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7/10

CP7 黄河の場合


 俺の名前は山田尊。今年で42歳のでぇベテラン中年だ。

 ああ、異世界転生して、悪役令嬢とつるみてぇ。

 自分で言うのもなんだが、かなりのこじらせ具合のいい歳をした中二病だ。

 つける薬なぞ、ある訳ない。あったら、とっくにまともな人生を送っているだろう。

 ふん、人にはそれぞれ生き方がある。なので、こんな生き方も悪くない俺はそう思っている。

 どうして、誠実に生きるのは難しいんだろう。


 なーんて、俺は阿保か・・・。

 布団に潜り込み、俺は目を閉じる。

 明日も変り映えのない平凡な毎日に備えて。

 現実の毎日を送るのだ。

 


「たけっち・・・、おはよう」

 俺は眠い身体を起こし、声のする方を見る。

 いつもと同じで、ちょっとだけ世界が変わったように感じた。

 俺の新しいはじまりがはじまる。



「たけっち先生、おはよう」


「・・・ああ、黄河か」


「どうした、しけた面して」


「いや、ぼーっとしていた」


「ははは、先生らしいや」


「どういう意味だよ」


「別に、先に行くよ」


 黄河はくすくすと笑い、身をひるがえす。

 紺のブレザー制服に赤いネクタイ、赤と黒のタータンチェックのスカートを着た少女は、長い髪をなびかせ走っていく。


 知念黄河(ちねんこうが)。18歳。かつて、愛用する武具方天画戟をひっさげ、森羅王朝の最後を見届け、栄国でも大将軍となり、別世界を救った少女。現在は沖南高校に通う三年生。尊の実家の隣に住み、昔からお互いを知っている。なぜか、運動部ではなく、尊が顧問をつとめる発掘調査隊(部。周りから馬鹿にされ隊とあだ名されている)に入部している。転生前の記憶はなかったが、最近思い出しつつある。

 活発そうな日焼けした小麦色の肌に大きな瞳、ちょっぴり赤みがかった長い髪がトレードマークで、アタイが口癖の少女。


「・・・そうきたか」


 尊は苦笑いして呟いた。


 四限目の歴史の授業。

 尊は教壇に立っていた。

 彼は喋りながら黒板にチョークで文字を書く。


「西暦239年、卑弥呼は魏から親魏倭王の金印を送られる」


「なー、せんせー」


 黄河が手をあげる。


「はい、知念」


 尊は指さす。


「ひめっちは、どうなったんだ?」


「ひめっちって?」


「だから、ひめっち、ひめっちだよ」


「・・・お前・・・」


 教室が黄河の質問に生徒たちがざわつきだしている。

 尊は何食わぬ顔でさらりと授業を続けながら、


「ひめっちというのは、卑弥呼の後を継いだ壱与のことだな。彼女は女王の後を受け継ぎ、邪馬台国をおさめるんだ」


 その場をかわした。


「そうか、良かった」


「知念の成績も良くなればいいけどな」


「余計なお世話だ」


 教室から生徒の笑いがおこる。


 放課後、発掘調査部部室にて。

 幽霊部員三名+黄河。

 実質開店休部状態の部室に尊と黄河はいた。


「いつからだ」


「何が」


「・・・記憶だよ」


「この前・・・突然」


「そうか」


「戻りたいか」


 黄河は尊の質問に首を傾げる。


「いや、ぜんぜん」


「そうか」


「・・・それより」


「?」


「この気持ち、どうしてくれる」


 黄河はじっと尊を見つめる。

 その訴えかけるような真剣な瞳に思わず後ずさる尊。


「へっ、しゃあねぇな」


 黄河はテーブルに置いた鞄を片手で肩に担ぐと、教室を飛び出した。


「・・・・・・」


 尊は一人その場に佇む。


 そして、学校は夏休みを迎えた。

 尊は悶々と考え続けた。

 沖縄の夏は暑い、ひたすら暑い。

 扇風機では駄目だ!尊は壊れたクーラの部屋をあきらめ、図書館に行こうと外へ出た。

 玄関先でバッタリ黄河と会う。


「よう」


 尊は片手をあげる。

 白いワンピースに麦わら帽の黄河は、ぎこちなく言う。


「どこ行くんだよ」


「どこって・・・うち、俺の部屋クーラ壊れて地獄だから、図書館で涼もうと思ってな」


「へー、奇遇だな、アタイも受験勉強しようと思って、図書館に行こうと思っていたんだ」


「ふーん」


「なんだよ」


「それにしちゃ、お前、手ぶらじゃないか」


「!・・・手ぶらでも、勉強は出来るだろうが」


「ま、それはそうだが」


 そんな不毛な会話をしている内に、てぃだ(太陽)がかんかんに照りつける。

 汗だくの二人。


「・・・じゃ、行くか」


「ああ」


 図書館で尊は読みかけのラノベのページを開く。


「なんだよ。ラノベかよ」


「なんだよとはなんだ。おじさんが、ラノベを読んで悪いのか」


「いや、別に。で、何、読んでいるの・・・なになに『異世界召喚されたら、そこは悪役令嬢のハレムだった。~勇者俺様!皆の者、ひざまづけチートな俺のハッピーライフ♡』って、タイトル長っ!」


「しーっ、恥ずかしいじゃないか」


 尊は周りを気にし、人差し指をたて黄河に言う。


「だったら、読むな、持ってくるな」


 黄河は声をひそませて言う。


「・・・おっしゃるとおり」


「だろ」


「・・・って、俺のことよりも、お前、勉強は」


「ま、いいじゃん」


「よくないだろ・・・黄河お前、一応、進学希望だろ」


「一応ってなんだよ」


「ただでさえ、今のままじゃいけないんだぞ。ちゃんと頑張んなきゃ」


「もういいよ。そうだ、アタイたけっちに永久就職しようかなぁ」


「・・・・・・」


 尊は無言で黄河の目をじっと見て、ラノベを閉じると、椅子から立ち上がった。


「・・・たけっち・・・ちょ」


 尊は黄河の手首を掴むと図書館を後にする。


 二人は海岸沿いの大きな木陰の下にいる。

 夕刻時、少し涼しくなったものの、さっき買ったブルーシールのアイスは溶けだしていた。

 尊は胡坐をかいて座り、クッキーサンド味のアイスを食べる。

 黄河は気まずそうに、隣にちょこんと座り、ストロベリー味を食べ始めた。


「・・・ごめん」


 黄河が謝る。


「いや、いい」


 尊は集中してアイスを食べている。


「アタイ・・・不安なんだ」


「だろうな」


「だから、たけっちが・・・」


「黄河は、この世界で何がしたい」


「それは、たけっちと」


「うーん」


 尊は唸った。


「俺はこの前までぐうたら中年だった。でも、黄河達と旅をしていろんな世界を見た。そして、分かった。この世界は素晴らしいって」


「たけっち」


「お前は、まだ若い。いろんな可能性を秘めている」


「・・・・・・」


「黄河が俺を好きでいてくれるのは、嬉しい。俺も黄河が好きだよ」


 突然の告白に、黄河の耳が熱くなる。


「だったら・・・!」


「黄河、せっかくこの世界に来たんだ。その意味があるはずだ。もっと、世界をみて見ろ」


「・・・・・・」


「しっかり、頑張って納得して、この世界を生きてみて、それでも俺が好きなら俺の所へ来い・・・もう、その頃はじいさんかも知れないけど、待っててやるよ」


 尊は笑った。

 黄河の両目からは涙が溢れる。


「でも・・・アタイ、アタイはきっとずっとたけっちが好きだよ」


「わかっている、わかってるよ」


 真っ赤な夕日沈む中、尊は黄河のおでこに優しいキスをした。



 五年後、母校の教壇に立つ黄河。

 誇らしげに胸をはる。

 深く息を吸い込み、生徒に向かって挨拶する。


「みなさんの歴史を担当する山田黄河です。よろしくお願いします」


 意外と長く書いてしまった。

 はい、今回は7番手黄河さんです。後宮編からずっと彼女のキャラに助けられました、非常に描きやすかったです。ありがとう(笑)

 教師と生徒、禁断の恋なのですが、甘酸っぱい仕様にしております(正直な所は書いている内にそうなりました)。若いときは様々な可能性があります、そういうところもね、おじさんとしては書きたかった(偶然です)・・・。なんちって。

 残り、三回で完結させようと思います。いつまでもダラダラ書いていても、未練がましく作品も喜んでくれないでしょうから。

 では、引き続き、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 黄河さんは学生になりましたか。こちらの世界に適応しそうといえば適応しそうですね。 [一言] あと三回、頑張ってください。
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