第九話 フィロスト王子殿下とマーガレット嬢に会ってしまった!
「フィロスト王子殿下……………。」
「君たちはいつからそんなに仲がいいの?もしかして僕達がまだ婚約している頃から?」
殿下は腕を組み、こちらを睨むように言った。金髪碧眼の整い過ぎた容姿に、姿勢良く凛とした姿は王族のオーラがあり、威圧感があった。
「……いえ!違います!」
「そのようなことは決してありません!」
必死に否定した。
「……本当に?信じられないけど……。」
殿下の表情は冷え切っている。
「婚約破棄がしたくて、わざとあのような外見や態度をしていたのでは?幼い頃は美しかったけれど、いつの頃からか変わってしまっただろう?」
「いいえ!本当に違います。殿下のことは本当にお慕いしておりました。」
「………お慕いしておりました。過去形なんだね。もう僕のことは好きではないということだね。」
「………………………………………。」
「殿下。不敬を承知で申し上げますが、殿下には新しい婚約者様がいらっしゃるのではないですか?!」
ラグエル様が殿下に意見した。
殿下は鋭い目付きでラグエル様を睨むと、
「君は先に教室へ戻ってはくれないか?僕はビアンカと2人で話したい。」
「……何故ですか?それは出来ません!」
ラグエル様も引かない。
「戻ってもらえますか?」
殿下はラグエル様に詰め寄り、強い口調で言った。
このままではラグエル様が………
「ラグエル様……私は大丈夫ですから、先にお戻り下さい。」
「でも……しかし…。」
ラグエル様は先に戻るのを躊躇されていたが、仕方なく戻られた。
殿下は私に向き直り、
「……ビアンカ……婚約していた頃は何故あのような外見や態度をとっていたの?」
中身28歳の庶民になりました!とは言えないし、何て言ったらいいんだろう?
ビアンカはただの派手好き?
自分の美しさに気付かず、殿下に振り向いてもらおうと必死でお化粧していたのは間違いないよね…。
殿下の晴れ渡る青空のような瞳にじっと見つめられると、心の中まで見透かされるような錯覚さえ覚えた。
信じてもらう為にも、顔をぐっと上げて、殿下の目を見てこたえよう。
「それは、殿下に好きになって頂きたくて、背伸びしていたのです。婚約破棄されて、もう頑張るのがしんどくなり、背伸びするのはやめました(本当はあの派手な外見が耐えられなかったのだけど…)」
「……………………………………。」
殿下の眉が一瞬上がったが、その後、柔らかな表情へと変わっていった。
「それは本当?」
「はい。」
「信じていいんだね?」
殿下は詰め寄りながら問うて来る。
壁際まで追い込まれて。
「僕はあの時の君より、今の君の方が魅力的に思うよ。着飾らず、無理なんかしなくてもよかったのに。
今の君なら婚約破棄なんかしようと思わなかったよ……。」
そう言うと、殿下は私の頬を撫でた。
殿下の冷たく、長い指にゾクっとした。
何してるの?!殿下?!
マーガレット嬢は????
「……!殿下……?!!」
「本当に綺麗だ。」
殿下は私の瞳を見つめ、うっとりとしている。
そして、私の髪を一掬いし、髪にキスをした。
!?えっ?!!! 鳥肌が立つ……
……キザで浮気性な15歳の子供……ちょっと引いてしまうんですけど。
そして私の顎に手をかけ、少し上へ向かせた。
殿下の顔をまじまじと見つめる。本当に憎らしいほど綺麗な顔をしているわね……。
そして、その整い過ぎた顔が近づいてくる。
こっこれは!?まさか……!?
刹那、誰かに体をぐいっと引かれ、殿下と引き離された。
割って入ったのはラグエル様だった。
教室に戻られたのではなかったの?!
ラグエル様は私を抱き寄せたまま、
「殿下!!いけません!!殿下にはマーガレット様がいらっしゃるでしょう?!」
と、息を切らせながら叫んだ。
「君は自分が何をしているか分かっているの?」
殿下は冷たく鋭い瞳でラグエル様に問いかけた。
「殿下こそ、何をしていらっしゃるのですか?マーガレット様を愛していらっしゃるのでしょう?」
殿下はラグエル様に詰め寄り、私をぐいっと引き寄せた。
「だから!殿下!!」
ラグエル様は怒りで顔が真っ赤になっていた。
「ビアンカは僕の初恋の人だよ。そのビアンカが初恋の時と同じように戻ってくれたんだ。僕はビアンカを愛している。それにマーガレットとは婚約していないよ。」
殿下は私を抱き寄せる腕にぐっと力を込めた。
殿下………心変わり早!!それにとんでもないドS。
そこに突然、泣き叫ぶような声が響いた。
「ジェラルド様っ!!」
目に涙を溜めて、怒りに燃えた表情のマーガレット様がこちらを睨んでいた。
「ビアンカ様!!またジェラルド様を誑かして!!邪魔ばかりするのはやめて下さい!!」
私、何もしていませんが……。
それにしてもマーガレット様、授業を抜け出してきたの?あっ、そういえば殿下もサボったのかしら?
それより私は早く授業に戻りたい!先生に魔力コントロールについて質問したい!
「殿下、私は殿下がマーガレット様と幸せになられることを願っております。今は混乱されているだけだと思います。とりあえず、授業へ戻りましょう!」
解放してもらえないので、殿下の腕の中のまま、殿下を見上げて言った。
「…………………………………………。」
殿下はそんな私をじっと見つめ、
「可愛すぎる!!!」
と、さらにきつく抱きしめてきた。
ラグエル様とマーガレット様が怒りをあらわにする。
「殿下!!!おやめ下さい!!」
「ビアンカ様!!泥棒猫!!離れなさい!!!」
2人の叫び声が響いた。
いつまでこんなことをしていなくてはいけないの?!
いい加減に解放してよ!?
「殿下、離して下さいませんか?私は授業へ戻りたいのです。それにマーガレット様も心配されています。」
私は殿下を睨んだ。殿下は見上げる私の顔をうっとりと見つめ、
「そうだね。授業には出ないといけないね。」
と、離してくれた。ただ、離す直前に私の頬に触れるか触れないかのキスをして。
「「あーーーーーーーっ!!!」」
悲鳴がこだました。