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CP3 十六夜の場合


  俺の名前は山田尊。今年で41歳のでぇベテラン中年だ。

ああ、異世界転生して、悪役令嬢とつるみてぇ。

自分で言うのもなんだが、かなりのこじらせ具合のいい歳をした中二病のおじさんだ。


「おはよう、にいにい、起きて」

 俺は眠い身体を起こし、声のする方を見る。

 いつもと同じで、ちょっとだけ世界が変わったように感じた。

 俺の新しいはじまりがはじまる。



「なんだ十六夜か」


 尊は年の離れた妹の十六夜を寝ぼけ眼で見る。


「なんだはないでしょう。にいにい、せっかく、起こしてあげたのに」


 彼女の胸元には御守りの勾玉が光る。


 山田十六夜。21歳。琉球大学文学部史学科に通う女子大生。かつてヤマタイ国女王壱与の侍女というより姉的存在だった十六夜、異世界転移により尊の世界にやって来る。しかしヤマタイ国の記憶はなくしている。

山田家の長女。ただし、両親は彼女の幼い頃、再婚しともに連れ子というご都合主義で、とりあえず尊とは恋愛も結婚もありというありがち設定である。

トレードマークのそばかすは消え、スレンダーボディはナイスボディへと変貌している。


「あっ、そうだった!」


「そうでござるよ!」


 十六夜は急にシノビ口調となる。


「今日はあの伝説アニメDVD「シノビ乙女忍法帖」の発売日だった!」


「そう、そう」


「いざ、行かねば!」


「ニン、ニン!」


 二人は車で那覇市内へと出かける。

 アニメショップにたどり着くと、開店前に数人の客が並んでいた。


「あっ、いざちゃん!」


 十六夜の友達、暁守里(あかつきまもり)が手を振る。

 彼女は駆けつける。


「遅かったね」


 守里は三人後ろに並ぶ十六夜に言う。


「いやー、このにいにいが手間取っちゃって」


「このってなんだよ」


「相変わらず、二人は仲がいいんですね」


 守里はくすりと笑った。


 ほどなく三人は無事「シノビ乙女忍法帖vol.5」を手に入れ、瀬長島のウミカジテラスのタピオカドリンク屋でお茶をする。

 店外の簡易テーブルにドリンクを置き、椅子に腰掛ける。

守里は早速、後ろのオキナワンブルーの空と海を背景にタピオカドリンクを入れ、映え(ばえ)写真をスマホで撮っている。

尊はぼんやりと海を眺めた。


「・・・行きません」


「ちよっ、にいにい、聞いてる?」


「ん、なんだ?」


 尊は我に返った。


「なんだはないでしょ、守里、一生懸命話してたよ」


「ああ、ごめん。黄昏ていた・・・ん、二人ともどうした?」


「もう!」


 十六夜が頬を膨らます。


「ああ、いざちゃん。いいよ・・・あのお兄さん・・・あのですね。今度の夏休みに潜りに

いきません」


「・・・スキューバ―?」


「はい。乙女研究会の合宿も兼ねて。恩納村の方に・・・ほら有名な青の洞窟があるところ」


 まず乙女研究会とは、文字通り先程の「乙女忍法帖」を考察、探求する会である。メンバーは長である守里、そして副の十六夜(ここでもか)、守里の彼氏の翁長由利(おながよしとし)それからおまけの尊であった。


「んー?」


 尊は思案する。


「ねー、にいにい、行こうよ」


「若い奴らに混じっておじさんが行くのもなぁ」


「大丈夫、にいにいも十分若いって(精神年齢が)」


「そうですわよ(精神年齢が)」


「・・・お前ら、頭の中で俺の事ディスってるだろ」



 結局、根負けをして、尊はその当日、レンタカーを借りてハイエースを運転している。

 天気は快晴、気分は上々、高速を飛ばす。

 助手席には十六夜、後ろにはいちゃいちゃカップル、守里あんど由利。

 レンタカー屋から90分ほどで恩納村へ着いた。


 専用ボートで青の洞窟のポイントを目指す。

 四人はウエットスーツに身を包み、準備を整える。

 久しぶりのダイビングに尊は、若者三人に比べ緊張していた。


「大丈夫?にいにい」


「ああ、武者震いだ」


「ふーん」


 ポイントに到着すると、カップル二人はすぐに海中へ。

 尊はマスクにシュノーケル、フィン、酸素ボンベの装着に手間取る。

 そんな兄に十六夜は苦笑いしながら手伝ってあげる。


「じゃあいくよ!」


 マスク越しに言い十六夜は尊の手を引く。

 彼の返事がないまま、彼女は海中へ。


輝く太陽の光が海の中で広がっている。

 透き通る沖縄のマリンブルーの海、色とりどりの魚たちが優雅に泳いでいる。

 さらに下に潜るカップル二人の水中ボンベの空気泡が無数に上がって、尊と十六夜の目の前を通過する。

そこは不思議な幻想的な光景となっていた。


尊はそんな余裕もなく、十六夜に連れられるまま、青の洞窟へと向かう。

狭い岩の間をくぐると、薄暗く陽の光りも薄くなる。

しかも明と暗のコントラストが絶妙で、その場の神秘さを感じる。

暗闇の岩場をくぐりぬける。


二人は一度、洞窟内の海面に上がる。

尊は高揚し、

「すごいな!」


 と、叫ぶ。


「うん」


 十六夜も笑った。


 青の洞窟の後、みんなはしばらく車で仮眠をとり、格安リゾートホテルにチェックイン。

 夕方は海岸で夕日を見ながらSAP(立ち乗りのボート)を楽しむ。

 尊は若いものと一緒に調子に乗ってはしゃぎすぎ疲れてしまった。


「俺は先に寝るわ」


「ドロンでござるか」


 由利が人差し指と人差し指を重ねる。


「ドロンでござるよ」


 尊も同じように返した。


 食べ放題、飲み放題バイキングを前にして、盛り上がる夜を楽しむ三人をよそに、尊は部屋へと戻った。

 なんとなく分かっていたことだが、なんで妹と相部屋なんだよと思いつつも、ベットに身体を横たえると爆睡してしまった。


「にいにい」


 誰かが尊を呼ぶ声がした。


 夜明け前の時間。


「んーんっ!」


 尊は熱を熱を感じ目を覚ます。

 背中に体温と寝息、十六夜だった。

 しばらく、固まりつつも用を足したくなった尊は、そーっとベットから這い出て

トイレ行った。


 トイレから戻ると、Tシャツにパンツ姿の十六夜がベットで胡坐をかいていた。


「おはよう」


 と、したり顔でにこりと笑う。


「おはよう」


 尊はぎこちなく笑顔を返す。


 二人は散歩がてら、夜明け前の砂浜を散歩することにした。

 夜明け前の砂浜はひんやりとしていて風が抜けると心地よい。


「ねぇ、にいにい覚えている?」


「ん?」


「ヤマーダ」


 十六夜は微妙なアクセントで、あの時、尊を呼んだ言葉を言った。


「・・・十六夜、思い出したのか?」


「うーん、まぁ、断片的にね。にいにいと私は運命的なやつってだけは」


「そうか・・・いつからだ」


「んー、だいぶ前かな・・・だって、さ、こんな事、気分が盛り上がった時じゃなきゃ言えないよね」


「盛り上がっているの?」


 尊は悪戯っぽく笑う。

 十六夜は瞳を閉じる。


「・・・バカ」


 誰もいない、朝陽のぼる海岸で二人はやさしいキスをした。



 今回も早目に出来上がったので、投稿ポチッとします。

 三番手は十六夜さんです。

 だいぶ意表をつけたかな(笑)。完成後に、もう少しツンデレ要素をつけたかったなと思ったのですが、やっぱりこれでいいかな(笑)。うん、良しっ。

 次回もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 十六夜さんでしたか。個人的にヤマタイ国の二人はあとの方になるかと思っていました。連れてくるときに記憶喪失になるのはありだと思います。 [一言] 年齢差が大分危険な感じになっていますが、それ…
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