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深愛 ~看護師千代の物語~【完結編】  作者: 菜須よつ葉:監修 ひな月雨音
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カルテNO2 本編007 新生児(中編)

 尊が入院の鞄を持ってきてくれたのがお昼前、ふたりでお昼ご飯を食べのんびり過ごしていた。


 時折、看護師さんが様子を見に来てくれていた。


 夜になり、陣痛の気配もなく気付けば消灯時間も過ぎていた。



「なんか、申し訳ないよね?」


「病室の事は気にしなくていいと言われたけど、さすがに出産の気配が無いのなら、春海も家の方がリラックスできるのなら一度帰るか?」


「明日、朝の回診で先生に相談してみようと思う」


「うん、そうだな」



 そんなことを話していると、明日の出産に向けて早く寝てください。とナースコールの逆バージョン看護師さんから注意された。



◇◆◇◆◇



「古河さん。おはよう」



 カーテンを開けながら、看護師さんが声を掛けてくれた。



「お腹の張りとか、違和感ありますか?」



 看護師さんの問診に、申し訳ないくらい体調は普通だった。


 いつもと何も変わらない朝。


 お腹をさすりながら、早く会いたい気持ちと、少しの不安とで、私の胸はいっぱいになっていく。


 看護師さんに付き添われ、診察室に医師の診察を受けに行く。



「古河さん、内診しましょうか」



 医師に言われ内診台へと移動する。



「微弱陣痛があったから、出産の準備は始まってるからね。そろそろ陣痛が始まると思うけど、あまりこないようなら、陣痛促進剤を使いましょう」


「内診したので、これがきっかけで陣痛が起こるかも知れませんしね」



 看護師さんにもそう言われた。



「いよいよなんだなぁ。ちょっと緊張してきた」


「名前はもう決めてるの?」



 ベテラン看護師さんが、緊張をほぐそうと話しかけてくれた。



「生まれて顔を見てから候補の中から選ぶかなぁ」



 こんな会話をしながら病室へ帰る。


 お昼が過ぎた頃、お腹の張りが強くなってきた。ナースコールをしたら助産師さんが診察をしにきてくれた。



「あー、まだまだだね。この調子なら生まれるのは夜中だわね」



 そう言われた。


 お腹の張りが強くなって、痛みも加わり始めた。


 尊は、病室をウロウロするだけで何をすれば良いのかわからないからだろうけど、痛みに堪える私にはこの行動は腹が立った。



「尊っ!」


「な、何だ? 産まれそうか?」


「違う! ウロウロうるさい!」



 痛さが増すが、まだまだ生まれるレベルではない。



「いったーい!」



 お昼過ぎから始まった痛みは7時間を過ぎ、ようやく分娩室に行きましょうか。と言われた。


 尊は春海の腰の辺りをさすりながら励まし続けた。


 しかし、その言葉も春海のイライラをかってしまい……。



「尊っ! 代わってー!」


「ごめんな、もう少し頑張ってくれ」



 尊の言葉にイライラしていたとき、看護師さんが、車椅子を押して病室に迎えにきてくれた。


 看護師さんに車椅子を押してもらい分娩室に移動した。


 春海の意向で、尊は分娩室の外で待機している。


 どれくらいの時間が過ぎただろう。春海の痛みを訴える声や、看護師さんの励ます声などが飛び交っていたのをぼんやり聞いていた。


 分娩室が何やら慌ただしくバタバタする様子が伝わってきた。そんな時、看護師が俺を呼びにきた。



「至急分娩室に入ってください。そう言われマスクやエプロンをつけるよう言われ急いで支度する。そして、春海の傍に歩み寄る」



 助産師が春海の後産の処置をしていると説明された。そして、我が子の周りには、医師や看護師が慌ただしく処置をしている。


 何があった?


 ただ見守る時間が過ぎる。


 我が子は、産道で臍帯を首に巻き付けてしまっていたらしく、新生児仮死状態で生まれ、心肺停止状態で、蘇生処置が進められていると教えてくれた。



「尊……赤ちゃんは?」


「信じよう」



 そういってみたものの不安で仕方ない。


 我が子が大勢の医療関係者に囲まれて処置を施してもらっている。会話を聞いていると怖さが増してきた。


 主治医の心臓マッサージの手が止まる。


 医師から我が子の死亡宣告が伝えられた──



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