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幕間、不幸と幸運

王都 牢屋内


 俺は何てついてないんだ。


 男は暗い牢屋内で、鈍く光る鉄格子を眺めながら歯軋りをした。


 男の名はギラン。仲間内では「穴熊のギラン」と呼ばれている盗賊である。


 そもそもケチのつきはじめはブロムのヤローのせいだ。

 あいつが下調べをちゃんとしていなかったから、半年かけた計画がパーになったんだ。


 いや、正確には盗み自体は上手くいった。目をつけた商人の家に地下から侵入して主人を殺し、金品を奪い去る。

我ながら見事な腕前だった。


 ガキと母親が物音に気付いて起きてきちまったからぶっ殺す事になったが、まあ仕事にトラブルはつきもの。むしろ鳴き声を上げる前に喉を裂いてやったんだ。完璧な対応だったはず。


 だが狙った場所が悪かった。その商人は無法街の顔役のひとり、ラルドヴィッチのお抱えだったのだ。

 裏社会の顔役の金に手をつけて無事に済むわけもない。


 ギランは相棒のブロムをすぐさま売った。ラルドヴィッチの手下にブロムの居場所を教え、計画の首謀者はブロムであり、自分は何も知らなかったと伝えた。

 盗んだ物と自分の貯金を全て渡す事で何とか命は助けられた。


 ブロムの野郎は翌朝エルライン大河に死体となって浮いていたが、あれは奴が間抜けだっただけで俺には関係ねぇ。


 だが半年かけたでかい計画がおじゃんな上に貯金まで無くなったんじゃやってられねえ。

 むしゃくしゃするから田舎の村を狙って押し入り、金を奪った。


 だが不幸ってのは一度気に入ったやつを中々手放す気は無いらしい。


 こんなクソ田舎なら自警団すらまともにいないと思ったのに、野外演習をしていた王都の騎士団に捕まっちまった。


 クソっ、つくづくついてねえ。


 ありえねえだろ、俺みたいな小物に騎士団長、金獅子のベイルがお出ましなんて。


 自分は明日死ぬ。当然だ。王国には裁判制度があるが、どう頑張ったって、何件もの殺しがバレているギランに酌量の余地は無い。


 ありえねえありえねえありえねえ。

 俺はブロムの間抜けとは違う。こんな所で死んでいい人間じゃないはずだ。


 迫り来る死の刻限へのストレスから、ギランはずっと爪を噛み続ける。


「おい牢屋番、俺をここから出しやがれ!俺の隠し財産の場所を教える、取引と行こうぜ」


 当然牢屋番は取り合わない。


「諦めろ。お前何人殺した?少しは反省できんのか」


 イライラが募る。反省?金のないやつがある所から貰うことの何が悪い!

 ギフトさえ使えればこんな牢屋すぐに逃げだせるものの、この牢には宮廷のギフト対策研究所の所長によって封印の力が付与されている。


 ギランは壁を殴りつける。何度も何度も。


 死にたくない!何で俺が死なないとならないんだ!何も悪いことはしていないのに!


 どれほど狭い牢内で暴れまわっていただろうか。

 拳の皮はめくれ、血だらけになっている。


 そこで初めて、ギランは違和感に気づいた。

 静かすぎるのだ。自分の荒い息使いだけが、冷たく重い牢内の空気を震わせる。


 おかしいな。これだけ騒いでりゃ、いつもなら他の囚人や看守が文句の一つも言いに来るんだが。


 そう思い、鉄格子越しに様子を伺う。やはりおかしい。

 さっきの牢屋番の気配すらしない。


 すると廊下の奥に一瞬、道化師の格好をした女が見えた。


「クスクス。可哀想に、怖いから暴れてるんだろ?アタイちゃんがチャンスを上げるよ」


 道化師は廊下のいちばん奥に居たはずなのに、その声は耳元で囁かれた気がした。


 俺は既に気が狂っているのか?こんな場所にあんな奴がいるはずがない。

 助かりたい一心で幻覚を見ている?


 しかし次の瞬間


 握りしめたいた忌々しい鉄格子の扉が


 音もなく開いた










 ギランは走った。居るはずの衛兵が、どころか人っ子ひとりいない異常にも気付かず。


 ただがむしゃらに助かるために。


 丸一日近く止まらずに走り続けたろうか。ようやく思考が戻り、手始めに街道で歩いていた商人の服と財布を盗んだ。殺さなかったのは改心したわけではなく、逃亡犯としては大きな騒ぎを起こしたくなかっただけである。


 奪った金で久しぶりの酒を飲んだ。安く汚い酒場ならば、脛に傷を持つ奴も少なくない。怪しまれることはなかった。


「おい聞いたか!クロノ村にギフトを持ったガキが大量に現れたって話」


 酔った男たちの会話が聞こえてくる。

 大量のギフト持ちのガキ?

 ギランは興味を持って聞き耳を立てる。


「ああ、いきなり現れてでっかい猪の異獣を倒しちまったんだろ?助けられた農民は泣いて喜んだって」


 あんなど田舎にギフト持ちが大量にいるとも思えないが。


「ちょっと待て、俺はドラゴンって聞いたぞ?しかもその中の1人は、あの伝説の7英雄の筆頭と同じ勇者のギフト持ちだって!」


 ガキがドラゴンを?冒険者が討伐隊を組むような相手だ。

 こういう噂話はどんどん話がでかくなる物だ。

 おそらく真相は普通の猪のちょっとでかいのを倒したくらいだろう。


「それがさ、最初はギフトの存在すら知ら無かったらしいぜ。何でも異世界から来たとかって。なのに全員ユニークギフト持ちらしい」


 異世界?バカバカしい。

 しかし……


 ギフトの存在すら知らないユニークギフト持ちが大量にか。


 ギランは自分の口元が歪むことにすら気付かずに呟いていた。


「ついてる、俺は最高についてるぜ」


 ギランは素早く今後の計画を立てる。自分は追われる身で金もない。早急にまとまった金を作り、この国を出る必要がある。


 そうと決まればまずは手駒を揃えなければならない。


 大笑いしたい気持ちを抑え、逃亡犯は酒場を後にした。




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