思い込みと解析とヒロイン
学園でリチャードに会うのに、私の個室は良くないとの事で、お兄様の専攻している闇魔法学の研究室を借りる事になった。
そこでならリチャードが一緒でも、問題ないだろうとのお兄様の配慮だ。
約束の時間に訪ねると、お兄様とリチャードは既に二人で真剣に話をしていた。二人は私に気づくと立ち上がって迎えてくれる。
リチャードは、次期宰相という攻略対象だ。黒い髪に黒い瞳のクールなイケメンになっていた。確かにクールで昔から私とは、あまりお話をしてくれないけれど……たまに見せてくれる笑顔が可愛らしい。
お兄様とは仲が良く、一緒にいるところをよく見かける。クリスもリチャードをとても信頼しているとよく聞いている。いいな。男の子同士の友情。素敵。
「リリアーナ様、ランスロットに軽く話を聞いていました。
……魅了ですか……
その魔法は確かに闇魔法にあるんですが……
この国の結界内では、使えないようになっているんです。
理由は色々ありますが、一番は結界を張る王族を魅了して結界を解かせるのが、この国を攻める一番効率の良い攻め方だからです。
なので、特に魅了に関しては厳しく使用制限がかかっています」
「では、国内で魅了魔法は使えないと言う事ですね……」
「ええ。もし、国内で魅了を使えるとしたら……
うーん……はぐれの魔女あたりでしょうか……
もしくは闇の一族の持つ研究室内ならば、使用可能ですね」
「…………はぐれの魔女」
私はそこで、ようやく気づいた。
魔女! そうだわ。
クリスに言われていたのに、ゲームのストーリーに気をとられていて、その可能性を忘れていたなんて!
「魔女の試練だわ……」
そう考えると全ての辻褄が合う。
魔女の力の影響を受けたであろう子供。
成人前までの期間。
急な気持ちや態度の変化。
「リチャード様、もし彼女が魔女だったとすれば、魅了魔法だと思いますか? 」
「はい。そうですね……もしあの女が魔女ならば、王子達を魅了している可能性はあると思いますが……
気まぐれな魔女がわざわざ学園に来て、こんな面倒な事をするのかと言われると……わかりません。可能性は低い気がしますが……」
「リチャード様、ありがとうございます。
お兄様、急いでクリスのところに行かなくちゃ」
そう言い終わらない内に、振り返ろうとして何かに阻まれた。キャッ! と声が出たけれど、すぐにクリスだと気づく。
「……リリィ」
「クリス! ちょうど良かったわ。
今、あなたのところに行こうと思って………………?
……なぜ、ここにいるの? 」
「私が声をかけておいたんだよ。
リリィはリチャードと話したい事があるって言っていただろう。
相手がリチャードだからいいけど、個室で会うなんてクリスが気になるだろうからね。ふふ」
お兄様は意味深な微笑みを浮かべている……
「??? 」
「私は側近だから。ね。クリス」
「……助かる。
私にとって一番の信頼を寄せる事の出来る友はリチャードとランスロットだ……
でもリリィは女の子だからね。少し気をつけて。
個室で会うとか……」
「んもう。仲良しさんだっていう話はいいの!
クリス。これは魔女の試練だと思うわ。」
「……リリィわかってない……。
…………なんだって?
そうか、それで二人が狙われたのか。
では『呪い』か? 」
「私は『魅了』かと思ったんだけど……
お兄様、それって解析出来そう? 」
「うーん。どうかな? 私は『呪い』の線で解析してみるよ。
リチャードに『魅了』の線で解析して貰おうか」
「そうですね。私以外に『魅了』は読み取れないかもしれないです。
しかし、問題はどうやって解析するかですね……
素直に解析に応じるとは思えないですし……
どうしますか? クリス? 」
「……解析にはどのくらいの時間がかかりそうなんだ? 」
「通常の『魅了』でしたら手筈を整えさえすれば、すぐにでも……
魔女の『魅了』となると……数時間かかる可能性もあります」
「リリィ……『魅了』を『解呪』出来そう? 」
「……多分、解析出来ていたら直ぐにでも出来ると思うわ」
「ランスロット『呪い』の場合にかかる時間は? 」
「前回のクリスの『呪い』に近いならば、比較的すぐに解析出来るよ。
あれからも、あの『呪い』を解析していたからね。」
「「…………」」
「ええ? お兄様そんな事してたの? 」
「だって、あんなに美しい呪い調べない手はないだろう?
いや~綺麗だよね~
今回、調べた事が役に立ちそうで良かったよ。
これがね、術者による癖みたいなモノがあるんだ。前回と同じ魔女ならば、すぐに解析出来るよ」
楽しみだな~なんて笑うお兄様……クリスもリチャードも完全に引いてるわ。
「……とにかく、二人と接触出来る手筈を早急に整えよう」
気持ちを持ち直したクリスが、二人を呼び出す方法を考えてくれる。それにお兄様がつけたす。
「私やリチャード、それにリリィもいてもおかしくないのは……やはり学園になるね」
「そうだな。ランスロットはリリィと一緒に、リチャードは私と共にいてくれ。
早い方がいいだろう。
明日の朝、慰問先の検討をする事になっていたから、明日私の執務室で決行しよう」
クリスの立てた計画では、リチャードは朝からクリスの個室に居て相談を持ちかけている体を装う事。
私とお兄様は、王子達が入室したら二人でクリスの個室に入る事。
全員揃い次第、部屋にクリスが結界をはり、リチャードが『捕縛』と『眠り』の魔法で二人を捕らえるというモノだった。
……なんだかドキドキする。
上手くいかせなくちゃ!
四人の為にも、絶対に成功させなくちゃいけないわ!
私は緊張に震える身体を叱咤して、お兄様とクリスの個室へ向かう。
私達が部屋に入ると直ぐに、クリスが結界を張り、リチャードが魔法で縛って王子達を眠らせた。
計画通りに事が進み、ほっとしたのもつかの間……
お兄様は私をクリスの元に手を引いて連れていくと、リチャードに向かって言った。
「……じゃあリチャード、はじめようか」
お兄様はニッコリ笑って、リチャードは真剣に頷きながら、二人は息を合わせた様に、それぞれアーサー様とジェラール様に向かいあった。
二人の魔力が高まり、解析をかけた途端……
パチッと大きな火花が散った。
すると空間が、ゆらゆらと歪み大きな歪みが生まれた。
「きゃははははっ! 思ったよりも早く気づいたのね!
やるじゃない! クリストファー! 」
歪みの中から姿を表したのは……それはそれは楽しそうに笑うヒロインだった。
お読み頂きありがとうございます。