カルテNO3 本編005 恋人(後編)
救急車2台がけたたましいサイレンを鳴らして救急病院に到着した。すぐに初療室に運ばれ救命医の処置が始まる。
帆稀は、救急車の中で絶命していて救命医により死亡申告が行われた。
若菜は救命医の懸命な治療が施されたが内臓の損傷が激しく手の施しようがなかった。
看護師によるエンジェルケアが行われ霊安室に運ばれる。
静寂に包まれた霊安室に、ひとりの看護師がやって来た。
(酷いわね。待ってて。今解放してあげるから)
千代看護師は、ふたりのご遺体の胸辺りに手をかざすと、半透明な魂を引き剥がすように引っ張り出した。
「……私、死んだの?」
「冗談じゃねぇぞ! 何でこんなやつと死ななきゃならねぇんだよ!」
帆稀の暴言が始まった。死んでまで悪態をつく。
(あら? 様子がおかしいわね。カップルじゃないのかしら)
霊安室の千代看護師は、魂を引き剥がしたときに流れ込んできた生前の記憶から、帆稀の魂を早々に地獄へ送り出した。
そして、若菜へ来世はもっと相手を見極めなさいと少しお説教をして、今度生まれ変わったら、素敵な男性に巡り会って幸せな人生を全うしなさいと諭した。
千代看護師は、若菜に神の御加護をと祈りながらその背中を見送った。