CP4 壱与の場合
俺の名前は山田尊。今年で44歳のでぇベテラン中年だ。
ああ、異世界転生して、悪役令嬢とつるみてぇ。
自分で言うのもなんだが、かなりのこじらせ具合のいい歳をした中二病だ。
つける薬なぞ、ある訳ない。あったら、とっくにまともな人生を送っているだろう。
ふん、人にはそれぞれ生き方がある。なので、こんな生き方も悪くない俺はそう思っている。
ふと、頭に浮かんだ。
異世界転生してみてぇ。
なーんて、俺は阿保か・・・。
布団に潜り込み、俺は目を閉じる。
明日も変り映えのない平凡な毎日に備えて。
現実の日々を過ごすのだ。
「父上おはよう、起きてください」
俺は眠い身体を起こし、声のする方を見る。
世界が変わったように感じた。
俺の新しいはじまりがはじまる。
尊は三つの世界と現実の中から、ヤマタイの世界へ残ることを決めた。
この地に留まることにより、少しだけヤマタイの世界の様相が変わった。
「父上」
壱与の声に尊は首を傾げる。
「父上!」
「・・・俺は父上なのか」
「はい。父上」
「うん、そうか」
壱与。17歳。ヤマタイ国女王。かつて、ヤマタノオロチを征討し、和国の大乱を尊達ともにおさめた英雄。ちょっとだけ変化した世界では、尊が父親となっている。しかし、彼は育ての親であって血縁関係はない。従ってそういうことなのだ(以下略)。
壱与は少しずつ大人びてきている。体つきも少しずつであるが、成長も見える。14歳の頃を知っている尊にとって彼女の若さは眩しく感じる。
「ヤマーダ様」
「十六夜のそれは変わってないんだな」
「どうされました?」
「いや・・・」
尊は戸惑っている。
自分が今、どういう立ち位置にいるんだろうと、一方楽観的な性格が成り行きに任せるしかないとも思っている。
彼は一旦、心を落ち着けようと、神殿の外にでて、ヤマタイ国を散策してみる。
ほどなくして、壱与が駆けてきた。
「父上、おともします」
頬を上気させ、壱与は言う。
「おう」
尊は一人になりない気持ちもあったが、娘と同行することにした。
「壱与」
「はい」
「お前の父親・・・俺はどういう立ち位置・・・いや何をしている?」
「?といいますと」
「例えば、仕事とかさ」
「ああ、遊び人ですわ」
「遊び人!」
懐かしいワードが出てくる。だが、
(この世界において、遊び人とは俺って一体・・・)
「冗談ですわ」
壱与は平然と言う。
「冗談かよ!」
思わず尊は三村ツッコミをした。
「父上は壱与のお婿さんになるのです」
「冗談」
「これは半分本気です」
「・・・半分、本気かーい!」
尊は某男爵の古いギャグを拝領した。
「で」
と、尊は話を戻す。
「で、と言いますと」
「だから、俺の仕事、し・ご・と」
「ああ、将軍ですわ」
壱与はさらりと言った。
「・・・将軍」
「ヤマタイを支える三つの柱、尊、難升米、彌眞・・・」
「三本柱・・・どっかで、まぁいいか」
などと、他愛もない話も織り交ぜながら、ヤマタイの国を散策した。
途中、クニの人々は笑顔で二人に挨拶し、尊は平和が戻った活気を感じた。
その夜、神殿に急報が告げられ騒然となる。
数人の子どもたちが、突如いなくなったというのだ。
まるで神隠しのような奇怪な出来事。
尊、壱与、十六夜それから難升米と彌眞、五人の苦渋の顔が篝火に照らしだされる。
老巫女が五人の前に進み出て告げる。
「昔もこんなことがありました。東の森に住むという人さらい鬼が子どもたちをさらったとが・・・おそらく」
「東の森・・・」
尊は呟く。
「魔の森と呼ばれています」
十六夜は答えた。
五人は、東の森へさらわれた子どもたちを救うために向かった。
魔の森は夜陰に紛れ鬱蒼としており、不気味さしか感じない。
壱与は神獣鏡で辺りを照らし、鬼の居所を探る。
「即、鬼を倒さないと」
難升米は言う。
「ええ、子どもたちが危ない」
彌眞は頷いた。
深淵とした森の中を五人は進む。
すると森の闇に浮かぶ、無数の怪しい瞳。
みんなは立ち止まった。
壱余は鏡を両手で掲げ神器の力を解放する。
眩い光が辺りを包み、鬼達の視界を奪う。
「勾玉」
十六夜は勾玉の力を解放し、みんなに力と勇気を与える。
難升米と彌眞が果敢に鬼へ挑む。
尊は右手に祈り、念じた。
「天ノ草薙剣」
尊は一際、大きい鬼に目掛けて、神器の力を発動する。
鬼達は討伐され、戦いは一瞬で決した。
無事、子どもたちを救うことができた五人は、それぞれの家に返すと別れた。
難升米は妻の待つ家へ。
機転を利かせた十六夜は彌眞と一緒に二人から離れる。
尊と壱与はぽつんと取り残される。
お互い顔を見合わせると苦笑いをする。
稲穂実る田んぼのあぜ道を歩きながら、帰路へつく二人。
少しずつ空が白んで、陽が昇り始める。
壱与は突然走り出した。
尊の目に黄金色の稲穂を背に、のぼる朝陽、壱与のシルエットが見える。
それは眩く尊い姿だ。
壱与は尊に聞こえない声で小さく囁く。
「壱与は尊の嫁になりたいのです」
四番手は壱与さんです。パチパチ(笑)。
一週間ぐらい空けて、ぼちぼち書こうと思ったら、このペース・・・自分で苦笑しております。
まぁ、書きたいということは、良いことだし、無理しない程度にやっていきます。
さて、今回ですが尊は父にしてみました。壱与はヤマタイの女王ですから舞台はそのままに、日常的な感じで、まぁ、良いかな(自画自賛、笑)。
では、次回もよろしくお願いします。