ゲームの強制力
ヒロインは、やはり私達と同じクラスに編入してきた。
クリスはヒロインの動向を観察して、把握しておきたいと言ってくれた。けれど私は、クリスがヒロインに惹かれてしまうのが怖いから出来るだけヒロインに近寄らないで欲しいとお願いした。
もし近寄る必要があったのならば……お兄様にお願いする事にした。
お兄様はゲームに登場しないので、どうなるか見当もつかないが……攻略対象ではないので、幾分か気が楽だ。そして、かなりのシスコンなので私が嫌がるであろう相手に、好意をイキナリ持つとは考えにくいのもお兄様にお願いする理由だった。
もちろん、出来れば接触して欲しくない。
ヒロインは、やはり明るく可愛らしい令嬢でマナーがなっていないと他の令嬢からは冷たい目で見られている。そして令息からは、可愛らしいと人気がある。ゲーム通りだ。
しかし私達三人は特に関わる事もなく過ごしていたし、同じクラスの攻略対象とも過剰な接触は感じられなかったので、私は少し安心していた。
そして、ヒロインが現れて一番最初の異変は……
ジェラール様だった。
今日は王妃教育が朝から入っていたので、私達三人は学園には行かずに王城で過ごしていた。三人で他国の情勢といった社会学の講義を受けた後は、それぞれの王妃様とのお茶会をして終了となる。
王妃教育の後は三人でお茶会をしてから帰るのが、いつもの流れになっていた。
「シルビア、あなた顔色が悪いわ。ここのところ、ずっとよね? 何があったの? 」
お茶の準備が整い、侍女がさがるとアリシアがすかさず聞いた。シルビアはここのところ表情も暗く、顔色が悪い。よく見ると目の下に隈が出来ている様だった。
「…………実は……いいえ。
…………その………………」
シルビアはゲームの中で言う『冷たい嫌味令嬢』に見えるが、『言いたい事をはっきり言う令嬢』なだけだ。遠回しな回りくどい言い方の多い貴族令嬢の中で、はっきり言ってくれるので分かりやすい。もちろん頭が良い分、遠回しな嫌味もとても上手だけれども……ね。
そんな彼女が、こんな風に言い淀むなんて……
私はアリシアと顔を見合わせた。とても良くない気がする。
暫く心を決めかねている様だったが、俯いたままシルビアはゆっくり話し始めた。
「……最近、ジェラール様がおかしい気がするの。
最初はほんの少しの違和感だったけれど……
なんて言えばいいのかわからないの……
でも、何かおかしい。
……ごめんなさい。私らしくないわね。
忘れてちょうだい」
「だめよ。シルビア! 話して貰うわ。
誰がなんと言おうと私達は友達なのよ!
あなたにそんな顔をさせている理由があるなら、何でも言って貰うわよ!
例えそれが、どんなに愚かしい話でも私達は聞くに決まってる!
まぁ、全てを鵜呑みにするようなお馬鹿さんじゃないのよ。私達は、うふふ。
……だから、大丈夫よ。話してごらんなさい」
アリシアのゲームで言う『高慢高飛車令嬢』の様に聞こえる物言いだが……私達に気を使わせない様に言ってくれているだけで、彼女の優しさと照れ隠しだ。
二人とも高位貴族らしい強さを持つ令嬢だが、こうやって二人を知ればとても優しい一面を知る事が出来る。強さも優しさも、もちろん教養も美貌も王妃に相応しい二人だ。
そんなシルビアを、ここまで悩ませるなんて……ジェラール様は何をなさったのかしら?
「ねえシルビア。私やアリシアが同じように悩んでいたら、あなたも聞いてくれるでしょう?
私だと頼りないかも知れないけれど……頼りになるアリシアもいるし、私達はあなたの力になりたいの。
あなたが悩んでつらいなら話して。
話したくないのなら……話したくなったら言ってね」
「リリアーナ! だめよ!
そんな事言ったらシルビアは、まだ何日も一人で悩むかも知れないわ! 」
「そうね。それは……つらいわ。
でも気持ちの整理をして、話したくなってからの方がいいと思うわ。
アリシアの優しさもわかるけれど、話す方にも決心がいるかもしれないでしょう? ね? 」
最近、秘密を打ち明けたばかりの私には、この心を決める時間が必要だった。1日だけだったけれど、気持ちを固めたり色々整理するのに時間が必要なのだ。
「……いいえ。そうね。
アリシア、リリアーナ。ありがとう。
二人に聞いて欲しくて、ずっと考えていたのよ。
でも……急に……口にする事に……怖じ気づいただけなのよ。
言ってしまったら、本当にそうなってしまいそうで……」
私らしくないわね。とシルビアは苦笑いを浮かべた。
「じゃあ、気持ちは決まってるのね? 」
「それならば話してくれるわね? 」
「ええ」
「実は……ジェラール様が最近、会ってくださらなくなったの。
最初は忙しいのかと思っていたけれど、何回もお茶会もキャンセルになるし、学園でも教室以外ではほとんどお会いしないの。
今日の様に、王妃様の所で少し話して……わかったわ。
ジェラール様……私以外に……
……好きな方が出来たのかもしれません」
ぽつりと言葉とともにシルビアの涙が零れる。
「そんな! 勘違いの可能性は?
だって……あなた達は……」
アリシアは言葉につまってしまう。そうだろう。だって、シルビアとジェラール様は想いあっていた様にみえた。
「……瞳が……もう……私を映しては……いないのです……
あんな目で見られるなんて、耐えられない……
どうして急に……なぜ……
……わかりませんの……うっぅぅ」
耐える様にむせび泣くシルビア。
その時の衝撃と言ったらなかった。
とうとうこの時が来たのだ。ゲームが始まってしまったのかもしれない……
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