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番外編 1 森の魔女

番外編始めました。

数話で完結予定です。よろしくお願いいたします。

 シグナリオン国の南、南の大国ガネージャとの国境に位置する深い原始の森。



 通称『魔女の森』



 森は深く広大であったが、ガネージャとの取り決めで国境は森の真ん中と曖昧な国境線となっていた。

 国境線が曖昧でも大丈夫だったのは、この森に立ち入る者が少ないからだ。

 森はどちらの国も、ほとんど領地とはみなしておらず、不干渉地帯の様になっていた。



 そう。この森には魔獣や人を惑わす精霊が多く住み、人嫌いの魔女達が住んでいるという()があるためだ。



 五十年程前に森の資源を欲したガネージャ兵の一団が、森に入ったまま()()()()()と聞く。真偽の程は分からないが、近しい事はあったのだろう。それ以降、ガネージャ兵は森に入っていない。


 シグナリオン国としては、森からの侵入者が少ないので特に問題としていなかった。領民達もあくまで噂だが森へ入って無事に出てきた者の少なさから、余程の理由がない限り森へ入る者は居なかった。




 そして近くの集落に住む子供は、一度は魔女の森に挑戦するらしいが、お化けを見たと泣き叫ぶ子供や狐につままれた様に何も覚えていない子供が続出し、大人によって厳しく近寄らない様に規制されているらしい。







 私はその日、南のガネージャとの国境付近にある小さな集落を訪れていた。

 供には気心知れた友でもある黒の一族ハロルドと、銀の一族のカインがついて来ていた。




「おい、チャーリーなんでわざわざお前が来る必要があったんだ? 」

「んー? なんでだろうな。

 何となくじゃダメか? 」

「はぁー。ダメに決まってんだろ」



 この集落で一軒しかない宿屋の食堂で、酒を飲み始めたハロルドが文句を言い出した。


 幼い頃から私と供にあった次期宰相のハロルドは、人目のない所では昔の様に気安く話し、時にはこうやって叱ってくれるありがたい友だ。




「まあまあ。良いじゃないか。

 ……何か訳があったんだろう? 」


 この一見チャラチャラした色男のカインは、銀の一族の次期族長で、見た目と違いかなり真面目で仕事の出来る男だった。

 婚約者のエリザベス嬢にベタぼれで、何かあれば早く領地に帰りたいと(王子)に直接言ってくる……よく考えると不敬の塊の様な男だな。


 しかし、学園で意気投合した私達三人は、よく行動を共にしていた。ハロルドは元より王の暗部を担う大切な臣下でもある。

 カインは権力を嫌がりながらも、領地には戻らず次期国王となる私自身を支えてくれていた。


 二人とも気のおけない私の大切な友人で側近だ。




「もうすぐ……

 後二~三年の内には、私は父親の仕事を継ぐ(王位を譲り受ける)事になった」

「そうか」


 カインは、静かに酒を飲み始めた。

 宰相である父親から聞いていたのか、それとも分かっていたのかハロルドは、黙ったまま酒を飲み続ける。


 こんな辺鄙な国境付近でも、誰が聞いているか分からないので、とりあえずそう(王子)とは分からない様に話し続ける。 



「私は父が年老いてから、やっと出来た息子だからな。

 どうやら父の体調も優れないらしい。


 だから、自分の仕事場(治める国)を自分の目で、少しでも身軽なうちに確かめたかったのさ」


「…それはいいんじゃない?

 とりあえず、チャーリーとハロルドがいれば負けないだろうし、私がいれば傷一つなく帰れるしね」


 と、笑いながらウインクしてくる。

 こいつのこういう軽く見える仕草は、わざとなのか癖なのか……いまだに読めないが、私の心を軽くしてくれる。



「なんなら、一瞬だったら死んでも、大丈夫かもね。

 試しに死んでみる? 」

「馬鹿な事を言うな! 」

「ははは。まぁまぁ、ハロルドそんなに怒るなよ。

 冗談じゃないか」




 まだぶつぶつ文句を言っているハロルドは置いといてと、カインは私の方を向きなおした。


 真剣な色を帯びたカイン目が私の目と合う。


 私は小さく頷き周囲に防音の結界をはる。




「ガネージャは何か動きがあるのか? 」

「ああ。

 ……ガネージャの王は良くも悪くも、凡庸な人物で攻めて来る様な事は無いだろう。


 しかし、天候がこの数年間安定していない事から、食料品の高騰が続いている。

 それに対して、王が対策を打たないことで民衆の不満が高まっている様だ。

 このまま王への不満が募れば、王都で暴動が起こるだろう……。

 もしくは、難民がこちらに大量に流出して来るか、こちらの国に略奪行為に走る者も増えるかもしれない」


「ガネージャ国民は、辛抱強い砂の民だろう? 」

「ああ。砂の民以外にも、好戦的な戦闘民族も抱えている。

 前王は戦闘民族からも支持を得ていたが、今の王は彼らを抑えられないかもしれないな。

 内戦で済めばいいが……」

「それで、なんで『魔女の森』なんだ? 」


「結界だろう? 」


 急にハロルドが文句を、止めて会話に入って来た。私は頷く。



「そうだ。

 まずは天候による食料難から難民が増えたとして、困るのは我が国民とガネージャの民だ。


 一介の民には、()()()()()()我が国の結界は越えられない。

 結界を越える力のある魔術師がでてくるのは、ガネージャ国が動く時だろう。


 ……その前に例え他国民でも、幼い者や力ない者が犠牲になるのは、良しと思えないからな……。


 食料備蓄と領地の確保、人員確保に……と、まぁそんな予定を立てる段取りを組んでおこうと思った事。

 ……多分、宰相あたりがもう検討をしているだろうが……私も実際に問題になる前にみておきたかったんだ。


 本当の目的は、ハロルドの言う通り結界だ。いざという時に結界のコントロールが効くように、結界石と魔方陣を組んだ物を国境線に合わせて、新しい物を配置するつもりで来た。


 避難者が通り抜けられる仕組みが必要だろう? 」


「魔女の森の中は要らないだろ」


「いやいや、堂々と国境を越えるのは、だいぶ切羽つまってからだろ。最初は魔女の森から入る者が多いと思う」


「おい。チャーリー、お前も魔女の森に入るつもりかよ」

「ああ。魔女にも会ってみたいしなぁ~」

「俺は反対だ」

「私も会ってみたいね」



 ハロルドとカインが、同時に別の事を言い出し二人が言い合いを始めたので、楽しく二人をみながら明日の予定を考えておく。





 二人は文句を言いつつ、止めて来ないので了承しているのだろう。


 魔女の森か。

 森の安全性も知りたかったので、調度良い機会だ。





 こうして、私は魔女の森に向かう事にした。








お読み頂きありがとうございました。


本編のリリィとクリスの恋を、たくさんの方に応援して頂き本当に感謝しています。

とてもとても嬉しかったです。

番外編も少しでも楽しんで頂けるように…頑張ります。

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