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エピローグ

 冬から春に向けて、私達は毎日を忙しく過ごしていた。



 もうすぐ成人の儀を迎える。

 その後に王より王太子に指名される事も決定した。


 元々私達は王となるべく、教育されていたのだから、心さえ決まれば後は待つだけだ。


 驚いた事にアーサーもジェラールも、個別に私が王になる様に願い出てきた。




 ジェラールは、王になるつもりが元々なかったのは知っていたが……



 アーサーは、王位に対して思う所があるかと思っていた。

 部屋に訪ねてきたかと思ったら……


「うるさい一族は、(アーサー)が黙らせよう。

 だから、クリストファーお前が王となれ」


 私達は協力して国を治められるはずだ、とアーサーは言う。

 そして『クリストファーに後継者が出来次第、臣下にくだるつもりだ』と言ってきた。

 私が王太子となった後は外交官になるべく、もう動いているそうだ。

 これは、語学の優秀なアリシア嬢と二人で決めたらしい。王族の外交官がいるのは、とてもありがたい。今まで金の一族に、そんな人材の余裕はなかった為だ。



 やはりアーサーは王に相応しい男だった。


「ああ。(アーサー)に恥じない王となろう」


 私に出来る限りの努力をしてみせよう。アーサーはニッと笑って、拳を合わせてきた。


「私達は兄弟だ。

 そして、クリストファーは恩人だ。

 これから、私は臣下としての態度を崩す事はない。

 だが、いつでもお前は私の可愛い弟だよ」



 お互いの拳を合わせた後、スッと一歩下がり左膝を立て、片膝をついて礼をした。



 こうやってアーサーと話せるのは


 これが最後だと解った。








 春がきて今年も王都に白涙の花が咲く。


 リリィはこの花に特別な思い入れがあるようだ。この花の舞い散る様子を、じっと見つめている時がある。

 白涙の花びらが舞い散る中を、二人で並んで歩いた時、リリィがとても嬉しそうにしていた。こんな事で喜んでくれるのならば、毎年一緒に歩こうと言った。

 リリィがそれはそれは嬉しそうに笑うから、我慢出来ずに白涙の樹の下で何度も口づけた。






 成人の儀は恙無く終えた。


 問題があるとしたら、リリィが可愛いらしすぎる事と、ランスロットが睨んできて怖い事くらいだ。

 どうやら口づけした事がバレたらしい。



 


 婚約の儀は、当初の予定では立太子の礼を執り行った半月程後に行う予定だった。

 これはあわよくば、自分達の娘を王太子妃にすげ替えたい貴族達の策略があった為、この様なスケジュールだったのだろう。


 けれど、立太子の礼を執り行った後、直ぐに婚約の儀を行い、そのまま王太子と王太子妃として、各国の重鎮や国民にお披露目を行う事となった。


 

 これはアーサーが五月蝿い貴族達を黙らせた。

 後ろ楯のない私には成せなかった事の一つだ。

 アーサーが逐一、進捗を報告にきてくれるため、やり方を学ばせて貰った。


 アーサーとの距離は、すでに臣下と王の距離感だが、今までの兄弟の立ち位置よりも、ずっと近くに感じる。




 ジェラールは、()と北の辺境伯であるワーグナー家と相談して、北東の辺境の地を治める事にしたとの事だ。

 北の国境は、寒さが厳しく難民問題や他国に攻められることも稀にある。

 我が国の結界は、そう簡単に越えられないが国全土を覆っているため、完璧とはいえない所もある。

 さらには、貧困にあえぐ他国の難民を、全て排除する事はせず、救済の余地を残すために完璧な結界には()()()していない。そこにつけこんで、侵略してこようとする国も、あったが……力の差は歴然で、圧勝だった。


 東に位置する国は友好国でもあり、我が国との軍事力は雲泥の差があるため攻められる事もないだろう。


 しかし万が一の有事に備えて、北へ応援に行きやすい様に北東の領地に決めたそうだ。国境の結界を強化しつつ、寒さに強い食物の開発を進めるんだと、ジェラールとシルビア嬢は楽しみにしているらしい。



 また、定期的に王都に戻り報告と社交を欠かさない様にすると話していた。






 こうして、成人し学園を卒業した後の事が着々と決まっていく。



 私達王子に合わせて、婚約者達も残り一年で学園を卒業する事に決まった。

 アーサーとアリシア嬢は外交官の道へ。

 ジェラールとシルビア嬢は辺境の領地で開発の道へ。


 リリィは王太子妃としての政務につく。






 私達は、残りの学園の一年間を

 友として

 兄弟として

 学生として


 最後の自由をかみしめながら、楽しく過ごそうと話していた。


 それぞれの明日のために

 こうやって過ごせるのは今だけなのだから。








 成人の儀から一ヶ月程経ち、白涙の花も最後の時期が来た。



 今日、私は王太子となり、リリィを正式な婚約者として迎えることができる。



 ここまで長かった。


 



 あの日、全身が引き裂かれる様な痛みの中、死を覚悟していた。


 それでも生きたくて、毒消しの薬や体力回復薬に身体回復薬と合わせて飲んで、なんとか動いていた。

 毒に犯された内臓は燃える様な痛みを伴い、体力は呼吸するごとに奪われた。死んでしまった方が楽だろうと思える様な苦しみが、一週間二週間と……永遠の様に続いた。



 抗えたのは、父や母やリチャードといった私を支え、愛してくれた人達を悲しませたくなかった。


 ……ただそれだけが、私を突き動かした。



 死にたい程の苦しみの中、最後かもしれないと覚悟をした時にリリィに出会った。



 最初は、そんな苦しみから救ってくれた彼女への、感謝の気持ちが一番大きかったと思う。

 美しく可愛いらしい彼女に、恋をしても不思議じゃなかった。


 私の初恋だ。



 彼女の声を聞き、彼女と話すごとに気持ちは大きくなる。

 彼女の優しさを知る度に想いは募る。

 彼女に会いたくて、たまに領地に転移していた。彼女の姿を見れば、余計に会いたくて仕方がなくなる。


 そんな時、婚約の話が出て本当に驚いた。銀の一族の彼女と婚約するための方法を考えていたからだ。


 どうやら精霊から母に伝わり、母から父に働きかけてくれた様だ。そんな訳があったのかと後から知ったが、感謝しかない。



 彼女に会って話してしまえば、更に思いは募る。


 どうしても彼女と婚約がしたくて、強引な手を使ったため嫌われたかと思った。

 でもその後、彼女と想いが通じあえて本当に嬉しかった。



 それからは、順調に手紙をやり取りし、顔をあわせて話す。日に日に美しくなっていく彼女と過ごせる日々は、今でも宝物のような日々だ。



 彼女は強く美しく、そして優しい。

 周りを気づかい、そっと手を差しのべていることを知っている。

 兄弟や婚約者にも、そっと背中を押していた。


 何かを働きかけるだけではなく、そっと寄り添ってくれるのだ。私が苦しんでいた、あの頃の様に……。


 

 


 これから王太子となり、やがて王になる。


 そんな私にやはり彼女は寄り添っていてくれるだろう。




 だから私は、一生をかけて彼女を愛して大切にしよう。


 国の為に働いて、彼女をしあわせにするために生きよう。彼女の笑顔を絶さない様な王となろう。







 婚約の儀に向かうため、リリィを控え室に迎えにいく。


 リリィが私の贈ったドレスに全身を包み、私を見て微笑んでくれる。いつも以上に美しいリリィに、上手な誉め言葉もみつからず……ただ素直にきれいだと、それしか言えない自分が不甲斐ない。


 彼女をエスコートして祭壇の前に立つ、国王と神に誓う。


 誓いが終わると、立ち上がり誓いの口づけをかわす。


 そっと口づけると頬を染める可愛いリリィに、止まらなくなりそうだが……なんとか堪える。


 二人で参列者の方に向き祝福を受け、国民に向けてお披露目するためリリィの手をとって移動する。






 王城の門の上にある凱旋用の、バルコニーへと向かう。


 城門の前にはたくさんの国民がお祝いに集まり、大騒ぎだった。高らかにラッパの音が鳴り響き、伝達魔法により拡声された声が響き渡ると、大きな拍手と祝福の声が割れんばかりに響いた。


「王太子殿下クリストファー様」

「王太子妃殿下リリアーナ様」



 私達は二人で並び立ち国民に向けて手を振った。



「今日集まってくれた皆に、私からも祝福を! 」



 私はドロシーと精霊と一緒に作りあげた魔法で、空から国中に白涙の花びらを降らせた。



 光と花びらの舞う幻想的な祝福に、国民は熱狂の声をあげた。


 隣を見るとリリィも嬉しそうに、そして興奮している。



「クリス! すごいわ! 素敵ね! 」

「リリィ」

「なあに? 」



「ありがとう」




 そういって、ぐっとリリィの腰を引き寄せ



 深く口づけた。







最後までお付き合い頂きありがとうございました。



本当は学園生活のあれこれや、ドロシーとランスロットの物語やそれぞれの王子やリチャードの悲しい恋も書きたかったんですが…


ひとまずこれでリリィとクリスの物語は完結となります。


番外編で、王様とクリスのお母様の話は書きたいと思っています。



この作品にたくさんの応援やブックマーク、評価をくださり本当にありがとうございました。

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