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9、リラード家のユフィちゃん

 妹のユフィにギフトがあることが発覚したのは、ひと月程前のことだった。


 切っ掛けは、村に訪れた見慣れない商人である。


 田舎の小さな村のことだから、旅人はそれだけでも警戒される。だというのに商人は、道端に怪しげな商品を並べては、村人に強引な売り込みを始めた。

 先先代の国王が使っていた水差しだとか、騎士団長が幼少期に使っていた剣術訓練用のカカシだとか。


 ぶっちゃけ本物であってもいらない。それでも売れるまで居座り続ける商人に、村人たちは辟易していた。


 そこで白羽の矢が立ったのがユージンである。商人が出て行くように説得しろというのだ。商人が居座ったのが、たまたまユージンの家の前だというのが、選ばれた理由だった。


 理不尽である。

 が、自分の家の前に他人が居座り続けるのも気色悪い。


 重い腰を上げて説得を開始したが、相手も初めから自分の胡散臭さを理解しているものだから、なかなか応じない。「詐欺だという証拠がああれば消えてやる」というセリフを引き出すのに、なんと4時間も要した。


 証拠と言われても困る。ユージンには、目利きの技能などこれっぽっちも備わっていない。そんなユージンでさえ一目で分かる粗悪な品なのだから、偽物としか言いようがない。


 そこに居合わせたのがユフィだった。驚くべきことに、ユフィは次々と商人の欺瞞を正確に暴いた。


 水差しは王都の100ガロン均一で売られている安物だとか。かかしは初めから痛んでいるように見せて作られた物だとか。


 最初は顔を真っ赤にして逆ギレしていた商人も、言い当てられた品が10を超えたあたりで逃げるように去っていった。


 「鑑定」のギフト。

 固有のギフトではないが、かなり珍しいギフトである。物の価値や年代を調べられる便利な力だ。


 この力があれば、王城直属の御用商人になることだって夢ではない。両親は有頂天になって、娘を都のギフテッド専門の学校にやるのだと息巻いた。


 けれど肝心の本人には、今もって村を離れる気は毛頭ないらしい。


 フィル辺りにからすれば、理解の範疇外だろう。


「こんな田舎の村で、死ぬまで大した起伏もなく生きる。俺はそいつに時々絶望しそうになるくらいだ。それが特別な力を授かって王都に行けるんだぞ。なんで好き好んでこんな村に残りたがるんだ」


 そう言って首を傾げたものである。続けてフィルはこう言った。


「これがおまえなら分かるんだがな。生き死にかかった冒険をするより、足腰弱ったじじばばの畑仕事を手伝う方が似合っている」


 全くその通りだと思う。お兄ちゃんは妹の活躍を遠くで眺めていニヤニヤしているだけで満足だ。そう言うと、フィルは笑顔で付け足した。


「ユフィちゃんのギフトもスゲーけどよ、俺はおまえの普通ど真ん中も好きなんだぜ。特別な力なんかなくったって、おまえが居て助かってる奴はこの村じゃ多い。俺が村長になった暁には、せいぜいこき使ってやるよ」


 褒めているのか貶しているのかわからない。けれどその言葉にどこか喜んでいる自分を発見して、ユージンは複雑な気持ちになった。


 とにかく。ユフィには、そんな物の本質を見抜く力が備わっている。


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