表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/49

魔女

「あははは!

 すごいじゃない! 」



 手をパチパチ叩いて笑っている。とても楽しそうだ。その姿は、はしゃいだ子供の様にも見えるし、獲物を狙い定め狩りをする前の興奮した猫の様にも見えた。


 姿はヒロインの様に見えるが、まるで別人だ。

 ……これが魔女。圧倒的な存在感と魔力だった。




「それで、だぁれ?

 私の組んだ『呪い』を、こんなにバラバラにしたのは」


 一瞬、目の奥がキラリと光った様な気がした。



「そうですね。

 自己紹介が遅れまして申し訳ありません。

 私が解析したランスロット=ロアーヌです。

 レディのお名前をお伺いしても? 」


 お兄様は全く怯む事なく一歩前に出ると、それはそれは美しい笑顔で自己紹介を始めた。

 なんて心が強いの。お兄様。尊敬します。




 魔女は一瞬、驚いた様に目を丸くしたがニヤリと笑ってお兄様の近くまで、音もなく近寄った。



「へぇ~やるわね。あなた。

 気に入っちゃったわ」


「ありがとうございます。

 レディーの様に素敵な女性に言われると嬉しいですね」


 お兄様は、すっと魔女の手をとり手の甲にキスを落とした。驚いた事に、魔女はカァっと顔を赤く染め上げて動揺している。

 しかし、動揺したのは一瞬で直ぐに話し始めた。




「私はドロシーよ。

 魔女のドロシー。よろしくね。

 クリストファーの曾祖母の姉よ」


 そう言ってクリスをチラリと見た後、私を見て近寄ってくる。……ちょっと怖い。



「あらん。そんなに警戒しないで。

 うふふ。警戒しないでって言う方が無理か。

 でも、()()()あなたに興味があったのよ。

 必ず誰かが近くにいて、近寄れないし」


 ドロシーは私の目の前に来ると、じっと見つめてくる。


「何にもしないわよ~。ただ興味があるだけ」




 音もなく私の指輪、アンクレット二つに、ピアス二つをドロシーの手の内に転移させる。


 どれもクリスに貰った魔力抑制のアクセサリーだ。




「すごいわぁ! 魔女よりもすごいわ。

 どおりで、私の『呪い』を破る訳ね!

 こんなに魔力を持ってるなんて……

 あなた人間なの? 」


 え? 人かどうかも怪しいレベルなの? 私?



「たぶん……人間だと思いますけど……」


「もちろん、僕の可愛い妹は人間だよ」


「へぇ~おもしろい。

 ……なぁに? あなた……何か持ってる?

 おもしろいわ! 何かしら? 

 よく見えないけど……女の子が見える……

 やっぱり興味あるわ! 」


 じゃあ返すわね! と私の魔力抑制アクセサリーを元に戻してくれる。それでも、楽しそうに私をみたり、お兄様をみたりしている。



「あなた達、本当に興味を、そそられるわぁ~」


 ニコニコ楽しそうにしている魔女にクリスが話しかけた。



「そんな事より、ドロシー。

 二人の呪いを解いたら試練は終了で良いんだな? 」


「え? ああ! もちろんよ。

 予想より、早くて驚いちゃったけど……

 こんな二人がいたら簡単に解けちゃうわよね~」



「リリィ『解呪』をお願いしていい? 」


「もちろんよ」


 私はにっこり笑ってから、ピアス二つと指輪をはずした。そしてお兄様の解析してくれた『呪い』を見ながら『解呪』を試みる。

 相変わらず、美しい芸術的な呪いだ。







―――――    ――――――   ――――――






 リリィは二人の王子の『解呪』を始めた。相変わらず美しい呪いだ。そしてそれを解いていくリリィも、とても美しい。

 いつまでも、この美しい画を見ていたいが……正直、私はこの呪いを作る魔女にとても興味がある。



「クリスの『呪い』もドロシーでしたね」



「ええ。そうよ。ああ~そうだわ。

 クリストファーにかけた試練で、まさか死にかけるとは思わなくって、流石に焦ったのよ~。

 『魔封じの試練』は魔女にとっては、かなり一般的なものだから直ぐに親が解いちゃって、つまんないと思ってさぁ。

 オリジナルの『魔封じ』をかけたんだけど……

 まさかベティーが、ああ! クリストファーの母親ね。魔女の力を目覚めさせてないなんて思わなくてさぁ。

 いやぁ~焦ったわ。

 まぁ、一般的な魔封じもベティーには解けなかっただろうから、同じなんだけどね。

 そしたらクリストファーったら、自分で運命の相手を見つけるわ。

 その娘が解呪する前に私の『呪い』の上から魔法かけるわ。

 何千年も生きてきて一番驚いたわ。あはは」


「……やっぱり、二人は運命の相手でしたか」


「どういう事だ? ランスロット」


「ああ、クリスにも話してなかったかもね。

 リリィがクリスを見つけた時、()()()()()()()と感じた事。

 ()()()()と確信があった事。


 運命の相手は『魔力で引き合う()()()』と聞いた事があって、引き合った二人は運命の相手なのかもしれない。と思っていたんだ。


 確証が無かったので言わなかったけれども……まぁ、来年の『婚約の儀』で判明しただろうし、良いかと判断しただけだよ」



 ニッコリ。


 絶対、婚約がきちんと整う前に、二人にキスなんてさせないよ。と心の声が聞こえるように、圧をかけておく。

 もし()()()()したらわかるように、()()()リリィには伝えなかったのだから。


 そう。運命の相手は体液の交換で判るらしいのだ。簡単なモノでキスをするとか、血液を一滴ずつたらして混ぜ合わせても判るらしい。


 運命の相手とまでいかなくても、本来なら『婚約の儀』を交わして、相手との魔力の相性をはかる。

 婚約するのは魔力持ちの貴族で、政略結婚がほとんどなのだから、相性が良くなければ婚約は成立しないのだ。いかんせん子供が出来にくい為に他の相手を探さないといけない。



 今回は王家の都合で『仮』の婚約だったため、正式な婚約ではなかった。そのために三人とも『婚約の儀』を済ましていない。成人の際に王太子を決め、婚約の儀を行う予定になっていた。

 大方、相手の魔力相性が悪いとか文句をつけて、他の婚約者と入れ替え自分の娘を王太子妃にしたいのだろう。


 他の公爵家の思案が透けて見えるようだ。




 それは置いといても、不埒な真似をさせるつもりはないからね。ふふふ。



 ドロシーは私達の話は気にせずに話し続ける。



「それでクリストファーの試練の時に、二人の王子に魔女の力の影響を見つけて、試練の担当になれる様に準備してたのよ。

 だってこの二人は魔女の力も得られないし、魔女の祝福も得られないのに試練だけあるなんて、可哀想じゃない?

 だから、来年の『婚約の儀』で愛する人とキスしたら呪いは解ける様に、新たな呪いを生み出してあげたのよ~。

 オマケしといたのよ。これでも。

 まぁ、婚約者の相手が可哀想だったけど、愛の試練ね。

 乗りこえられたら、魅了も解けて婚約者も手に入ると……ね。


 わざわざ、問題無いように私が相手役をしてあげてたんだからね。

 本当に別れたりしたら、困るじゃない! 」



 ドロシーは勝手に話し続けるが……本人的には親切心での行動らしい。

 うん。美しい呪いの作成者だけの事はある。私達の感覚とは少し違うが、優しさがあった。



「これで、二人の試練も終わったけど……

 私、あなた達に興味があるから、少しここで厄介になるわね。

 一応このまま男爵令嬢のままでいるわ。


 じゃ~またね。ランスロット、リリアーナによろしくね。

 うふふ」


 笑いながら、来たときと同じ様に空間を歪めて消えて行った。




 丁度、妹が『解呪』を終わらせた瞬間だった。



 妹によって()かれた『呪い』は、ほんのりとピンクや水色の光を纏い、いまだ部屋の中をキラキラと舞っている。

 その中心に妹がいて、耀いているのは妹ではないかと見間違う程に妹は美しい。

 妹を支える様にクリスが近寄って手をとる。まるで物語か別の世界の様に見える。





「……あの時を思い出しますね。

 あの時も、私とクリスとランスロットが彼女の解呪を見届けましたね。

 ……美しいですね。やっぱり」


 リチャードは、熱い眼差しを妹に向けていた。昔リチャードが妹を密かに想っていたのは知っていたが、今も変わらず想っていたのかと思うと切ない。



 リチャードのクリスに対する思いは本物だ。


 クリスを王として支えたいのだろう。


 そこには自分の恋心まで犠牲にしても支えたい、強い気持ちがあるようだ。まあ、妹もクリスに恋しているからね。妹の気持ちが変われば……リチャードはどうするのだろう……。

 いや、もしもの話はやめておこう。




 二人の様子を窺うと、クリスが妹の手と腰を支えている……うん。ちょっと近いな。引きはなそう。




 私とリチャードが二人の元に近寄って行くと、アーサー様とジェラール様が目を開けた所だった。




「二人とも気分はどうだ? 」


「……クリストファー、それにリリアーナ嬢もありがとう。

 私達は魅了はされていたが、意識はあったからね。

 辛かったよ。

 解放してくれて助かったよ」


「……兄様……やはり私達が、近く生まれたのは魔女の力が関係していたという事なのですか? 」


「やはりそうらしい。

 詳しくは、また話そう。

 それよりも良いのか?

 婚約者に話しに行かなくて」



 クリスは少し意地悪な顔して、ニヤリと笑う。




 アーサー様は慌てて立ち上がり、私とリチャードにも簡単に礼を言い、また後日ちゃんと礼をさせてくれ! と叫びながら……もう部屋を出ていた。



 ジェラール様は真っ青な顔のまま、丁寧にお礼を私達にした後……ふらふらしながらも急いで部屋を出て行った。




 残された私達は、それぞれやりきった気持ちでいたが……



 妹だけは心配そうに扉の向こうを見つめていた。






いつもお読み頂きありがとうございます。


たくさんのブックマークや評価、本当にありがとうございます。

励まされます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ