第十五話 ラグエル様の家族と将来
「随分楽しそうだね!」
自席につくと、隣のラグエル様が覗き込んできた。
「ええ。今日、ジョージア様が退室したの。でもこれからも変わらず仲良くしてくれるって言ってくれたのよ。嬉しいわ!」
笑顔で興奮気味に言った。
「……そう、それは良かったね!」
ラグエル様は私を喰い入るように見つめている。
顔が少し赤くなっている?
「……………?どうかされましたか?」
「………いっいや、何でもないよ。ところでビアンカ様は将来はどう考えているの?医療の道に進みたいの?」
「……将来?……まだ何も考えていませんわ。」
「医務室での仕事をしている時、目が輝いているよ。この仕事が好きなんだろう?」
「……………………………………。」
ラグエル様に問われ、将来について考えた。
このまま戻れずにこの世界にいるのなら、真剣に考えないといけないわね。
「まだよく分かりませんわ……。
ラグエル様はどうされるおつもりなんですか?」
「俺は魔法省へ入りたいと思っているよ。家は兄が跡継ぎになるからね。」
「へぇ、凄いですわ。エリート官僚ですね!
確か、スターレン伯爵様は南部の穀倉地帯を治めていらっしゃったわね?きっと美しいところなんでしょうね。」
「とても美しいところだよ。ビアンカ様にも是非来て頂きたい。妹2人もいて、とても賑やかだよ。」
「まあ、楽しそうですわね!」
「さあ、皆席につけー。」
先生が教室に来られた為、話は中断した。もっとラグエル様の話が聞きたいわ。どんな妹様なんだろう?
授業が終わり、休み時間になった。
「ラグエル様のご兄妹はおいくつなんですか?」
「俺の妹は歳が離れていて、10歳と5歳だよ。兄は19歳で、父の仕事を手伝っているよ。兄は真面目だね。妹はいつもキャーキャーやかましいよ。」
ラグエル様は家族を思い出し、優しい顔をしていた。
「ラグエル様が妹様に振り回されている姿を想像すると微笑ましいわ!」
「ビアンカ様、長期の休みに、是非家へ来てほしい。お茶会か何か考えてみようかな……。」
ラグエル様は私の様子を見ながら、真剣に考えている。
「あっ、そうだ。話は変わりますが、さっきの計算はどの公式を使ったら解けますか?」
「どの計算?ああ、これはね、この公式を使って。こうして、こうしたら…………はい!解けたよ!」
ラグエル様は私のノートに書き加えながら教えてくれた。
ラグエル様と同時に顔を上げた瞬間、2人の顔が驚くほど近づいて、思わず仰け反ってしまった。
…わっ!びっくりした…。
ラグエル様はそんな私をじっと見つめて、両手をぎゅっと握ってきた。そして、「ビアン………」と言いかけたところで、
「2人は婚約するの?」
同じクラスの男子生徒が数人、私達を囲んで尋ねてきた。
いつからいたの……?!
ラグエル様はばっと手を離し、「何もないよ……今はね…。」と顔を赤らめていた。私も顔が熱い…。
「2人仲良すぎるよね?」
本当に何もないの?と疑いの目を向けている。
「勉強を教えてあげているだけだよ。」
「そうです。教えてもらっているんです。」
「ふーん。それじゃあ、俺達もこれから仲間に入れて?」
「は?!何で?!」
ラグエル様の表情が一気に曇る。
「俺もビアンカ様と話がしたい。ラグエルばっかりずるいぞ!!」
「私は…かまいませんよ……。」
「……って、おい!?」
私の発言にラグエル様が落胆し、男子生徒はガッツポーズをして喜んでいる。ラグエル様はとうとう諦め、「分かったよ……。」と項垂れた。
それから休み時間の質問会は賑やかになり、勉強とは関係ない話も増えていった。