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第一話 目が覚めると小説の世界だった!?



 

 「…何でこんな可哀想な最後を迎えるの?」

 

 私は今読み終えたばかりの小説『愛しき人へ』をゆっくり膝の上に置いた。


 この物語の舞台は、中世を思わせる貴族社会があり、魔法が息づく異世界。

 ここカルスト王国は歴史も古く、魔法を使える者も多くいる為、あらゆる建物や美術品に魔法が込められ、神秘的な輝きを放っていた。

 この国の第一王子ジェラルド・フィロストは、幼い頃に筆頭公爵令嬢ビアンカ・マクレインと政略的に婚約した。しかし、派手で傲慢な令嬢に愛情が持てず、常に冷めた態度だった。それでもビアンカは王子を慕い、懸命に追いかけていた。

 そんな時、王子は『王立ラタリュウス学園』の入学式で男爵令嬢マーガレット・ストーンと運命的な出会いを果たす。2人はすぐに恋に落ちた。ビアンカはそれが許せず、マーガレットに執拗な嫌がらせを繰り返すようになった。王子は辟易し、ビアンカとの婚約を破棄、新たにマーガレットと婚約を結んだ。それが受け入れられないビアンカは嫌がらせをさらに過激化し、最後はマーガレットに禁呪法である死の呪いをかけようとした為、処刑となってしまったのだ。

 その小説の中に時々アランという伯爵子息が登場したのだが、彼は色々な場面で巻き込まれ、何と最後は在学中にひっそりと亡くなっていた。脇役の為か、原因は書かれていなかった。


 「何で…?」


 男爵令嬢と王子さえ幸せになれば良いというような何とも薄っぺらい話だ。

 ビアンカも嫉妬で苦しんでいたのだから、誰か寄り添ってくれる人がいても良かったと思うし、アランに関しては不幸続きな上、最後は亡くなるなんてひどすぎると思った。


 「ビアンカとアランが幸せになるような話に変えてしまいたいわ。」


 私は溜息をつき、天井を仰いだ。



※ ※ ※ ※ ※

 


 私は高峯さら 28歳 看護師として病院勤務している。漫画と小説が大好きで、休みの日は一日中読みまくっていた。

 

 「…だから彼氏も出来ないんだろうけどね…。」


 同僚の友人にもいつも呆れられている。 

 出会いの場である飲み会にも誘われるが、興味も湧かず断り続けている。

 

 「仕事で倒れそうなくらい働いてるのに、休みの日に飲み会だなんて、考えただけでぞっとする。私は大好きな本を読んで過ごしたい。


 それにしても、あの物語はないわ。」

 

 布団を頭からかぶり、物語のことを考えながら、そのまま眠りについた…。

 

   

※ ※ ※ ※ ※


 

 「ふあぁ〜よく寝たー。」

 

 伸びをして布団から出ようとした瞬間、

 

 ドッシーン!!

 

 勢いよく床に転落してしまった。

 

 「えっ!?何ここ!?ベッド??」


 いつものように畳に布団を敷いて寝ていた筈が、まさかのベッド!?辺りを見回してみるとピンクを基調とした乙女チックな部屋に、自分はレースがふんだんに使われたネグリジェを着ている。側の姿見で確認すると

 

 「!?外国の美少女…になってる!?」

 

 誰?何?えーーーー!?

 驚きのあまり固まってしまった。

 私、何でこんな姿に…あっそうか、これは夢だ!

 

 その刹那、トントントン ドアをノックする音が聞こえ、思わずビクッと肩を揺らした。

 

 「はっはい!?」


 思わず上擦った変な声を出してしまった。

 入ってきたのはメイド服を着た女性が3人。

 

 「お嬢様おはようございます。朝のお支度を致します。」

 

 「……おっ…おはようございます……。」

 

 どうやら侍女らしいが、挨拶しただけなのに何故か驚かれ、穴が開くように見つめられた。なっ何で!?何か可笑しなこと言った?私は挙動不審にオロオロしてしまう。それにしても本当にリアルな夢だ。


 「今日もいつもと同じでよろしいでしょうか?」


 いつもと同じって何?


 「えっ?はい…よろしくお願いします。」


 分からないまま返事してしまった…。


 侍女達はまたもや驚いた表情で顔を見合わせていたが、手際良く支度を始めた。制服のようなものを着せられ、鏡の前に座ると、次は長い髪をゴージャスに縦巻きにされた。そして、濃いお化粧を施される。


 …何これ…。


 起床後すぐに見た自分は美少女だと思ったのに、今鏡に映る自分は、


 「バケモンだ…。」


 金髪を縦巻きにしボリュームアップ。元の顔も分からないほどの厚化粧。唇は真っ赤で、腫れているようだ。どこの悪魔かと思った。


 バケモン…という私の呟きを聞いてしまった侍女達が突然、


 「申し訳ございません!!いつもと同じにしたつもりですが、お気に召しませんでしたか?どう直させていただきましょうか?」


 震えながら平伏し謝っている。


 そこまで謝らなくても!?…………出来れば初めから全部直してもらいたいけれど、怯える侍女達にそんなこと言える勇気もなく……


 「このままでいいです。」と、不本意ながら答えた。


 侍女達は安堵した表情をした。


 「今日も学園での授業頑張って下さい。朝食の用意が出来ておりますので、どうぞいらして下さい。」


 学園での授業って何?今からこの姿で学園へ行くの?


 ………恥ずかしすぎる!!!


 学園のことや自分自身のこと等、聞きたいことは沢山あるけれど、小心者の私は聞くことが出来ず、今、朝食の席についている。


 広いテーブルにはこちらを見て微笑む金髪の美しい女性と、紺色の髪に私と同じ緑の瞳をした美丈夫がいた。会話を聞いていると、どうやら両親のようだ。威厳ある父親は王宮で宰相をしているらしい。

 

 それにしても母親も侍女達も適度なお化粧をしており、とても綺麗だ。自分だけがこんな奇抜な外見をしており、妙に浮いた感じがする。


 「はい」「そうですね」等と無難に会話をしている内に、登校の時間となってしまった。


 もう…行くしかないわね…!

 馬車が用意され、侍女と共に乗り込む。


 窓の外を見ると、美しい田園風景が広がっていた。しばらくすると町の中に入って行き、見たこともないようなお店が立ち並んでいた。行き交う人々の髪色や瞳色もそれぞれ違い、まさに異世界という感じがした。興味津々で思わず窓から乗り出すように見ていると、


 「…お嬢様、危のうございます。」


 侍女が恐る恐る声を掛けてきた。


 私は首を引っ込め、「ごめんなさい」と謝った。侍女は目をまん丸にして驚いていたが、その後、謝らないで下さいと恐縮していた。


 そして、馬車は立派な門の前で停車した。


 その門の石壁には


 『王立ラタリュウス学園』と掘られていた。


 …!? 


 王立ラタリュウス学園って、『愛しき人へ』の小説に出てきた学園じゃない?!


 何で?!


 そこで自分が今朝、両親から呼ばれていた名前を思い出し、恐怖に包まれた…。


 ーービアンカ……ビアンカと呼ばれていたわ!

   そして、この奇抜な外見!

   ………もしかして、もしかして私…


 ーー筆頭公爵令嬢ビアンカ・マクレインなの?!


 青い顔で前屈みとなり、小刻みに震えた。


 「お嬢様、ご気分が悪いのですか?」

 

 侍女の問いかけにも反応出来ない。

 

 「………………………。」


 その時、侍女がふと窓の外を見て、


 「…あれは…フィロスト第一王子殿下…」とかすかに呟いた。


 !!!!!


 急いで窓の外を見ると、護衛に付き添われた見目麗しい青年が歩いていた。


 ーーあの容貌は殿下に間違いない!………やっぱり…あの小説の世界だ………!


 …嫌……!!


 ブワーン…と耳鳴りが渦巻くように襲い、目の前が真っ黒になった。


 ーー私はこの学園で今どんな状態なの?婚約破棄された後?される時?…殺される前…………?


 あまりの恐怖と絶望に、私は意識を失ってしまったーー





読んで下さりありがとうございました。

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