魔女の後悔
ドロシー様はソファーにきちんと座り直した。そして、私達の方を向いて静かに話し出した。
「私はね、新しい『呪い』を生み出す研究に夢中でね。気づいたら数百年没頭していたり……そんな感じで生きてきたの。
でも、魔女ってみんなこんな感じでね、たまに連絡とる妹は薬草の研究をしていたわ。
研究が楽しくて、寝食を忘れて打ち込んでいた時に、妹が時を動かし結婚したと挨拶に来たのよ。
驚きはしたけど、薬草は効果を知るために、人と結構関わるから『そうなんだ』くらいにしか思ってなかったわ。
そして、やっぱり研究に集中していて……先日挨拶に来たと思った妹が、老衰で死んだの。
しあわせな最期だったと、姪が話してくれたわ。
……不思議な気分だった。
当時は、大切な研究時間がなくなってしまうのに、なぜ恋なんてするのかしら? そうとしか考えられなくってね」
そう話すドロシー様は、少しだけ悲しそうなお顔だった。
「まだ私には研究しか見えてなくて、そうして日々研究して過ごしていたんだけど、姪はいつの間にか時を動かしていて、生まれたのがベティー、クリストファーの母親だったわ。
ベティーは魔法に興味が全くなくて、魔女らしくないのは『呪い』でもかけられているんじゃないかって、心配した姪に調べて欲しいと言われたのがきっかけで会ったの。
その時に久しぶりに人間の街に降りたの。
前に来たときから、もう五百年以上経ってた。
幸いベティーは、ただ変わった娘で精霊に興味があるだけの普通の娘だったわ。そして、比較的早めに時を動かしてクリストファーが生まれた。
妹も姪も居なくなって変わり果てた街並みに、私を知る者が居なくなって……私は初めて孤独を知ったわ。それまでそんな事を考えた事もなかった。
それだけ研究の事しか考えてなかったの。
研究も呪いだから、人と関わることはあまり無いし、他の魔女ともほとんど関わる事は無かったわ。
もちろん、たまに仕事を依頼して来る者はいたけど、それは『呪いの魔女』に用があって私じゃないのよ。
ベティーは子供の頃に会っただけだから、私の事なんて覚えてないだろうし、ベティーの母親である姪が死んでからは、私を知る者は本当に誰もいなくなった。
そんな時にクリストファーの試練担当に当たって、久しぶりにベティーやクリストファーを見て嬉しかったわ。
そんな人並みの感情が私にもあったんだと、それにも驚いた。だから、クリストファーの試練も比較的メジャーな『魔封じ』を選んだのよ。
クリストファーが、早く魔女の力に目覚めて楽しめるかなと思ったの。……まさか死にかけるとは思わなくて。『魔女の試練』に他の魔女が手を貸す事は良しとされていたんだけど、唯一試練の担当者だけは、手を出してはいけないのよ。
だって試練の内容を知ってるのは、担当者だからね。
毎日弱っていってしまうクリストファーをみていたわ。
誰かクリストファーを助けてと。私のせいであの子が死んでしまうと思った。
だから、リリアーナがクリストファーを助けてくれた時は、初めて神に感謝した。
神なんて信じて無いのに変よね。
……感謝して、お礼を伝えに行きたくて……でも、まだ子供のあなた達に試練だったと言っても……ね。
私は、あなた達の無事を確認して……逃げるように家に帰ったわ。そして、いつかくる二人の王子の為に簡単な試練にしてあげたくて……色々な呪いを研究したり、予測したり実験してみたりしたわ。
罪悪感というのかしら『魔女の試練なんだから』『魔女はみんな受けるんだからしょうがない』とも思うけど、弱っていくクリストファーの姿が忘れられなくてね……。
こんだけ長生きしていて、この数年が一番つらかったし一番長く感じたわ。
魔女の試練にも、担当にルールがあるみたいでね。比較的、血縁の近い者が選ばれるらしいのよ。
王子二人は魔女と血縁が無いでしょう? 一番血の近いのはクリストファーだから、私が担当になるってわかってた。
だから、担当になって嬉しかったわ。これで、二人を楽にしてあげられるかもって思ってたんだけど……。
アリシアとシルビアにも悲しい思いをさせちゃって、悪かったわね。……私にとって一年って、瞬きするくらいの感覚だったのよ。
魔封じにしたら、王位継承権で揉めてる所に影響するかもって配慮したつもりだったのよ。
ごめんね。
そして、今さらだけど……
クリストファーを助けてくれてありがとう」
まさかドロシー様が、こんな思いをされているなんて知らなかった。
試練だからしょうがなかったとか、ドロシー様が悪い訳じゃなかったとか……言いたい事はたくさんあるけれど、うまく言葉に出来なくて……私がなんと言っても、きっとドロシー様のつらかった気持ちは消してあげる事は出来ないだろうと思った。
だから、私は素直な気持ちだけ伝えた。
「ドロシー様、こちらこそ私やクリス、更に王子様達や婚約者までも、今まで見守ってくださってありがとうございます」
「そうですわ! 王位継承権までご配慮頂いて……
きっと今、魔法が使えなくなってしまったら王位継承権を剥奪されておりましたもの」
「確かに、ドロシー様にとっての一年なんてあっという間ですものね。とてもご配慮頂いていたんだと理解しておりますし……今はドロシー様に感謝しておりますわ。
あれから、ジェラール様とうまくいきましたの」
私達は口々にそう言うと、ドロシー様は俯いたまま『じゃあ良かった』と小さな声で呟いた。
そう呟いた小さな肩は震えていた様に見えた。
「あ~私の話に付き合ってくれてありがとね!
あはは。 女子会って、いいものだね。
そういえば……
たまに、クリストファーやリリアーナの様子も見てたんだ。
ちょっとずつ大きくなるあなた達の様子や、そこの 二 人 と楽しそうにしてるのを見てたよ。
……っは! たまにだよ! 本当にたまにっ!
でさ! 三人で可愛い制服を着て楽しそうにして、はしゃいでたから、私も同じ制服にしたのにっ! おんなじのにしたのに!
学園の守衛に捕まって驚いたわ!
あれ、なんだったの?
……まぁ。もういいんだけどさぁ」
口を尖らせて、ぶつぶつ言っているドロシー様……。
まさか、ヒロイン対策の膝丈スカートがこんな所にも影響していたなんて…
お読み頂きありがとうございました。
いつもたくさんのブックマーク、評価ありがとうございます。
そして、誤字報告本当にありがとうございます。
恥ずかしいモノを晒してしまう所でした。とても感謝しています!漢字間違いとか送り仮名間違い(;つД`)ヒィー
気をつけたいです(希望)
携帯だと、気をつけていても勝手にやらかしているんですよね…すみません。