじゃ見つかりませんよ」
「嘘でしょ、こんなに歩いたのに」
長沢くんと岬は不満そうにお互いの顔を見合わせた。
「方向だけじゃないさ。あの交渉の時を思い出してくれ。あのスマホってやつに四人が写っていたのは、30分ぐらい前って言ってたろ」
そして、アッシュはそれを出る直前に撮ったと言っていたのである。
「あ、なるほど。つまりこっちの方角で30分以内に行けて隠れられそうな場所ってことね」
岬にも分かったらしい。そう、条件にピッタリなのはポルカ山だけなのだ。
「でもお兄ちゃん。山に着いてからはどうやって探すの」
ユフィの疑問はもっともだった。山といっても広い。大人数で山狩りをするわけにもいかのいのだ。けれどその答えも、すでにユージンの中には用意されていた。
「あの山はガキの頃からの遊び場だぞ。それなりの人数が隠れるとなると、急斜面には陣取れないだろう。そうなると可能性は2つ。ある程度傾斜のなだらかな開けた場所か」
ユージンにとっては小さい頃から駆け回った山だ。大体の場所は把握している。
「洞窟だけだ」
その推測に無理は無い筈だが、聞いていた三人は同時に目を見開いた。
「お兄ちゃん、熱でもあるの。賢いよ?」
(妹よ、普段兄のことをどう思っているかがよく分かった)
「ユージンさんそこまで考えてたんですね!」
(長沢くん、地味に普段何も考えてないって言ってる?)
「えっ!?ユージンってお人好し馬鹿と思ってたけど脳味噌使えたのね」
(岬さん。素直で元気なのは時には欠点だと思います)
「君たち。取り敢えず正座」
そんなやりとりはあったが、一行は思いの外早く、盗賊と人質の元まで迫っていた。
推測を基に、ユージンたちは心当たりの場所を探して回る。
「……」
だが結論から言うと、何も見つからなかった。
何か言って!
ドヤ顔で語った10分前の俺くたばれ!
お願い気を使わないで!
ユージンには三人の無言が辛かった。思い当たる場所を次々と見て回ったが、どこにも人の気配はない。
心中では今にも人質に良くないことが起こるのではと、気ばかり焦る。
いよいよ別の場所を探すべきかと思い始めた矢先のことだった。
「あーもう。こういうのは性に合わない、出て来い盗賊!」
岬が、溜まった鬱憤を近くにあった大木に吐き出した。「鎌鼬」のギフトを纏った足で、大きな松の木を蹴りつけたのである。
「こらこら、八つ当たりはいけません」
気の毒な松の木は、突然の襲撃に枝の先まで震わせる。その瞬間、バシャリと頭上から白い塊が降ってきた。
「冷たっ!」
まるで意思でもあるかのように、蹴った張本人の岬でも、ユージンより背の高い長沢くんでもなく、白い塊はユージンの頭を直撃した。
「痛い!」
おまけに中には硬くて重いものが入っている。頭を押さえて悶絶するユージンをよそに、ユフィは落下物を拾い上げた。
「ねえお兄ちゃん、これって紅さんが作ったんじゃないかしら」
それは黄金色をした金属の球体だった。確かに農具の補強をする際に、紅が生み出したものとよく似ている。光沢が違うのだ。そこでユージンは気がついた。
「となると、さっき冷たかったのは冬子の作った雪か」
見上げれば、僅かに松の木の枝には白い化粧が残っている。いくら山でも真夏に雪は積もらない。おそらく時間差で雪が溶ければ落下するように仕掛けたのだろう。高い木の上まで押し上げたのは、浩介のギフトに違いない。
「となると、何か手がかかりを残しているはずだ」
ユージンはユフィから球体を受け取ると、手のひらの中でぐるりと転がしてみる。案の定、薄い切れ目のようなものが見つかって、ユージンは腕に力を込めた。すると球体は切れ目から真っ二つに割れた。どうやらカプセル状になっていたらしい。
「なにが入っていたのよ」
岬がソワソワと落ち着かない様子で言った。それは捜索隊にとって残された唯一の可能性である。
「紙だ。何か書いてある」
そこに入っていたのは、一枚の紙切れだった。
ユージンははそこに書かれている文字を、一言一句逃さないように読んだ。
そこには梓のギフト、「自動書記日記」で記された、彼らの身に起きた出来事が克明に記されていた。
(たしかにこれなら、紙もペンも使わずバレないように手がかりを残せる。ぜんぜん役立たずじゃないぞ、梓)
思った通り、そこには盗賊のアジトの場所も書かれていた。他にもユージンの家を出た直後に盗賊に襲われたことや、リーダーである穴熊が土を操るギフトを使ったことなども記されている。まさに起死回生の手がかりだった。
だったのだが。いかんせんそれは日記の形で書かれているので、起こった事象と付随するように、その時の梓の心情までもが赤裸々に書かれていた。プライバシーを覗き込むのは申し訳ないが、ユージンとしても手がかりを逃すわけにはいかない。
ユージンは食い入るように、メモの内容を頭に叩き込んだ。そして驚愕の事実に戦慄を覚えた。