第3話 俺口調の私っ子
16歳の誕生日プレゼントで兄から貰った、VRゲーム機を被ってベットで横になると、
「ゲームログイン!!」
と言って、起動させる。仮想世界に続くロード演出。しばらくすると、プレイヤー名の登録画面になった。
「えーと、名前、名前……」
ゲームでまず最初に悩むのは、この時だろう。
本名で始めるのも1つだが、危険なので考えていると、”ランダムセレクトアイコン”が表示された。
「ちょっとやってみようかな」
仮想キャラクターの腕を動かし、指先を触れさせる。
文字が素早く変わるのを見ながら待っていると、確定音が鳴り止まった。
〈ランダムセレクト結果〉
〈ルグア ※ランダムセレクトはあと1回行えます〉
試しにやって出た名前。残り1回もと思ったが間違えて決定、ガッカリしながら、フィールドに移動。
ロード演出が途切れ、開けた場所は宇宙空間で、空を見上げると星が輝いていた。
何かを持っている感触がして、手元を見ると、〈ガイア〉と書かれた1枚の紙。
なんだろうと思いながら、歩き回ると、
「あの、ルグアさんですか?」
1人の中年男性が駆け寄り尋ねる。
私も同じように
「はい、そうですけど、もしかしてガイアさん?」
確認。男性は、
「はい。これから始まるレースに参加するのですが、運転をしてくれる人を探していて」
そういう理由なら、私も実際にやってみたい、
「はい、喜んで」
私は、大きく頷き運転席に乗りこんだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【アナウンス:これより、第45回コスモスサーキット・カスタム乗用車杯を開催します】
――おおぉぉぉー!!
響くアナウンスと、観戦者の声に緊張して固まった自分がスクリーンに映し出される。
【アナウンス:実況は、この私テントがお送りします。用語に関しては無知ですので、ご了承ください】
スクリーンは放送席のテントに変わり挨拶すると、再びレース会場へカメラが向けられた。
【テント:では、出場者を紹介します。第1コース過去4冠獲得したブレス選手】
すると、スクリーンに車に乗った20代くらいの男性。
【ブレス:復帰戦なので、久しぶりのトロフィーを狙って頑張ります】
男性が意気込みを伝えると、今度は同じく20代くらいの女性。
【テント:第2コース、25回から連続優勝のレーナ選手、本大会も栄冠を手にするのでしょうか?】
実況者が話しかけるが、レーナは無言で私の方を見てスクリーンを指さす。
【テント:第3コースはガイア選手なんですが、別の方が乗っています。自己紹介お願いしてもいいでしょうか?】
スクリーンには、私にスポットが当たっていた。
(突然自己紹介って言われても、こんな大勢の前はちょっと……)
まさかの展開に緊張が激しくなる。
『ねぇ、あなた。見ない顔だけど、このタイプのゲームは初めてかしら?』
さっきまで口を閉じていたレーナが話しかけてきた。
私は小さく頷きレーナに助けを求める。
『普段の自分が恥ずかしいなら、別の自分になればいいんじゃない? アタシもそうしてるから』
別の自分になる。ゲーム内だけの姿ってことだろう。
ルグアという名前、かっこいいから男で使う人がいると思った。
それなら、
「私はルグア。レーシングゲームをプレイしたことはあるが、このタイプは初めてだ。まあ、よろしく頼む!!」
俺口調混じりの話し方。違和感はあっても、プレイヤー名で考えれば以外としっくりくる。
助手席のガイアが、
「る、ルグアさん? なんかキャラ違くないですか?」
と戸惑いの声。
「ま、気にすんな。ゲーム内キャラの方が話しやすい。あ、これ1分前に気付いたやつ」
しっくりし過ぎて、戻りそうにない自分のセリフにガイアが苦笑した。
その後も、4人紹介してコース説明すると、いよいよレースが始まった。