第四話 アラン様を見つけた!
お昼休みになった。
お昼休みはお弁当を持参していた。学園の地図で中庭があることを発見したので、お昼はそこで食べようと決めていたのだ。
誰にも声を掛けられたくないので、チャイムとともに急いで教室を出て中庭へ向かった。
中庭は綺麗な花が咲き乱れ、池もあり、ベンチも所々備えてあった。
「ああ、やっぱり綺麗なところだった!」
澄んだ空気の中、私はお弁当を広げて食べ始めた。流石公爵家のシェフ、絶品だった。
「幸せ…」
私は緊張から解放され、一時の幸せを噛みしめていた。
他の生徒達は学園に併設されているレストランやカフェを利用している。
その時、叫び声と同時に笑い声も聞こえてきた。
「何事?!」
私は声がする方に向かって歩いた。
生垣をこえたところにある池に男子生徒がはまっており、それを数人の男女が笑っていた。
「!?大変!溺れちゃう!」
「大丈夫ですか!上がってこれますか?」
駆け寄り、必死で叫んだ!
あの子、死んじゃったらどうしよう…!?
「大丈夫だよ。そんなに深い池でないから。歩いて出てくるよ。」
周りで見ている生徒達はそう言うと、笑いながら離れて行ってしまった。
何て薄情な人達…。私は怒りが湧いてきた。
それにしても歩けるんだったら、何であんなに苦しそうなの?!
よく見ると、男子生徒は何かを抱えているようだ。
「ぎゃー!大人しくして。いい子だから!」
何叫んでんの?!…まさか、あれ子猫?!子猫を抱えているの?
「ぎゃー!」
顔引っ掻かれてる!?
その時、近くにあったゴミ箱が目に入った。
「そうだ!」
私はゴミ箱をひっくり返し、覚えたての魔法で男子生徒の側までゴミ箱を浮かせて運ぼうとした。
「この中に猫ちゃんを入れてー!」
でもなかなか届かない。まだ魔法も練習中だ。
男子生徒も魔力を使い、ゴミ箱を引き寄せようとしている。
やった!届いた!
顔や手を引っ掻かれながら、やっとのことでゴミ箱に子猫を入れ、魔力で淵まで運ぶ。淵まで来ると子猫はピョーンと飛び出し、猛スピードで逃げて行った。
男子生徒はボロボロの姿で恥ずかしそうに淵まで歩いて来た。
「……ありがとう。」
真っ赤になって俯いている。手や顔は爪で引っ掻かれて血が滲んでおり、池の泥も被っている。
「感染症を起こしたら大変!」
急いで近くの水場へ行き、男子生徒の泥や傷口を洗い流した。
「早く医務室へ行きましょう!」
「えっ!?一人で行くからいいよ…。」
「一緒に行ってあげる。」
私は情けない姿の男子生徒を放っておくことが出来なかった。
「……………………。」
男子生徒は恥ずかしそうにしながらも一緒に歩いてくれた。途中、他生徒に好奇の目で見られたりもした。
歩きながら、何故あんなことになっていたかと尋ねた。
子猫が池の真上の高い枝で震えており、助けようとしたのだが上手くいかず、思い切って枝の真下の池に入ったのだそう。魔法で子猫を枝から落とし、抱き抱えることが出来たまでは良かったが、その後子猫に暴れられたのだという。
池の真下まで行かずとも魔法で引き寄せられなかったのか?魔法で子猫の動きを止めることは出来なかったのか?等と尋ねると、そこまで魔法に自信がないとのこと。
不器用だけど優しい子ね。
それにしてもあんなにドキドキしたの久しぶりだったな。
チラッと横をみると、男子生徒は恥ずかしそうに俯いている。その姿が何とも可愛らしかった。彼も子猫も無事で良かった。私は急に可笑しくなり、吹き出してしまった。
「ふふふっ」
彼が何事かとこちらを見る。
「皆無事で良かったな。あんなドキドキしたの久し振りだった。」
「…うん。そうだね。」
彼は申し訳なさそうに呟いた。
医務室に着いたところで休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
「どうしたんだ?!」
保健医のダグラス先生は男子生徒を見て驚いた。
「まずシャワーを浴びて。あー君はもう教室へ帰りなさい。」
男子生徒は気になるが、先生がいるので大丈夫だろう。私は授業が始まってしまうので教室へ急いだ。
「これは走っても間に合わないかも!」
教室へ着くと、授業が始まっていた。
ああ………やっぱり……。
「遅くなり申し訳ありません。」
おずおずと席に着き、ふーっと息を吐いた。全速力で走ってきたからしんどいわ。ハンカチで汗を拭きながら息を整える。
「何かあったの?」
隣からスターレン様が小声で聞いてきた。
「ええ…でも大したことではありませんわ。」
「……そうか…?」
怪訝そうな顔を向けられていたが、授業に集中しだすと、彼も前を向いて勉強し始めた。
※ ※ ※ ※ ※
休み時間になった。
あの男子生徒が気になり、医務室へ行こうと急いで教室を出た。すると後ろからスターレン様が、
「待って。どこへ行くんだ?」
と、追いかけて来た。
げっ…何故ついてくるの?!
私は立ち止まらず、
「何でもないですわ。スターレン様はお戻りになって。」
と、先を急いだ。
立ち止まらず走ったので、医務室へ着いた頃には肩で息をしていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……………。」
「医務室に何の用なんだ?」
「わっ!!」
後ろから急に声を掛けられて驚き、
振り向くと、にこやかに息も切らしていないスターレン様が立っていた。
何なの?!この人…。
「何でついて来たの?!」
声にならない声で呟いた。
「失礼します。」
医務室に入ると、男子生徒が手に包帯を巻き、顔にはガーゼを貼ってもらって座っていた。
「大丈夫?」
「ああ…ありがと…」
彼は私を見て一瞬嬉しそうに笑ってくれたが、後ろにいるスターレン様に気付き、固まってしまった。
「スターレン…」
「アランじゃないか?!どうしたんだ?!君はアランに会いに来たの?!」
スターレン様は私と男子生徒を交互に見ながら話した。
そして、彼がーーアランーーと読んでいることに気付く。
彼がアラン様なの?!
見つけた!!私は嬉しくなった。
「子猫を助けた時に怪我をしてしまったのよね。」
と、堪えきれない笑顔でアラン様に話しかける。
「ああ…。もう大丈夫だよ。次の授業から教室へ戻るよ。」
「そう!良かったわ!それじゃあ、一緒に戻りましょう!」
「君たち随分仲が良いんだね。」
私達の様子を見ていたスターレン様が無表情で言った。
「アラン、いつから『ビアンカ・マクレイン嬢』と仲良くなったんだい?」
「えっ?!君、マクレイン嬢なのかい?」
アラン様は驚いてこちらを見ている。
「前と印象が違いすぎて分からなかったけど、よく見ると確かにマクレイン嬢だね……。」
「ええ、そうよ。もう色々疲れたので、素の自分でいることにしたの(どちらが本物か自分でもよく分からないけど…)
だからこれからは仲良くして下さる?リーチェット様?」
「…アランでいいよ。」
アラン様はかなり戸惑っていた。
「俺もラグエルって呼んでほしい。」
「それじゃあ、私もビアンカと呼んでください。」
微妙だけど、割と和やかな空気が流れている。
これって、『初めての友達』が出来たってことでいいのかな?
私の右隣にはラグエル様、左にアラン様が歩き、3人で教室へと向かった。アラン様は3組だそうだ。
アラン様に出会えたことが嬉しくて、顔がにやけてしまう。隣にいるアラン様を見ると、彼と目が合い、彼はビクッと肩を揺らして俯いてしまった。
私のこと、怖いのかな…?
アラン様は銀が混ざったような青い髪にオーシャンブルーの瞳をしている。背はビアンカよりも高いが、ラグエル様程には高くなく、平均位。ぱっちりとした目に、ふんわりとした癖毛で、女の子のような可愛らしい雰囲気があった。
こんな可愛い子が亡くなってしまうんだよね…。今日みたいに無茶して死んじゃうのか、病気になってしまうのか…。いずれにせよ、ちゃんと見ておいてあげないといけないわ。
「……何?」
じっと見つめられ、アラン様が怯えた表情をしている。
私、怖い顔していたかも…。
「ごめんなさい。何でもないのよ。あっそうだ。アラン様は次は何の授業なんですか?」
「えーっと…歴史かな?」
「ラグエル様、私達は魔法薬学でしたわよね?」
「ああ、そうだよ。」
和やかに会話をしていたが、ラグエル様が次に衝撃的な発言をした。
「1ヶ月後にテストがあるね。貼り出されるから頑張らないと。」
!!?
「えーーーっ!?」
どうしよう!?
「確かこの学校は筆記や実技で悪い成績を取ると、容赦なく退学になるんでしたよね?」
「そうだね。」
あーやばい!優しい両親の顔が浮かぶ…。
「…………………。」
「自信ないのかい?」
「……………………。」
「顔が真っ青だよ。自信ないのなら、俺が教えてあげようか?」
え?!それは嬉しい!
「教えて下さるのですか?」
顔がぱぁーっと明るくなった。
「そんなこと、お安い御用さ。」
ラグエル様もにこにこ微笑んでいる。
「ねぇ!アラン様も一緒に勉強しましょうよ!」
「「えっ?!」」
ラグエル様の表情が一瞬で曇った。
「アランも来るの…?」
ラグエル様の顔色を見て、アラン様は「僕はいいよ」と必死で拒否してきた。
「お願い!ラグエル様!」
「アラン様もお願い!皆で勉強した方が捗るわ!」
私は必死で懇願した。
だって、ラグエル様と2人でお勉強だなんて嫌だもの。
アラン様ごめんね。
私の必死のお願いに2人は折れた。
勉強会は毎日、放課後に行うことになった。
「よろしくお願いします!」
私はラグエル様の手を取り微笑んだ。
「………………ああ。」
ラグエル様は真っ赤になって固まっていた。
読んで下さりありがとうございました。