リリアーナ秘密 2
クリスはずっと黙ったまま聞いてくれていた。どう思われているのか知るのが怖くて、顔を見る事は出来なかった。
でもゲームを否定すると、彼女の人生まで否定してしまう様な気がしていた。
「……それで、編入生の事を調べて欲しかったのか……。
リリィの言う通り、赤の一族の男爵の庶子で白い混じりモノの力を持っている様だね。
確かに類似点が多そうだ。
……相違点はあるのか? 」
「違うのは、お兄様はゲームにも登場しないし、領地から出てきてもいないわ。
リチャードも攻略対象なんだけど……ゲームではアーサー様の側近なの。
後は、私が……その……お茶会の時の様な姿で、学園に通っている事……かな? 」
「「………………」」
二人は無言で俯いた。大方、私のあの姿を思い出しているんだろう。クリス……肩が揺れてるわ。
「っぷっ! リリィはゲームだと、私の考えたあの姿なのかい? 」
「そうよ。お兄様。私もあの姿の自分と 二 人 にお茶会で会って、初めてゲームの設定と全く同じだと気づいたの。
それまで、そんなこと思いもしなかったわ」
お兄様ったら笑いすぎだわ! お兄様が考えたのにひどい……。笑いを堪えたクリスが話を続ける。
「……それで、婚約破棄というのは? 」
「可愛らしく純真なヒロインが、平民の感覚で攻略対象に話しかけて行くんだけど……」
「なぜ誰も注意しないんだ? 」
「注意をするのよ。攻略対象の婚約者が。
そうすると、ヒロインを虐めたと逆に攻略対象に憎まれるの」
「なぜ? 」
「学園内では一応、身分に関係なく学生として平等に過ごそう。という建前の元に一緒に居ることを許されるの。きっともう、ヒロインに好意を持ってしまっているのでしょうね。
そして……ヒロインに対して嫌がらせをした、ドレスを破った、階段から突き落とした等を、パーティーで断罪して婚約破棄するの」
「…………なぜとしか、言えない事が多いんだが……
なぜパーティーでわざわざ婚約破棄するんだ? 」
「物語だから、私にもわからないの」
「婚約破棄されて、リリィ達はどうなるんだ? 」
「一番マシなのは、シルビアね。修道院に一生監禁されるけれど、アンダーソン家の娘として修道院に行くの。
……アリシアは苛烈なロートシルト家だから、家から除籍されて平民落ち……そして……生きていくために……娼館におちるわ。
私はゲーム中のクリスの台詞にしか出てこないけれど……
銀の領地で、子孫繁栄に役にたっている……って……」
「「…………………………」」
クリスは大きくフーッと息をついた。私をじっと見つめているだろう、視線を感じるが……顔をあげる勇気がやっぱり出ない。冷たい目で見られてしまったら、立ち直れない。
「…………一人で抱えて、つらかったな」
そう言ってクリスは私の手を握ってくれた。
「リリィ……私達はリリィを守るよ」
お兄様の声が聞こえる。涙は滝の様に流れ落ち、私は俯いたまま泣き崩れた。子供の様に声をあげて泣いていた。
クリスは手を握ったまま、立ち上がり私の座る横に跪いた。そして、手に軽くキスを落とす。
「リリィ泣かないでくれ。
確かに信じ難い話だけれど、リリィがこんな嘘をつくとは思えない……
そして一番は、そのゲームの様な未来を迎える訳には絶対にいかない。という事だ。
決してリリィをつらい目に遭わせたりしないし、婚約破棄なんてする気もない」
「私だって、可愛い妹のそんな未来許せないからね!
……さて、ずいぶん長い間話こんでしまったね。
久しぶりにピクニック気分でごはんにしよう!
昔、食べたメニューも作らせたよ。
準備に少し時間がかかるかもしれないけど、待ってて! 用意してくるよ」
と、ウィンクしてお兄様は四阿から出て行った。
残された私達は、クリスに手を引かれ立ち上がって二人掛けのソファーに腰掛ける。両手は握られたままだ。
「リリィ、私は昨日から『私にとっての最悪な可能性』の秘密ばかりを考えていたんだ。だから確かに驚きはしたけれど、リリィに嫌悪感をもったり、嫌だなんて思わない。
ましてや頭がおかしくなったなんて決して思わないよ。
私が一番恐ろしいのは、リリィが私から離れていってしまう事だ」
「そんな事ないわ。だって、私はヒロインにクリスが恋をしてしまったらどうしようと思ってきたんだもの。
もしもって考えると怖くて、クリスから婚約破棄されたらどうしようって……っぅ…………
もちろんしないと思うけれど、でもヒロインに嫌な気持ちを持ったり、ツラくあたったりしてしまう気持ちも……分からなくないと思って……。
そんなことを私達がしてしまうかもしれないのが、とってもとっても怖いの」
クリスは私をぐっと引き寄せた。引き締まった胸元に抱えこまれると、爽やかなシトラスの香りがする。ドキドキするのに、落ちつく様な……でもドキドキして……きゅうってなる。自分の気持ちなのに、大きく揺れ動いてちっとも制御できない。
「リリィの心配はよくわかった。
でも覚えておいて、私の気持ちは変わらない。
昔も今も、ずっとリリィだけだよ」
嬉しくて嬉しくて……うまく言葉に出来なくて……クリスの胸の中で小さく『うん』と頷いた。
しばらくすると、お兄様がピクニックの準備を終えて戻ってきた。私達は慌てて離れて、ソファーに並んで座り直したけど……お兄様は生温かい目でこちらを見ているので、色々バレバレなのだろう。私の顔が赤いのも治らない。むしろ恥ずかしさから、さらに赤くなっているかもしれない。
「さあ。二人ともこっちでピクニックしよう!
そして、これからどうしていくか対策を考えようね」
私達は二人で顔を向き合わせて、頷き合いお兄様の元へ歩いて行った。
リリィ(つд;*)頭おかしいって言われなくて良かったね。
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