目覚めてから 2
家族で夕食を終えた後、自室に繋がる個人のバスルームで侍女のマーサに隅々まで洗われ、隅々まで何かを塗りたくられマッサージされ……満身創痍である。
これがこんな六歳の子供にも施されるなんて……貴族ってすごい。記憶の中の私も普通に受け入れていたのが、不思議に感じる。
侍女に身の周りの事をして貰う事は、看護師さんやお母さんが病院で洗ってくれたのを思い出すけれど……なんか違う。
いや普通でも、六歳ならば前世でも親に世話を焼いて貰っている時期なのかな……深く考え無い事にした。ここではこれを受け入れるだけだ。
可愛らしいが贅を尽くした鏡台の前に座らされると、髪を一瞬で乾かす魔法が使われる。便利過ぎて言葉にならず、ただただ眺める。
「お嬢様の髪は本当にお綺麗ですね」
マーサは嬉しそうに笑いながら、丁寧に何かのオイルを髪に塗り込んでいる。
鏡の中には、まるでお人形の様に美しい少女が映っている。
侍女によって梳かされる銀の髪は、胸の下辺りまでまっすぐに伸び、髪が自ら耀いているように感じる程に美しい。
菫色の瞳は、紫水晶の様に澄んでいて神秘的な耀きを帯びていた。瞳は瞬きしたら、水晶が零れ落ちてくるのではないかと思う程に大きく美しい……。
まだ子供なので瞳の部分が大きく、可愛らしさも感じるが……美しさがすでに際立っている。
白い肌にふっくらとした子供特有の頬、唇はぽってりと赤く色づき、小ぶりだが形の良い鼻。
すらりとした手足は白く儚くみえるが、以前の病的な私の手足とは違いしっかりと歩く事が出来るものだった。
全体的に華奢で儚く、この世のものとは思えず消え入りそうな印象であったが、私はこの身体は健康で強い事を知っている。
前世の自分の姿を、こんな風にまじまじと見たことがなかった。鏡を見る機会も少なかった事もあるけれど、意識してみない事が多かった。
薬の副作用で顔が浮腫んでいたり、食べられなくて頬が痩けていたり……みたとしても、自分の顔が自分でもよくわかっていなかった。
だから以前の容姿もあまり記憶に無いし、今の容姿にも違和感があるとかも無い。これはこれで良かったかもしれない。
これが私だと言われたら、そうなのね。と受け入れられる。なにせ、お兄様とお母様とそっくりだった。
ぼーっと鏡を見ていたら寝支度が済んだのだろう、マーサにベッドに連れていかれ強制的に眠らされた。
目覚めてからもう三日は経つが、やはり身体は疲れるのか……六歳児だからなのか、すぐに眠ってしまった。
お父様は放棄してきた仕事があるため、翌朝には王宮に向かう事になっていた。
「リリィの方が大事だよ。私の仕事は大丈夫。
それに、私の力がリリィに必要だったから丁度良かっただろう? 」
お父様はそう言ってウインクをする。お父様もかなりのイケオジだ。けれど癒しの力を纏めるお仕事は、忙しい事くらい私だって知っていた。
癒しの力が現在一番強いお父様が『自分の娘に使えなくて何のための力だ』と……伯父様にとりあえず一週間休むと話をつけて直ぐに王宮を飛び出してきたらしかった。
確かにお父様が帰って来てくれて本当に良かった。
まさか目覚めた私の魔力が今まで以上に……個人で持てる力なのかと思う程に強くなるとは、誰も思っていなかった。
もともと私もお兄様も、お父様に負けず劣らずの魔力量を持っていた。産まれて直ぐに魔力封じの指輪をはめて、余り周りにバレない様に、そして暴発させたりしない様に気をつけてくれていた。
次期族長になるだろう子供に、取り入ろうとする者がいないとは限らないし、狙われ易いのだと小さい頃から口が酸っぱくなるほど言われていた。
……あのまま行けば、私かお兄様のどちらが族長になってもおかしくなかった。
しかし、今は間違いなく私が族長となるだろう。
今は、私の魔力は倍以上に増えていた。……いや、正確にはもっとだろう。
今まで着けていた最上の魔力封じの指輪を更に二つ追加し、同等のペンダントまでつけているのに、魔力封じしてない『魔力の高い令嬢レベル』の魔力がある。五倍はあるかもしれない……
そんな私の異常事態にいち早く気づいたお父様が、持っている最上級の魔力封じのアクセサリーを着けてくれたのだ。
この魔力封じは王家の『聖』の魔法が込められていて、とても素晴らしい品だ。
王宮で働き、公爵で癒しの魔法の第一人者のお父様は孤児院や救護院の管理もしていて、魔力封じのアクセサリーも専門では無いがいくつか取り扱っていたのだ。
私の魔力量について思う所があるのか……
その後は眉間に深い皺を作ってずっと難しい顔をしていた……。
馬車まで見送りに出れば、名残惜しそうに抱きしめてくれ、頬を合わせてスリスリしてきた。なんだかくすぐったい。
それをみたお母様に笑われていたが、お父様は満足そうに笑っていた。
お母様そっくりな私をお父様はとても可愛いがってくれている。
「いいかい。今知っている者以外に、お前の力の事を気づかれてはいけないよ。気をつけるんだよ。
エリー、子供達を頼んだよ」
お父様は真剣な顔でそう言って馬車に乗り込む。
そして、少し悲しい顔でお父様は王宮に帰って行った。
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朝起きてびっくりしました。
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