第七話 アラン様とお昼休み
今日も中庭のベンチでお昼を食べた。
いつもと違うのは隣にアラン様がいること。
公爵家のシェフのお弁当が絶品だと話すと、アラン様も食べてみたいと言ったので、今日は2人分作ってもらった。
「本当に美味しいね。」
「そうでしょう?」
私は褒めてもらえて嬉しくなった。
「ところで、ラグエル様は良かったのですか?」
「ラグエル様…?どうかしましたか?」
何故そんなこと聞くんだろう?
「いつも一緒におられるし…僕と2人でなんて……。」
アランの語尾が小さくなっていく。
「いつも一緒というわけではありませんわ。2人で食べても何も問題ないでしょう?……あっ、もしかしてアラン様がお困りになりますの?…ごめんなさい…。」
ラグエル様を恋人か何かと勘違いしているのだろうか?
「僕は困らないし…寧ろ嬉しいくらいだけど…。」
「それじゃあ、いいじゃないですか!」
……良かった。
そういえばアラン様は卒業後どうしたいのだろう?
小説では確か卒業を待たずに死んでしまっていたけど…。
「アラン様は将来どうされるおつもりなんですか?」
「僕は長男だから、家の跡を継ぎたいと考えているよ。僕の家は北方地域の領主をしているんだ。この学園を無事に卒業しないといけないけどね。」
「へぇ…北方地域は何か特産はあるのですか?」
「寒くても育つ薬草を育てている人が多くて、薬に加工したりしているよ。他は、冬が長いので室内で行う木工も盛んで、素晴らしい家具を作る職人さんも沢山いるよ。」
アラン様は生き生きと話してくれた。
地元が大好きなんだろうな。
「ビアンカ様は何か考えてる?」
「えっ?!あー……私は……取り敢えず、この学園を良い成績で卒業して、両親を喜ばせたいわ!あとは何にも考えてないですわ。」
「…そうなんだね。マクレイン公爵家には確か他国に留学しているお兄様がおられましたね?その方が跡を継がれると考えると…ビアンカ様は自由ですね!」
アラン様は微笑んでいた。
私にはお兄様がいらっしゃるのね!?初めて知ったわ。情報ありがとうございますアラン様。お兄様、どんな方だろう…?
アラン様と楽しくお喋りしながら食べていると、
「にゃーーん」
足元に白い子猫がやってきた。
あっ!こないだの子猫だ!少し大きくなっている。
「こないだの猫ちゃんね?」
子猫はアラン様の膝に乗っかってきた。
アラン様は引っ掻かれるのではないかと一瞬「ひぃ!」と驚いていた。そりゃあ、怖い目にあったもんね。子猫が喉を鳴らして膝に丸まると彼もほっとしたように息をついた。
「可愛いわね。」
「そうだね。」
2人で仄々とした昼休みを満喫していると、園舎側から男女が歩いて来るのが見えた。
「…あれは…?」
「殿下とストーン男爵令嬢だ!」
アラン様の言葉に心臓が捻り潰されるような感覚に陥った。
殿下!?マーガレット様!?
どうしよう…怖い…。
私は真っ青になり、無意識にアランの袖を掴んだ。
アラン様はその様子を見て、
「逃げる?」
と聞いてきたので、頷いた。
でも足が震えてうまく歩けない。
アラン様に支えてもらいながら逃げるように走り出した。
「…はぁ。気付かれなくて良かった…。」
振り向くと、遠くで2人が抱き合い、キスしているのが見えた。
昼間っから、しかも学園で何をやってるんだか…。
呆れ返ってしまった。
「…大丈夫…?」
アラン様が心配そうに覗き込んでいる。
「……………大丈夫よ。」
「…そう。」
アラン様はそれ以上何も聞いて来なかった。
※ ※ ※ ※ ※
昼休みが終わり席に着くと、ラグエル様が話しかけてきた。
「アランとどこに行っていたの?」
「お昼をご一緒させて頂いておりましたわ。」
ラグエル様の顔が一瞬で曇る。
「俺も行きたかったな。でも委員長だから生徒会の仕事もあるし、お昼休みは生徒会室で食べることが多いんだ。俺もビアンカと一緒にお昼食べたい。生徒会の仕事がない時、一緒に食べよう?駄目かな…?」
ラグエル様が少し不安気に問うてきた。
ラグエル様、可愛い。そんな表情もされるのですね!
「はい。是非食べましょう!その時は我が家の自慢のシェフ特製のお弁当をお持ちしますね!」
「よっしゃー!」
ラグエル様、大人びていてもやっぱり子供ね。
あの喜びよう!
「それはそうと、一年生の委員長は皆生徒会室にいらしたんですね?…あの…殿下…は確か、8組の委員長だとお聞きしたんですが、先程中庭でお見かけしまして……。」
「ああ、殿下は会の終わり頃に令嬢が迎えに来たので先に戻ったんだ。何か用があるとか言っていたけど…中庭にいたのか…?」
そうだったんだ。それはつまり「サボリ」ですわね。
「…君は大丈夫だった?その…殿下が令嬢と一緒にいたんだろう…?」
「ええ。お見かけしただけで、会ってはいませんから。」
「…そう。それで君は本当にもう殿下のことは何とも思っていないの?とても慕っていただろう?」
「はい。それはもう何とも思っていませんわ。」
「そう。」
ラグエル様はホッとしたように笑った。