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CP5 アリスの場合


 俺の名前は山田尊。今年で41歳のでぇベテラン中年だ。

ああ、異世界転生して、悪役令嬢とつるみてぇ。

自分で言うのもなんだが、かなりのこじらせ具合のいい歳をした中二病だ。

つける薬なぞ、ある訳ない。あったら、とっくにまともな人生を送っているだろう。


なーんて、俺は阿保か・・・。

 布団に潜り込み、俺は目を閉じる。

 明日も変り映えのない平凡な毎日に備えて。

 繰り返しの現実の日々を送るんだ。

 


「おはよう、おきて」

 俺は眠い身体を起こし、声のする方を見る。

 いつもと同じで、ちょっとだけ世界が変わったように感じた。

 俺の新しいはじまりがはじまる。



「ああ、アリスか」


 尊はゆっくりと布団から起き上がる。


「タケ、今日は日ようびよ、やくそくしたでしょ」


「へっ?」


「でーとよ、でーと」


 アリス=スレイン。7歳。かつてメルギルド大地を救った勇者。現在においては、フランス生まれの日本育ちの女の子。フランス人の両親が山田家と昵懇である関係で、たまに子守りを頼まれる。忙しい彼女の両親は今、一週間ほど海外出張中で彼女を山田家が預かっている。

 母親譲りの金髪の髪、青い瞳、その姿は何も変わらないが、転生前の記憶を失っている。


「・・・言ったっけ」


「タケ、うそつきはどろぼうのはじまりよ」


「ほう、ことわざも覚えたのか」


「うん、アリス7才だもん」


「えらい、えらい。で、俺はどこに行くって言っていたんだ」


 アリスは急にもじもじしだした。


「えっとね、アリス美ら海水ぞくかんに行きたいの」


「・・・?行きたい・・・俺はどこに連れていくって言っていたんだ?」


「あのね、美ら海!」


「ウソつけ。あんな遠い所まで、俺が連れていくと言う訳ないだろ」


 尊は元来ものぐさである自分がそんな場所を、言うはずないという核心があった。


「えへへ」


「えへへじゃないぞ。アリス嘘つきは・・・」


「・・・どろぼうのはじまり」


 ブーメランとなって戻ってきた発言に、ぷくっと頬を膨らませ、アリスはふてくされる。


「で、俺はどこに行こうと言った?」


「んー、おきなわワールド・・・でも、アリスあそこ何回も行ったもん」


「美ら海もお父さん、お母さんと行ったことあるだろ」


「美ら海はべつばらだよ」


「言葉の使い方、間違えてっぞ」


 尊は壁の時計を見た。

 時刻は朝の八時を回ったところだ。


「しゃあねぇな」


 尊はのっそり起き上がる。


「えっ、タケ、美ら海行くの?」


「はい、はい。わかりました。お姫様」


 尊は棒読みで言う。


「やったー」


 アリスは両手を上げて喜ぶ。


 沖縄高速を車で北へ走らせる。

 窓を全開に開け、尊は肩ひじをつく、サングラスからでも夏の陽光が眩しい。

 傍から見れば完全なる親子の二人だが、アリスの髪の色と瞳でハーフかしらと思われるかもしれない。

 そうなると、


(俺の嫁は金髪美女か、ぐふふふ)


 尊の妄想が膨らむ。


「タケ、きもい」


「キモイって、どこで覚えた。おじさんは、いや世のおじさん達は、その言葉の刃

でどれだけ心が切り刻まれたことか」


「タケ、このあたりナゴっていうんだよね。美ら海までもうすぐだよね」


「・・・聞いてる?」


 車は、美ら海水族館の大きな駐車場に停まった。

 麦わら帽子とサングラスにかりゆしウェアで、颯爽ときめた二人は、車を降り入場ゲートへ向かう。


「親子二名様ですね」


 受付のお姉さんが言う。

 アリスはサングラスをちょっとだけ、片手でさげ、


「あのね、おねえさん。タケとアリスはでーとなんだよ。でーと」


「・・・そうなの」


 苦笑いをするお姉さん。


「はい、親子で」


 尊は慌てて、アリスの手を引いて水族館へ入場する。

 ぷくっとまた頬を膨らませるアリス。


 目を輝かせて、水族館を楽しむアリスを見て、尊は来て良かったなと思った。

 やがて、二人は大水槽「黒潮の海」までやって来る。

 二人の前に広がる巨大な水槽の海に、大きなジンベエザメが気持ちよさそうに泳いでいる。


「すごいね」


「ああ」


 二人は、本当の親子のように手をつないで、水槽を眺めていた。

 たっぷり水族館を見学した後は、公園を散歩する。

 アリスはソフトクリームを片手に持ち、すっかりご機嫌だ。

 公園の高台にのぼると、オーシャンブルーの海が一望出来る。

 尊はアリスに微笑んだ。


 その時、急に突風が吹き、アリスの麦わら帽子を飛ばした。

 彼女は慌てて掴もうと、手を伸ばす。

 無事に帽子を掴むが、足場がない。


「アリス!」


 尊はアリスの右手をしっかり掴むが、二人とも真っ逆さまに落ちる。

 彼は目を閉じた。


 その瞬間はまるでスローモーションのようだった。


「タケ」


 尊はアリスの声に目を開ける。

 彼女の瞳は緋の色へと変わっており、覚醒状態になって、魔法を発動していた。

 時が遅れたかのように、二人はゆっくり落下していく。


「アリス」


「私、思い出したよ」


「ああ」


「ありがとう。タケ」


 二人は、ゆっくりと砂浜に降りた。

 アリスは疲れ果てていて、小さな寝息が聞こえる。

 尊は優しく、そっとアリスの髪を撫でた。



 五番手はアリスちゃんです。

 物語の中でも重要な役割をしてくれた彼女には感謝しております。

 おじさん、うまくエンディング描けたかな。

 楽しんでいただけなら幸いです。

 では、次回もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アリスさんのエンディングまであるんですね。アリスさんが成人する頃には尊さんは五十代、あらゆる意味で大丈夫でしょうか? [一言] 一日に二度の更新があるとは思っていませんでした。
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