第三話 初めての異世界学園生活
「私は1組だったわよね…。」
部屋でこもっている間に読んだ入学説明書を思い出しながら歩いた。校内案内図も頭に叩き込んできた。
…そこまでジロジロ見なくてもいいのに…。
久し振りに登園した為か、皆の視線が痛い。
婚約破棄をされて、いい見世物よね。
だけど断罪回避する為にも、愛想良くしなくてはいけないわ。
「おはようございます。」
「えっ?あっ…おはようございます…」
にこにこ微笑みながら、令嬢や令息に挨拶した。皆、戸惑いながらも挨拶を返してくれる。
ようやく教室まで辿り着いたのだが、
…しまった!自分の席が分からない!
私は教室の入り口で立ち止まってしまった。
「………あの、どうされましたか?」
後ろから声を掛けられ振り向くと、茶色の髪で眼鏡をかけた真面目そうな青年が立っていた。容姿も整っており、背も高く、眼鏡の奥の瞳は赤色をしていた。
この人は誰だろう?綺麗な顔をしている。小説の登場人物だったかな?
しばらく見つめながら考えてしまった。
「新入生の方ですか?」
青年は耳まで赤くし、再度問うてきた。
えっ?……私のことが分からないの?!
「私はビアンカ・マクレインです…よ?」
「……………………。」
「………………………。」
しばらく教室が沈黙したが、直ぐ様「えーーーー?!」「うそ?!」等とあちらこちらで悲鳴が上がった。
声を掛けてきた青年も固まっている。
そして私の顔をまじまじ覗きこんで、
「……確かに…マクレイン嬢だ…信じられない…。」
青年は口に手を当てて、目をまん丸にしている。
「……………………………。」
どうしよう…皆にこんな反応されるとは思わなかった。
それより席!私の席はどこ?!
「あの、すみません…?しばらく休んでいて分からなくなったのですが(しばらくでもないけど)私の席はどちらか教えて頂けませんか…?」
恐る恐る尋ねた。
「……君の席はここだよ?」
私の席は窓際の一番後ろだった。
あー良かった!私は青年に微笑んでお礼を言った。
「……いや………どういたしまして…。」
青年は恥ずかしそうに俯いて返事をした。
8日しか経っていないから席なんて変わっていないだろうに、変に思われただろうな……。
それより、あー落ち着く端の席!
それにしても皆の名前が分からないわ…どうしよう…。
その時、ふと席の後ろにある掲示板に目をやると、顔と名前が載った今年一年の目標が書かれている掲示物に目が止まった。
これだ!!
半年もいて顔も覚えてないって思われるのは嫌だものね。
私は立ち上がり、掲示物をみた。
うーん…すぐには覚えられないわ…。
あっ、この人さっきの人だ。えーっと、『ラグエル・スターレン』と書いてある。スターレン様というのね。何々…火属性の上級魔法の習得と、不得手な剣術の鍛錬、委員長としてクラスを率いていくこと…と目標が書かれている。
やっぱり見た目通り真面目な人…。
私は微笑ましくなり、ぷっと吹き出してしまった。中身28歳ですからねー。15歳の初々しい目標は可愛いわ。
で……嫌な予感しかしないけど、私の目標は……『王太子妃としての知識と教養を身に付けること』と書いてある。健気だけど、婚約破棄されたから痛々しいわ……落ち着いたらこの目標変えてもらいましょう…。
私は婚約破棄された小説のページをふと思い出していた。
……………………………。
……待って…。思い出した!
ラグエル・スターレンは駄目よ!
ビアンカが禁呪法を使おうとしていることを突き止め、断罪した人物だわ!冷たい表情で執拗なまでに調べられ追い詰められたのよ。この人はビアンカにとって敵だわ!
あんまり近寄らない方が良さそうね。
思い出して良かった…。
私は席に戻り、教科書を広げた。
政治的なことから魔法に関することまで幅広く書いてある。
これからが大変ね…。
「はぁーー」思わず溜息が出た。
「君……随分印象が変わったね。」
声を掛けられ横を向くと、隣の席に座ったスターレン様がいた。
…げっ、隣の席なんだ……
「……ええ、もうああいうのは疲れましたの。」
「そうなんだ。でもその方が似合っているよ。」
スターレン様はこちらに体を向け、じっと見つめてくる。
…何か粗探しされてるのかな…?怖いんですけど…。
「君が大人しく教科書を読んでるの、初めて見たな。」
スターレン様はこちらを見続け微笑んでいる。
「…そうですか……」
ビアンカって、勉強しない子だったのかしら…?
その時、教室のドアが開かれ、先生が入ってきた。
「皆席に着けー!」
あー良かった!スターレン様と延々と喋らなきゃいけないのかと思った。
私は授業に集中した。
※ ※ ※ ※ ※
休み時間になった。
「1組にすごい美人が来たって聞いたけどどこだ?」
「新入生?」
「違うわよ。婚約破棄されたマクレイン様よ!」
教室の外が騒がしい。
「皆、君の噂を聞いて見に来てるよ。」
スターレン様が悪戯っぽく笑いながら話しかけてきた。
「婚約破棄された令嬢を面白おかしく見に来たのかしら。」
私はうんざりした。こんなに騒がれるとは思わなかった。
「婚約破棄もすごかったけど、それより君の今の姿だよ!」
「今の姿……そんなに目立ちますか?」
「うん。とても……綺麗だよ…。」
スターレン様は耳まで真っ赤になり、語尾は小さくなっていた。それでも綺麗だと言われたのは嬉しかった。以前はバケモンでしたからね。
「ありがとうございます。」
下を向いたスターレン様を覗き込むようにしてお礼を言った。
「……………ああ。」
スターレン様は固まっていた。
「婚約破棄されたのに、よく来れましたわね。」
クスクスと笑いながら、令嬢2人がやって来た。
……うーん。名前が分からない。
「ええ、学園は卒業したいと思いまして。勇気を振り絞って来させて頂きました。」
「へぇ?また殿下達の邪魔をしようと思っていらっしゃるんでしょう?」
令嬢達は蔑んだ目を向けている。
「私、もう殿下のことは何とも思っていませんの。今までの自分が恥ずかしくて仕方ないわ。皆様にもご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。」
令嬢達……否、教室中の皆が驚愕の表情をしている。
「マクレイン様が謝っている…!?」
ビアンカって、謝ったことないのね…?
教室に嫌な沈黙が流れた。
「…そっそう……。それではまた、ご機嫌よう。」
令嬢達は顔を見合わせながら、そそくさと離れて行った。
…いちいち疲れる。
私は教科書を読み、次の授業に備えることにした。
読んで下さりありがとうございました。