21、時には勇気より優しさが必要
sideギラン
時は少し遡り、ユージンたちが交渉に赴く少し前。
クロノ村から東に少し行ったポルカ山の山中で、ギランは込み上げる笑いを止めることが出来ずにいた。
やはり俺はついているのだ。
酒場でクロノ村の噂を聞いた後、ギランはすぐさま準備に取り掛かった。
幸い逃亡中の身としては、都会より田舎の方がずっと都合がいい。手配書や情報が出回るのも遅いし、何かあれば直ぐに山に逃げ込める。
計画のために少しずつ昔の知り合いや柄の悪い馬鹿どもを誘いながら、この村にたどり着いた。今では20人近い盗賊団だ。もっとも何かあれば直ぐにバラバラになる烏合の集で、心の底からギランを頭と認めている者などいないだろうが。
それでも計画に問題はない。
こいつらは警備の薄い田舎村から小金を巻き上げるために集まったと思っている。
せいぜい馬鹿は馬鹿なりに働け。
しかし噂ってのは尾鰭がつく。せいぜい2、3人かと思っていたがマジで20人近いギフト持ちがいるとはな。
しかも幸先がいい。村に着くなり首尾よく4人ものギフト持ちを捕まえたのだ。
計画は順調。村人は今頃ギランの届けさせた要求に震え上がっていることだろう。交渉に向かわせた……何といったか、途中で加えた小悪党の報告を待つ。
ギランは暇つぶしに、捕らえたガキで遊ぶことにした。
「よおお前ら、マジで異世界ってのはあんのかい?」
手始めに手前の女に声をかける。
「答える必要は無いわ。それより私たちをどうする気!」
まだガキだがツラも体もいい女だ。気の強そうなのもそそる。やっちまうか?
だがもう少しビビらせてからにしたい。
「どうするもこうするもお前らは人質だよ。今俺の部下があの娯楽もねえクソみたいな村に、金を出すように伝えに行ってる所だ。奴らが要求を呑まなきゃお前らの首を刎ねる。せいぜい祈っとくんだな」
さあ怯えな。
だが返って来たのはギランの思い描いた反応ではなかった。
「くっ、なんて事だ。村の人が危ない」
「私たちが人質になってたらクロノ村の人に迷惑がかかっちゃう」
「下衆」
「わー、ごめんなさいごめんなさい!」
ふん、てめえらよりゴミみたいな農民の心配か、つまらん。だがな。
「お前ら何か勘違いしてねぇか。迷惑ならお前らがいるだけでもう掛けてんだぜ」
全く人の嫌がる事ってのは気分がいいぜ。
「ど、どういう事よ?」
よしよし、動揺してやがる。だがこれ以上は部下の前ではバラせねえ。ギランは気分を良くする。
するとそこに交渉にやっていた男が帰ってきた。
「頭、交渉役のアッシュ只今戻りやした」
ああ、そんな名前だったか。
「それで、どーだったんだ。まあ見たところいい報告は聞けそうにねーが」
アッシュとかいう小物の服はボロボロである。
恐らく反撃にあったのだろう。
「へい、交渉役には取り立てて目立つ所もないボーッとした農民がきやして」
それを聞いた途端、ガキどもが叫びやがった。
「「「ユージンだ!」」」
何でこいつら希望を取り戻してんだ?
☆
side冬子
冬子は何故か、毛ほどの疑いもなく確信していた。
自分たちを助けるために動いているのは彼だと。そしてそれは他の3人も同じだったらしい。
リーダーらしき男は眉をひそめて交渉役に聞く。
「それで?まさかお前農民ごときにやられたのか」
ユージンが冬子達という人質がいる状態でそんな軽挙に出るだろうか?
「いっ、いやまさか。あっしがやられたのは異世界人のギフト持ちでさあ。ひょろ長くてちょいと顔の良い」
……やつだよね。きっとあの人だよね。
「へっ、いーね。抵抗の意思ありって事だな」
「い、いや。農民はあるだけ差し出すって言ってやした。要求額には足りねえが、無抵抗で差し出すってんなら悪くないと思ったんですがね」
やっぱり彼や村の人は私たちの身の安全を優先してくれたみたいだ。心苦しいが嬉しかった。
「まとまった話をお頭の所へ届けようとした時に、後ろからズドン!ですぜ」
何かデジャブなのよ。
「ふむ、村人が人質を見捨てるのは想定していたが、そっちが攻撃してくるとは考えていなかったな」
嫌な予感がするわね。
「あっ、そういや自分のことを勇者とか言ってやした」
あのやろう!
「勇者たぁ面白い、そいつは是非会ってみたいもんだ。少し勿体無いが海老で鯛を釣れるならいいか」
ま、まさか村人ならまだしも、彼のせいで死ぬなんて事にはならないよね?
「よし、この中の1人首を刎ねて勇者に持っていけ。それでそいつが本当に勇者なんて名乗ってんなら釣れるだろう」
おい!
「そうだな、男か……いや、そっちの眼鏡の女の首を刎ねろ」
そう言って盗賊は服部さんを指差す。
こ、これは洒落になってないわよ。
「や、やめなさいよ!」
「ぎゃー、ご、ごめんなさいごめんなさい!」
「や、やめろ!殺すことないだろう、やるなら俺を……」
「……っ!」
しかし手下は私たちの方に近寄ってくる。
アッシュと名乗った盗賊が剣を振り上げた瞬間。
「と、思ったがまあしばらく様子を見るか」
意地の悪い笑顔で盗賊が言った。
この男、完全に私たちで遊んでる。
「牢にぶち込んどけ」
盗賊のリーダーの命令で冬子たちは立たされる。
「頭、いいんですか?このままじゃ舐められちまいやすぜ」
余計なこと言うな!
「なに、大事の前の小事。妙な気は起こすなよ?どの道お前らに助けは来ない」
冬子たちの先ほどの様子がよほど可笑しかったのか、上機嫌で言う男に冬子は精一杯の抵抗の意思を示す。
「ユージンくんがいる」
そう、彼ならきっと来てくれる。
出会って日も浅いし、深く知っているわけでもないけど、それでもそう思える。
「ああん?誰だそりゃ。そういやさっきも言ってたな、名前からして異世界のお友達って感じじゃねえが、まさかそいつもギフト持ちか」
そんなの彼には必要ないんだ。
「そんな報告は届いていない。まさか軍や冒険者に助けを求めたんじゃねえだろうな」
若干の苛立ちを部下にぶつける。
「い、いやお頭。確か交渉の場に来てた農民がそんな名前で」
それを聞いてリーダーの男はキョトンとした顔で数秒止まる。
「ブッ、ハッハッハ、なんだお前ら、ギフトもねえ農民を当てにしてんのか。来るわきゃねえだろそんなもん。何なら明日には村人全員皆殺しだ」
リーダーに合わせて周りの盗賊も笑う。
「それに来たとしてもここは見つけられねぇよ」
いや、彼は見つける。きっと残した手がかりを見つけてくれるはずだ。
盗賊のアジトに入る直前。冬子たち4人のギフトを使って1つだけ、メッセージを残した。
紅のギフトであるものを金属の球体の中に隠す。
冬子の雪を作るギフトで木の枝に雪を積もらせる。
そして浩介のギフトでそこにあるものを乗せる。
その中のものを見てくれればきっと。




