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20、脇役の役割

 村人が忙しなく準備を進める中、ユージンはそっと村の入り口に向かった。

 

 するとそこにはミレーユ婆さんが待ち構えていた。


「げっ、婆さん何で」


 誰にもバレずに来たと思っていたユージンは驚いた。


「ご大層な演説しちゃいたが、あんたの計画にゃ抜けてる部分があんだろう。そいつを聞いとこうと思っただけさね」


(流石にミレーユ婆さんはその場の空気で忘れちゃくれないか)


 そう。ユージンと村長の言った計画なら、村人も異世界人も、あの場に居た人は誰も傷付かない。でも全員助かるわけじゃ無い。


「行くのかい?」


 人質の4人の所へ。このままではあの4人は助からない。


(あーあ、全部バレてら)



「んー、まあ農民Aのヘマで主要人物に死人が出たらまずいでしょ」



 逆ならば、その悲劇を糧に主人公は成長するだろう。だけどその他大勢のせいで主人公が死ぬ物語なんて、トラウマとブーイングしか生まない。そんな出来の悪い物語など、ユージンは読みたくなかった。


「もう死んでるかもしれないよ。そうじゃなくても農民のあんたに何が出来るんだい」


 ごもっともな意見だ。だけどそれでも、僅かでも可能性があるなら動かなければならない。



「そん時はそん時でしょ。何も出来なくっても農民の意地だけでも見せてくるよ。勇者ぶん殴っちゃったし」



 ユージンみたいな脇役の仕事は、舞台にトラブルがあった時にそれを直すこと。

成功するかどうか分からない。でも主役が登場出来るように逃すくらいなら出来るかもしれない。


 特別なギフトを持った異世界から来た少年少女。そんな彼らを、冒険が始まる前から退場させるわけにはいかない。


(あ、主役といえば勇者マツダもいたっけ)


 うーん、今思い返すと熱くなって恥ずかしい事言っちゃった上に、暴力に訴えるなんてダメだな。

 ゴメンねマツダくん。

 よし、心の中で謝ったからオッケー。届け俺の想い!


 ユージンは一方的に怪電波を送って、自分の心を納得させた。


 そんな言葉を聞いてミレーユ婆さんが微笑む。


「ガキだと思ってたけど、今日のあんたはちょっといい男だ。こりゃ止まんないよ」


 そう言ってミレーユ婆さんは茂みの方を向いた。するとその茂みからガサガサと音を立ててユフィが出て来た。


「ユ、ユフィ、お前なんで⁉︎」


 さらにユフィに続いて長沢くんと岬という女の子が現れる。2人とも交渉の場について来ると言ってくれた子だ。不機嫌そうにユフィが言う。


「待ち伏せてたの。トラブルがあればその一番中心に飛び込むのがお兄ちゃんなんだもん」


 妹にまで言われて、ユージンは軽くへこんだ。


「まあ僕はあの場に居ましたから」


「長沢っちから聞いたらさー、何かすごい剣幕だったらしいって言うし。畑でのこと思い出したらこうなるかなって」


(俺ってそんなに単純か?恥ずかしいからバラしちゃダメだよ長沢くんや)


「本当は止めに来たんだけどね」


 ユフィの性格ならそうするだろう。だけどユージンの決意は固い。


「悪いな。ここで行かなきゃ農民には不釣り合いなトラウマ抱えそうなんだ。普通の農民じゃ居られなくなるのは耐えられん」


 自分の知り合いが盗賊に殺されるなんてお断りだ。するとユフィがとんでもないことを言い出す。


「うん、止めるのは諦めた。だから私も行く」


「ばっ、馬鹿。そんな危ないことダメに決まってるだろう」


可愛い妹を盗賊のいる場所に行かせる兄は居ない。しかしユフィの決意もまた、固かった。


「そっくりそのままお返しするよ。それに私の鑑定のギフトは役に立つでしょ」


「僕だって、引けません。それは交渉の時でお分かりでしょう。それにユージンさんひとりより、四人の方が成功率だって高まると思いませんか。妹さんがいれば相手のギフト持ちに先に気付けます。これは大きなアドバンテージです。あなたがただの農民と言うなら、尚更戦力は多い方がいいと思いますが」


「あたしも知っちゃったらねー。これでも陸上で鍛えてるから結構動けるよ」


(何か詰んでるんだけど。俺じゃなくて長沢くんが交渉すれば良かったんじゃねえか)


ユージンは長沢くんに反論が出来ずにいた。それでも悩み抜いて、結論を出す。


「分かった、長沢くんは一緒にきてくれ。ただし、二人は駄目だ、女の子を盗賊の所に連れては行けない」


 それでもやはり、女性陣の同行を許可することは、ユージンには出来なかった。男と違い、最悪殺されるだけでは済まないのだ。そう思ったのだが、岬は非難の声を上げる。


「うわ、古くさっ。それセクハラだよー。あたしらの世界じゃ男女平等が常識だって」


「せっ、セクハラって……村長と一緒にするなよ。古くない!合理的かつ普遍的な価値観だ……ということにしてくれませんか」


 ユージンには女性を下に見る思想など誓ってない。それでも、意地と体を張れる男でありたかった。


「いーよべつに。私は岬さんと2人で行くから」


「そうだねー。じゃあ女の子は女の子チームで動こっか」


(い、妹が反抗期だ。胃に穴があきそうなんですが)


 しかしこれ以上拒絶すると、ユフィの頑固モードでは本当に2人で行きかねない。それも理解しているユージンは、はとうとう諦めた。


「分かった。ただし三人とも、俺が逃げるように言ったらその時は絶対従ってほしい」


三人ともこれには納得した。ミイラ取りがミイラになるわけにはいかないのは、共通の認識だった。


「婆さん、村のみんなを頼みます」


ユージンはミレーユ婆さんに頭を下げる。


「偉そうに言うんじゃないよ。あんたこそさっさと帰って来るんだよ」


 多くを語らず送り出してくれるミレーユ婆さんに、ユージンは励まされた。そうして一行は、人質となった友人を助け出すべく足を踏み出した。


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