カルテNO1 本編009 自殺(前編)
郊外にある工場で働いている端波愛美は、ただ生きるために、楽しくもない仕事を続けていた。
「おはようございます」
挨拶するけど、こちらに顔をチラリと向けるだけで、誰も挨拶を返してこない。
こんなのもいつものことだった。
何かをした訳ではないのだが、いつからかこんな毎日が普通になっていた。
「はぁ……今日も怒られるのかな」
(いつからだろう? こんなにネガティブな考えしかできなくなったのは)
おかげで職場では、顔を上げて歩くこともしなくなっていた。
「何か言われる前に、一番先に行こう」
今日もまた、人の顔を伺いながらビクビクした生活を送っている。
朝礼や今日の作業の流れを確認すると、数人のグループに別れ仕事が始まる。
山のように積まれた商品の検品を任されたのだが……。
「端波! ひとつの商品に、どれだけ時間かけてんだ!」
「す、すみません。急ぎますので……ごめんなさい」
今日もまた始まった──
その声に釣られるように、ヒソヒソと私の悪口を話す人達の声が聞こえてくる。
これもいつものこと。堪えていれば時間は過ぎる。そう思いひたすら作業に没頭した。
12時になり、お昼の時間となった──
周りに遅れることもなく、一人辺りのノルマをこなせた。
「おい、端波! ダメだ! これも、これも。これもダメだな! いいか? 俺達飯食ってくるから、休憩の間にやり直しておけ」
捨てぜりふのように吐くと、他のメンバーは作業場をあとにした。
そんな私を見かねて、唯一、私のフォローをしてくれる工場の班長を務めている松本さんが、お前も昼飯に行ってこい。これくらい俺がちょこちょこって直しておいてやるから。そう言って私をここから出してくれた。
こんな毎日が続き、ふと気づけば“死”を考えてしまっていた。
社員食堂に行くと、食べ終えた人達が、私に気づき、あれこれ口にする。
「お前、仕事はできないのに飯は食うんだな!!」
「生意気〜」
数人に工場内の倉庫に連れ出され、言いたい放題いわれ、叩かれたり蹴られたり暴行が始まった。
「おいっ! やべぇって、こいつ血吐いたぞ」
その言葉に臆したのか、足音は次第に遠くなっていった。
「う、うぅぅ……」
口の中を切ったようで、血の味が口内に広がる。
「お手洗いに……いかなきゃ」
吐き気を催し、トイレに急ぐ。そして吐血。
お腹を何度も蹴られたりしたのが原因かも知れない。
吐血ぐらいでは死ねない。何故かそう思って行動を起こすことを思いつく。