カルテNO5 本編010 老人(後編)
看護師が一言告げた。
「この向こうに、奥様がいらっしゃいます。思い残すことの無いようお過ごし下さい」
扉の取っ手に手を掛けた。
ガチャ──
笑顔を向けて小さく手を振ってくれている珠代の姿があった。
「あぁ、なんと言うことだ。待たせてしまって、本当にすまない」
「いいえ。あなたはご存知なかったでしょうが、いつもそばにおりましたので」
「相変わらず、珠代は綺麗だね。こっちはご覧の通りだよ」
「ずっと寄り添っておりました。徳次郎さん、やっと会えました」
二人の間に存在する空白の時間を、今度は二人一緒に埋めていく。
どれだけの時間を費やしても、これからは離れることのない二人。
「徳次郎さん、愛しています」
珠代が頬を赤く染めて俺にしっかりと伝えてくれた。あの時、助けてやれなかったのに、珠代は、俺がくるのを待っていてくれた。そして、愛の言葉まで言ってくれた。
「珠代。もう放さない。ずっと一緒だ」
まるで恋愛映画のような光景に、千代はドキドキしている。
素敵な再会のお手伝いができたことに千代の心があたたかくなった。
そして、自分の胸の中にも、淡くきらびやかな思い出があることを、千代は思い出した──