CP6 蕉蝉の場合
俺の名前は山田尊。今年で45歳のでぇベテラン中年だ。
ああ、異世界転生して、悪役令嬢とつるみてぇ。
自分で言うのもなんだが、かなりのこじらせ具合の中二病だ。
つける薬なぞ、ある訳ない。あったら、とっくにまともな人生を送っているだろう。
ふん、人にはそれぞれ生き方がある。こんな生き方も悪くない俺は知っている。
それだけで十分だ。でも、足りない。満たされない。むくりともたげる負の感情。
布団に潜り込み、俺は目を閉じる。
明日も変り映えのない平凡な毎日に備えて、現実の毎日を送る。
はずだった・・・。
「おはようございます。そろそろ、起きてください」
俺は眠い身体を起こし、声のする方を見る。
ちょっとだけ世界が変わったように感じた。
俺の新しいはじまりがはじまる。
尊は森羅王朝後の世界と彼女が気になり、彼は選んだ。
「おはようございます。尊様」
「・・・・・・」
「えい」
「うわあ!」
尊は顔に柔らかい感触を感じた。
蕉蝉の胸が押し当てられている。
「ちょっと、その起こし方やめてくんない」
「ふふ、嬉しいくせに。それに私、花様にも同じようにしてますよ」
彼女はくすりと笑った。
蕉蝉。23歳。かつての森羅王朝の最期を見届け、別の世界に光をもたらした女性。現在は、栄国の大将軍となった黄河の元へ、花々、尊と共に身を寄せている。
忍びの才能があり、諜報活動が得意である。性格はツンデレ本作品で唯一、悪役令嬢に相当する女性(前作で四人って書いていたよね・・・ごめんなさい)である。
スレンダーボディの持ち主で、彼女の気になる胸はほどよく成長している。
「おはようございます。尊さん」
花々は食卓に朝食を並べている。
「ああ、おはよう花々」
「はいっ」
彼女の優しい笑顔はいつも尊をほっこりさせる。
彼は思わず、デレる。
蕉蝉は口を尖らせる。
「おはよう。たけっち、今日は軍議だぞ」
黄河は、ものすごいスピードで朝食をかきこんでいる。
「おはよう、黄河。分かったよ」
尊は微笑んだ。
蕉蝉は彼を覗き込む。
「何か?」
「別に」
彼女はぷいっとして、朝食をとりはじめる。
尊と黄河は並んで登城する。
尊はこの世界を選んださい、彼女の副官となっていた。
姜心も付き従い、王の間へ入った。
「今日はなんでしょうね」
姜心は顎に手をあてて、思案している。
「周辺賊軍の征伐かな」
尊は答える。
「・・・いや」
黄河は呟いた。
ほどなくして栄王が現れた。
拝謁する皆は平伏する。
当然、尊もそれに倣う。
王は恐縮し、すぐに手で制し止めさせる。
「どうも慣れん」
栄王は苦笑する。
「こ度の軍議だが、いよいよこの中花を制する時が来た」
「おおう」
皆から感嘆の声があがる。
「ついては、黄河大将軍」
「おう」
「五万の兵を連れ、函渓関を打ち破って欲しい」
かつて「猛章論」を書いた倫白は言った。「中花大陸に抜けぬものあり、齢100の老婆と函渓関なり」と、それほど中花の東に位置する函渓関は強固であった。しかし、そこを打ち破れば、残る最後の賽国の首に剣を突き立てたも同然となる。
周りからどよめきがあがる。
「わかった」
黄河はあっさりと受託した。
その後、黄河はみっちりと姜心に説教を受ける。
いつも簡単に何でも引き受けるなと。
黄河宅に戻ると尊は湯に入る。
気持ちよさげに目を閉じる。
(また戦になるのか・・・)
「入りますね」
彼の思考が破られる。
蕉蝉が一糸まとわぬ全裸でやって来る。
「ちょっとは、恥じらいを見せろ」
尊は彼女から背をむける。
「あら、皇帝だった頃をしょっちゅう、私達の裸を楽しんだくせに」
「それは、俺がうつる前の皇帝だ」
「そうでしたっけ?」
「ああ、多分」
「・・・ほんとう?」
蕉蝉は尊に密着する。
腕におっぱいが当たっている。
「・・・ああ」
尊が思わず喘ぐと、
「入るぞ!」
ずかずかと黄河が風呂に入る。
「お前まで来るのか」
「なんだよ、たけっち、明日は戦場だぞ。今裸の付き合いしなくて、いつするんだよ」
「俺はゆっくり入りたいの」
「なに言ってんだ。スケベのくせして、なぁ」
「ええ」
蕉蝉は頷いた。
「みんな、ズルイですわ」
花々がいそいそとやって来る。
相変わらずのダイナマイトボディに、みんなは感嘆の声をあげる。
「なんですの」
花々は顔を赤らめる。
「なんだよ。一体」
尊もそっぽを向き続いて言う。
「尊様、あれですよあれ」
蕉蝉が悪戯っぽく笑った。
「ああ」
黄河は合点する。
「そうですわね」
花々は笑う。
「ん?」
三人は声を揃えて、
「尊ハレムシステム!」
「!」
蕉蝉は、真っ先に尊に抱きついた。
「ふふふ、尊様。大好きですわ」
翌、栄歴元年。
栄王は賽国を倒し、栄王朝を建国する。
凱旋する英雄、黄河、尊、姜心の横には、蕉蝉、花々の姿があった。
はいっ、6番手蕉蝉さんです。悪役令嬢風味を出したかったけど、できんかった(笑)。
前作タイトルに四人の悪役令嬢となっているのに、みんな比較的いい子ばかりですよね。書き手の性格がにじみ出るのかなぁ(笑)。悪役令嬢じゃないじゃんは言わない約束ですよ(笑)。
今回の舞台は栄国です。ざっくり、この世界のその後も書けたので満足しております。
それでは、また次回、よろしくお願いします。