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魔術研究学の研究所

「リリィ、専攻は何にするか決めたのか? 」


 週に何回かある『クラスで受ける授業』を受け、今日はクリスとお昼を一緒にとる約束をしていた。

 二学年の十六歳になるクリスは、乙女ゲームの攻略対象に相応しいイケメンになっていた。


 声は子供の頃と違い少し低く、ちょっとだけ掠れているところが色っぽく感じてしまう。

 キラキラ耀く金の髪は短く無造作に流され顔まわりで煌めいている。

 ブラックラブラドライトの瞳は、黒の中に不思議な青が入りこむ……見れば見るほど引き込まれてしまいそう。

 鼻は高くスッと通り、唇は薄い。

 身長は高く筋肉がついているのに細身だ。前世でいうボクサー体型というのか、モデルの様というのか……



「リリィ? どうしたんだ? 」


 うっかり見とれてしまったとはいえず、慌てて答える。


「魔術研究学に行きたいと思っているんだけど……いい? 」


 先にクリスに確認しておけば良かった。

 勝手に一緒に学ぶつもりで決めてしまって急に恥ずかしくなり……うつむいてから、ちらっとクリスの方を見る。


「っ…………それなら、良かった。

 一緒なら安心だからな。

 もし違う学部なら私もそちらも専攻しようかと思っていたけど……そうか」


「だって、これからずっとクリスと一緒だもの。

 私も魔女の力について学んでいた方がいいと思って」


「……リリィ」


「それに子供が出来たら、その子は魔女の力を受け継ぐでしょう?

 クリスの様に苦しんで欲しくないし、私達の子供の力になってあげたいもの」



「……っ」




 クリスは口元を押さえ天を仰ぎ見たまま、こちらを見てくれない……

 ??? え? 何? 何か変な事言っちゃった?



「……こども…………私達の……」


 クリスは何かぶつぶつ言いながら、固まっている。



「……クリス?どうしたの?


 それでね。もし良かったら研究の時間に、クリスの受け継いだ魔女の力や魔女の記憶、魔女の試練についても教えてね。

 もちろん私に言える範囲でいいから」


「……ああ、もちろんだ。

 リリィに言えない事なんて何もないよ。

 ただ……魔女の研究に力を入れている教授には、言える事と言えない事があるから、ゆっくり話そう」


「わかったわ」




 トントントンとノックがあり、クリスが入室を許可する。食事の配膳に来た厨房の料理長とメイド達だった。



 ここは王族やその関係者のみが使用出来る個室となっている。今いるのはクリスに与えられている個室だ。


 一階が食堂になっている棟の三階部分に、王子様の個室が三部屋と大部屋が一つある。二階部分は私達、婚約者に与えられた部屋が三部屋あり二階には大部屋が二つある。


 本来ならば、三階は王太子とその側近の部屋。二階は王妃候補の部屋となっていた。今回は王子が三人なので側近に個室はなく別棟に個室を貰っているらしい。

 各階の廊下から吹き抜けになっているため、下の食堂の様子も見ることが出来る贅沢な作りだ。混乱を避けるために王子や私達はこの個室で食事をする。


 私はクリスと一緒かライバル令嬢三人で食べるか、個室でお兄様と食べている。


 もちろん食堂で食べてもいいのだが……みんなに止められているので、きっと止めておいた方がいいのだろう。

 みんな過保護が過ぎると思う。


「じゃあ食事にしようか」


 いつの間にか食事が綺麗にセットされて、毒見がすんでいた。考えこんでいた様だ。


「ええ。いただきます」



 何事もなかった様にニコリと笑い食事する。

 うん。とっても美味しい。




―――――    ―――――    ―――――





 午後からリリィと私は魔術研究学の研究室に向かう。


 移動中もリリィに話しかけたい輩が、うろちょろしている。一人で移動させたら大変な事になるだろう。

 先程の様に私を見つめる姿や、上目遣いが可愛らし過ぎて……慣れている私ですら思わず抱きしめてしまうところだった。


 王妃候補の二人やランスロットが、必ずリリィについてくれているので安心だが……リリィ自身は危機感が足りない……



 それもこれも……魔術学部の試合形式の授業中に大怪我を負った生徒が出たのだ。その時に、一学年の見学日でリリィがいた。

 リリィは怪我した生徒に駆け寄り、一瞬で全ての怪我も火傷も治してしまったのだ。


 間違いなく、見学に来ていたリリィに良いところを見せたかった奴が、弱い者に強い攻撃を仕掛けたという所だろう。



 瀕死の生徒に駆け寄り、治療魔法をかけるリリィを見た者たちから『銀の妖精姫』と呼ばれているらしい。


 ……そんなリリィにみんな声をかけたくて、リリィの周りにありとあらゆる生徒が近寄ってくる状態だ。


 リリィは公爵令嬢で王子の婚約者にもかかわらず、誰に対しても普通に接してしまうので、危なっかしい……兄弟の婚約者達がいてくれて本当に助かった。




 ここのベーカー教授は『魔女に魅入られた男』と呼ばれ魔女の研究に心血を注いでいた。こちらの研究室は、生徒は二十人程のあまり人気の無い研究室だった。

 そして個別研究している者が多く、研究所内の書庫や資料室に籠っていたりするので、研究室の教室にいるのは通常は二、三人な事が多い。


 そんな魔術研究学の研究室だが……今日は全員集まっていた。


 みんなの研究対象の『魔女』であるはずの自分(クリス)の時すら、全員はいなかったのに……思わず苦笑いが零れる。



「リリアーナ=ロアーヌです。どうぞよろしくお願いいたします」



 周りのざわめきは、クリスが意図的にリリアーナには聞こえにくくしておいた。



「すげぇ、本物の銀の妖精姫だ」

「オレ初めて見た」

「魔法学部で怪我した奴が、治療して貰ったらしいぞ」

「自分も怪我してみようかな……」

「なんか良い匂いする……」

「魔術研究学部でよかったと初めて思った」




 外野が煩いが人数が少ないし、ここの生徒はリリィに無理矢理迫ったり、無理強いしたりする者はいないだろう。



「仲良くしてくださいね」



 ……リリィあまり笑顔を振り撒くと、犠牲者が増えるから止めてくれ。ベーカー教授……貴方までうっとりするのは本当に止めてくれ。



 リリィ……恐ろしい無自覚だな。



 とりあえず、()()()大きな混乱もなくリリィは魔術研究学で魔女について学んでいた。

 ベーカー教授の授業に力が入っているのは……良いこととしておこう。


 リリィが入ったと聞いた生徒達がその後、大量に途中受講を希望してきたが……ベーカー教授のテストによって、落とされていた。






 ベーカー教授の二つ名に『妖精に魅入られた男』が追加されたのは、いうまでもない。




お読み頂いてありがとうございました。


来週はいつものペースに戻れそうな予感です。

今週は投稿ペース落ちたにもかかわらず、たくさんのブックマークや評価をありがとうございました!

いつもとても嬉しいです。

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