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森の泉にて 1

 お兄様とマーサの過保護は、なかなか治ってはくれなかった。


 特にその事(過保護)に大きな不満は無いけれど……

 せっかく健康な身体なので、色んな事を試してみたかったのにな。と少し残念な気持ちがあったのは確かだった。



 季節は完全に秋になり、頬にあたる風も冷たくなっていた。私はバルコニーに出て外を眺めていた。淑女教育の授業が終わり、一人で部屋に戻った所だった。


 マーサは他の侍女達と何かやっているようだ。お兄様は今日は、執事と一緒に領地の救護院に視察に行っていた。



「私も一緒に行きたかったな」


 ぽつりとこぼした愚痴により、より寂しさを誘う。

 寂しく感じるのは秋のせいなのか、過保護に一緒に居てくれるお兄様もマーサもいないからなのか……。


 ぼんやりとそのまま裏庭を眺めていた。




 すると裏庭から見える奥の森の方から、何か()()()


 何だかわからないけれど、助けを求められているような……?

 不思議な感覚だ。



 なんだろう。胸がどきどき、ざわざわする。





 近くにあったストールを手に部屋から出て、そっと屋敷を脱け出した。


 この時マーサを呼ばなかったのは、過保護に対する少しの反抗と、感じていた寂しさからだったのか……

 それとも、()()()という確信か……




 屋敷から出ると急いで裏庭を抜ける。そして、裏庭には屋敷の敷地をぬける為の秘密の生垣があって、お兄様と一緒に何度かこっそり森へ行った秘密の道だった。そこを通り抜けて裏の森に入る。


 ここをまっすぐに行くと、森の泉がある。


 森の泉は、本当に美しい場所なのだ。美しい季節の花が咲き乱れ。緑が深く、妖精や精霊がいると言われても納得してしまう美しい場所だ。



 我が公爵家の敷地の裏にあって、人が入れない様にされているので、きっと何か訳があるのだろう。


 ドキドキが治まらないまま、森の泉に到着した。




 ハッと息がつまる。泉の縁には、茶色のキラキラ耀く髪の男の子が倒れていた。

 茶色の髪は『茶の一族』だ。森の管理の者だろうか?それとも……


 とにかく、何かあったのかもしれないと近寄って声をかける。



「大丈夫ですか? 」


「……ぅっ…………」


 良かった。かなり弱ってはいる様だが、意識もギリギリあるようだし、大きな怪我も見当たらない。これなら大丈夫ね。ほっとして息を吐いた。

 それでも、このままここで倒れていたら森の魔物か獣に襲われかねない。


「治療魔法をかけますね。

 …………えっ?…………??これは…………」



 治療魔法をかけようとして気付く。この子の基本的な衰弱の原因は、『毒』と『呪い』だ。


 毒も呪いも面倒事の匂いしかしない……


 どうしたものか一瞬悩んでしまった自分が恥ずかしい。


 同じ年くらいのこの子が死んでしまっていい筈がない。何が事情があるにしても、助けてあげたい。



 私は大きく息を吸ってから、指輪をひとつ外してポケットにしまう。



 男の子を簡単な風魔法で浮かせ、泉の柔らかな草の上に移す。





 そして一番進行していて、かつ面倒な毒の解除から始めた。


 命を脅かしている毒の種類がわかれば、解毒もよりスムーズだが……ここまで進行している上に、いくつもの毒の影響があるようだった。それに、たくさんの毒の耐性をつけていた事も解毒を阻む一因だった。


 面倒なので全て解毒してしまうと、毒耐性を着けていたのであろう耐性も解毒してしまう。

 そんな辛い思いをして着けた耐性を解いてしまう訳にはいかない。


 男の子の胸の上に手を当てて、私の魔力を流し毒を探る。


()()()()


 時間が思ったよりもかかってしまったが……見つけた、いくつかの毒の解毒を開始する。

 内臓も大分やられている。とてもつらかっただろう。

 痛みを思い涙が流れる。


 せっかくなので、解毒した毒の耐性分を残しておいた。これで、同じ毒に犯される事も無いだろう。


 内臓の損傷も同時に治していく。解毒と損傷治療に体力が削られてしまうだろう。体力の回復も試みる。

 いくつもの高度魔法を同時使用したせいか、疲労感が全身を襲う。集中力を切らしたら彼はもう助からないかもしれない……ここで諦める訳にはいかない。


 ぽたり、汗が落ちる。


 どれだけ時間が経ったのか……もう時間の感覚も指先の感覚も無い。



「…………ふぅ。……良かった。上手くいったわ」


 本当に良かった。ぱっと顔をあげると、男の子と目が合った。



「………………女神……なのか? 」


 男の子の黒い瞳は一見するとオニキスの様に見えるけれど、よくみると青く光っている。まるでブラックラブラドライトの石の様な美しい耀きの瞳に、思わず目を奪われた。

 いや、瞳だけではない。こんなイケメンみたことない……。まるで妖精か天使か……彫刻の様だ。



 私がその不思議な黒く、そして青に耀く瞳や顔に見とれていたため、男の子が再び話し出した。


「女神様、私の治療をありがとうございました。

 あの毒の治療は治療院でも治せず、ここに解毒の薬草があるらしい噂を頼りに来てしまいました。まさか、女神様に治療して頂けるとは……」


 男の子は身体を起こして頭を下げた。



「あの……ごめんなさい。私は女神様ではないの。

 この近くに住んでいる普通の……

 ちょっと治癒魔法が得意なだけの人間だわ」


 私は慌てて誤解をとこうとして、変な事を言ってしまった。あの種類の毒を消せるのは……普通の人間では無いわよね。



「でも……間に合って良かったわ」


 と、にこりと微笑めば男の子は下を向いてしまった。


「それでも本当にありがとう。

 一縷の望みをかけてここまで来たが、本当に解毒できるとは思っていなかったんだ」

 


「本当に良かったわね。あと……

 本当は今すぐ、()()()()も解いてあげたいんだけど……

 それ、明日でも良い?ごめんなさい。

 毒の解析に少し時間がかかってしまって……

 そろそろ戻らないと、脱け出したのが見つかってしまうの」



 申し訳なくてしょうがないが、ここで見つかってしまったら二度と脱け出したりは出来なくなってしまうだろう。

 とりあえず、呪いに関しては今すぐ命の危険もなさそうなので明日以降にお願いした。



 男の子は更に驚いた様に目を見開いたが、明日でも明後日でも私がくるまでここで待つと言ってくれて安心した。



 夜は危ないから帰る様に言い含めて、私は急いで家に向かって走って行った。




 その後ろ姿を、彼がずっと見ていたなんて気づきもせずに、ただひたすら家に急いで戻った。





お読み頂きありがとうございます。


たくさんのブックマークや評価、応援を本当にありがとうございます!

嬉しくてアワアワしております!

あまりの嬉しさに筆が進みます(単純なので…笑)

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