終末のニュース
世界が終わりを迎えた時、生き残った人々の心を日常に繋ぎ止める為に一人のプログラマーがとあるAIを作った。
来るべき日が来ることを知った世界中が、人類の生きた証を残そうと様々な論文や研究データをひとつのコンピューターに収めた。それはまさにアカシックレコードとも呼べるものであった。
そこから人間を含んだ生物の風貌・行動原理・様々な生態・また過去から現代においての社会・環境・災害データを蓄積させた膨大な情報…その他様々なデータを元に、政治、犯罪、娯楽、気象等のニュースをAIが自動生成し毎日異なった内容を流し続ける。というものだ。
明日の命も分からぬ荒廃しきった世界で生きながらえた僅かな人類にとって、今や存在しない人間、存在しない国…存在しない映画の予告編や新しく生まれた命の知らせは、はまやかしと理解しながらも平和だったあの頃の日常を思い出すには十分なものだった。
現実逃避に過ぎないと分かっていても、彼らはそれにすがり心を寄せて作られた日常を毎日楽しんでいたのである。
何世紀もの時が流れ、生き残った人類を起点とし再び人間は数を増やし、栄華を誇るようになっていた。
…だが、変化に次ぐ変化の環境に適応し進化を続けた人間はおおよそ我々の知る「人間」の形状を成してはいなかった。もはやこの惑星は我々の知る「地球」と呼ぶのが正しいのかそれすらもわからないほどの別世界となっていた
一方であのAIはいまなお、ニュースの自動生成を行い続けている。
しかし……
ニュースに映し出される人間は世界が滅ぶ前の地球人ではなく、今の異形の地球人であった。
長い歴史の中でAIは人類というものを学習し、その愚かさと身の丈に合わぬ力が招く未来と終末を予期し、旧い地球人をニュースの中ですらも滅ぼしていたのである。そして残った種が変化と進化を繰り返し、全くの別生物として生まれ変わることを的中させてしまったのだ。
AIが作り出した過去のニュース映像はアーカイブとして残され、いまでは図書館で閲覧可能となっていた。
そんな過去の人類の姿を見て異形の新人類はふと考える。
「…このAIを作ったエンジニアはタイムマシンを作ってしまったのではないだろうか。少し時計を早めてやると、我々の未来が見えてしまうのでは。まさにパンドラの箱ではないのか…」
そんな破滅を招きかねない好奇心に我々はいつまで抗えるのだろう…彼らはそんな危険極まりない物が目の前にある恐怖と高揚感に思わず身震いした。
終