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CP2 ローラ=スレインの場合


 俺の名前は山田尊。今年で47歳のでぇベテラン中年だ。


「おはよう、起きなさい」


 俺は眠い身体を起こし、声のする方を見る。

 世界が変わったように感じた。

 俺の新しいはじまりがはじまる。



「ああ、ローラか」


 尊は見慣れた顔を見て呟いた。

 ここはローランド城下町、魔王を倒した尊はこの地に留まる事を選んだ。


「まったく、おっさんのヤモメ暮らしは」


「悪かったな」


「で、第555回の合コンは?」


「駄目だった」


「・・・でしょうね」


 ローラは腰に手を当て、屈託なく笑うと、朝食のトレイをテーブルの上に置く。


「朝食、ここに置いとくから」


「いつもすまない」


 階段を降りながら、ローラは尊に聞こえない声で呟いた。


「全く、みんな帰しちゃったから・・・」


 ローラ=スレイン。31歳。ローランド王ギルガメッシュの娘。かつて、アネフガルドに平和をもたらし、魔王マドーを倒した勇者アルスの妻で、勇者アリスの母である。長男にマルスがいる。魔王マドーを倒した後、最愛の夫、アルスが歴戦の戦いの後遺症で突然亡くなる。以後、女手一つで娘と息子を育て、かつて共に冒険したヤモメ尊の世話もしている。

 ブロンドの髪に青く大きな瞳、白くて美しい肌。当然男達はそんな彼女を放っておくはずもなく、再婚話が後を絶たない。


 尊はローラの用意してくれた朝食を見た。

 スープのいい香りが部屋に漂っている。


「あれから3年か・・・」


 尊は呟いた。


 朝食をいただいた後、尊は喫茶パレスの開店準備をする。

 とはいえ、女性陣は元の世界へと戻っている。

 かつて、カフェパレスと呼ばれていた時代、ここは男達の夢を叶えるべく異世界転生した女性達とウハウハハーレム状態を満喫できる場所であった。

 今はしがないおっさんが経営する喫茶店となっている。

 尊は自慢のコーヒーを豆から挽き煎る。

 しかし今日も客はなく開店休業の喫茶店だ。


 16時過ぎ、ひょっこりアリスが顔を覗かせる。

 最近は、お店の手伝いと称し、魔法学校帰りにここへ寄っている。


「タケ、オレンジジュース」


「アリス、真っすぐ家に帰れよ。お母さんが心配するだろ」


「大丈夫、お母さん、タケのとこ寄っているって知ってるもん」


「・・・・・・」


 尊はアリスが座るテーブルにオレンジジュースを置いた。

 グラスの氷が溶け、からんと音をたてる。

 彼女はストローでジュースを飲む。

 尊は葉巻に火をつけた。

「ふぅー」

 煙を吸い吐く、部屋に煙が漂う。

 また、氷がカランと音をたてる。

 アリスのジュースを吸い上げるストローの音が続く。


「タケ・・・あのさぁ」


「・・・ん?」


「お母さんと・・・・・・なんでもない」


 アリスは立ち上がると、カウンターに入り、エプロンを着た。

 彼女は二時間ほど喫茶店にいたが、お客は結局一人も来なかった。


 翌日喫茶パレスは定休日。

毎月に一度、アルスの墓参りを兼ねてピクニックへ、尊とローラ家族は出かける。

 尊は五歳になったマルスと手をつなぎながら、小高い丘の上へとのぼる。

 後ろからは、楽し気に話をしながらローラとアリスがやって来る。

 丘の上に石碑が建っている。

 石碑にはこう刻まれていた「勇者アルス ここに眠る」。

 ローラはいつものようにたくさんの花束を石碑に置くと祈りを捧げた。

 三人もそれに倣い、祈りを捧げる。


(三年か・・・アルス・・・お前は・・・)


 尊は彼を思った。


 ふと、アリスが呟いた。


「真実の鏡」


「真実の鏡?」


 尊はアリスに続いて呟く。

 かつて、夢見の塔でローラの居場所を示し、異世界へと繋いだ鏡。

 しかし、今はその力を失っている。


「お願いすれば、お父さんに会えるかな」


「それは・・・」


 尊は言葉に窮する。


「みんな行ってみようよ。ひょっとしたらお父さんに会えるかも」


 ローラは無言で目を伏せる。


「おとーさんにあえるの」


 マルスは目を輝かせる。


 四人は夢見の塔へむかう。

 LV99カンストの尊と勇者アリスでは、塔内の魔物は相手ではない。

 すぐに屋上へとたどり着いた。

 真実の鏡はそこにある。


 アリスは鏡の前に立つ。


「鏡さん。お父さんを映して」


 鏡はアリスの全身を映しだし、変化はない。


「ねぇ!」


 アリスは叫んだ。


「アリス」


 ローラはそっとアリスを背中から抱きしめた。


 尊とマルスは手を繋ぎ二人を見ている。


 後日、喫茶パレス。

 アリスはテーブルに頬杖をつき、ぼんやりと窓の景色を眺める。

 オレンジジュースの入ったグラスに氷が溶ける音が静かな店内に響く。


「ねぇ・・・タケ」


「ん?」


「なんで、お父さん、映らなかったのかな」


「・・・それは」


 尊は言葉を失う。


「私ね。実はなんとなく分かるんだ」


「・・・・・・」


「いつまでも・・・ってことだよね」


「・・・・・・」


「ねぇ、タケ」


「ん?」


「きっと、お母さん待っていると思う」


「・・・ああ」


「だから」


「うん、分かった」


 尊は葉巻の煙を吐いた。

 ゆるやかに店内に漂う煙の輪っか。


 ローラは教会で今日も祈りを捧げている。

 その姿は美しい。

 尊は花束を抱え、彼女の元へ歩み寄る。

 彼女は彼に気づき振り返る。


「ローラ話したいことがあるんだ」


 尊は決意に満ちた表情で、ローラに思いを告げた。


 二番手はローラさんでした。意外と早く出来たので早速(笑)。

 うーん、苦渋の決断でアルスには申し訳ない。あくまでもifということで、ご理解いただきたいです。

 でも、まぁこんな感じですかね。横恋慕的なドタバタな感じにはしたくなかったので、私は納得しております(笑)。

 では、次回またよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ローラさんとのエンディングを迎えるなら、死別か横恋慕の二択になりますよね。あり得る話なのでいいと思います。 [一言] あとに残っているのは、年齢差が大きく親子でもおかしくない娘さん達。楽し…
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