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幕間、不機嫌にご機嫌な少女

side.紅


 話はあの食事会の夜。ギフトで生み出されたマンションに帰る道中まで遡る。


 紅はご機嫌があまりよろしくなかった。


 この世界に来てから、目につくもの耳にするもの全てが興味深い。


 紅は元々、大学では金属系新素材の研究をする分野に進もうとしていた。金属系新素材とは、金属ガラスや超硬合金などの、従来の金属にない優れた特性を持つ金属である。


 あまり女子高生が興味を持つ分野ではない。

 それは分かる。その証拠に、周囲は変人扱いしてあまり近づいて来ない。

 だが好きなものは好きなのだから仕方ない。


 最近では、完全に水を弾く金属なんかも開発されている。


 紅もいずれは某未来から来たロボットみたいな金属を作ってみたい。

 流動性があって自己修復機能つき。ロマン。

 あいるびーばっく。


 この世界の金属は、紅の知るどの金属とも違うらしい。

 本やゲームにしか無いと思っていたオリハルコンやミスリルなんてものも、実在するというのだ。


 おまけにギフト。

 全く理屈が分からないが、分からないからこそ調べたくなる性分である事を、紅は深く自覚していた。


 だからユージンの持つ刀にも非常に惹かれた。

 一見すると普通の刀のようだが、使われている素材が見たことのないもののような気がしたのだ。


 ユージンは偶然こちらの世界で似たものが作られたと言っていたが、紅の考えは違う。


 あれは異世界の金属を、自分たちの世界の技術者が鍛えて出来たものではないか?


 だとしたらこれほど素晴らしいことはない。

 異世界にしか無い優れた金属を、異世界にはない進んだ技術で加工する。高まる。


 是非とも隅々まで調べて見たかった。

 悪い癖だと思うが、気になると我慢が出来ない質なのである。


 なのにである。彼は紅に帰れという。

 残念。



「あれ、何か機嫌良さそうだね、紅」


 友人が声をかけてくる。

 名前は冬子。自分で言うのも何だが、紅は普段あまり話さない。別に喋るのが嫌いなわけではない。ただ考え事をしている時なんか、無意識に無視しているらしい。それでも親しくしてくれている数少ない友達に、口には出さないがいつも感謝していた。


 腹黒いけど。


「そんなことない」


 しかしこの言葉は心外である。自分は今せっかくのチャンスを、ユージンに妨げられて怒っているのだ。


 そうユージン。


 元々友達の少ない紅にとって、人間に興味を持つのは久しぶりかもしれない。

 彼は自分のことを没個性的な一般人だと思っているようだがそんなことは無い。


 変わっていると思う。どこがどうとはすぐに言えないが、今まで出会ったどの人間とも違う感情を、紅に引き起こす。


 それが何という感情かは分からないが、構わない。

 紅は分からないことが好きだから。


 だからユージンも、金属と同じくらい気になる研究対象。


 やっぱり残念。今紅が一番気になるものを2つとも同時に調べられるチャンスだったのに。


 不機嫌である。


 でもいつでも来ていいとも言った。

 満足。


 可愛い顔とも言われた。

 可愛い顔というのは自分の友人に向けられるべき言葉なのだが。

 ニヘラ。


 とにかく紅は明日から、沢山調べることがある現状に心を弾ませて、帰り道を急ぐのだった。





「ねえ浩介。何か紅ひとりでニヤニヤしてて怖いんだけど。あれ何?」




「……俺に聞くな」









 しかしもう少しで着くという時に、紅は見慣れない男に声をかけられた。


 男は見るからに怪しい、堅気ではない雰囲気。

 この小さな村では、来たばかりの紅でも既にほとんどの村人と顔見知りである。見慣れないだけで怪しいのだ。

 男は口元に下卑た笑みを浮かべている。


「なあお嬢ちゃんたち、この村にギフトを持った子供がいると聞いて来たんだが知らないか」


 まさに自分たちのことである。だが見るからに胡散臭い男に、個人情報を渡す気はしなかった。


 それは浩介も同じだったようで警戒しながら答える。


「いや、知らないな。それよりあんた村の人じゃないだろ。こんな夜中に何してるんだ」


 男は紅たちを舐めるように見ている。

 気持ちが悪い。

 紅はこんな見た目なので、一部の特殊な性癖を持った人たちに人気があるらしく、何度か誘拐されかけたことがある。


 その時の変態の目に少し似ている。

 獲物を値踏みするような目。


「ああ、この村には今着いた所なんだよ。俺は王都でギフトの研究をしていてね。ここにギフトを持った子供が沢山いると聞いて尋ねて来たんだ」



 いよいよ怪しい。紅も研究者を目指している。

 男の目には知性のかけらもない。


 嘘をついていると判断する。


「そんな話は知らないね。ここは宿屋すら無い田舎の村だ。あんたも早く今夜の宿を探す事だな」


 浩介はそう言って、会話を早々に切り上げ立ち去ろうとした。

 だけどそんな紅たちの背に男が声をかける。


「おかしいなあ。俺の聞いた話じゃその子供たちは異世界から来たらしいんだ」


 男が足を踏み出す。男の纏う空気が、生来の荒々しく凶暴なものに変質する。


「だから変わった服装をしているらしいんだよ……丁度お前らみたいになぁ!」


 そう言うや否や、男はこちらを捉えようと凄い勢いで腕を伸ばす。


 この男、初めから私たちが狙い!


「走れ!」


 浩介の叫び声で弾かれたように動き出す。


「まてよ、今日のお前らの宿は俺のアジトに決まってんだぜ」


 冗談じゃない。今日は本当なら紅の宿はユージンの家。

 あの刀のことや使われている材質まで、ユージンの事を……じゃなくてこの世界のことを色々と調べるつもりだったのに。

 それを我慢して帰ったのに、こんな男の所なんて死んでも嫌だ。


「逃すかよぉ、ランドロッキング!」


 男の叫び声とともに私たちの前に岩の壁が立ち塞がる。

 これはギフト⁉︎


 背後に男の迫る気配が伝わってくる。

 紅は無我夢中で「錬金」のギフトを発動し、男と自分たちの間に鉄板を作る。


「はっ!やっぱあるじゃねえかギフト」


 男は鉄板を持っていた剣で殴り飛ばす。


「子供の時から嘘ついてるとなあ……盗賊になっちゃうんだぜぇ、俺みたいになぁ!」


 盗賊。やっぱり嘘つき。

 浩介が紅たちを庇おうと前に出る。だけどその時、周囲の草むらから数人の男たちが湧き出てくるのが見えた。


 結局、覚えているのはそこまで。

 後ろから現れた男に殴られて、紅は意識を手放した。


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