そしてはじまるゲームの舞台 その準備
そうして王都で過ごす日々も四年が過ぎ、私達は十四歳になった。
来年の春には乙女ゲームの舞台の学園に入学する。
この世界の魔力ある者は十五歳で学園に入学する。
そして貴族ならば、だいたい十六歳で社交界デビュー。
十七歳で成人して卒業する。
そのため、この学園に通う三年間は結構忙しい。
王妃教育も早めに組まれていたため、ほとんど終わっていた。後は定期確認と時世のものを学んでいくという感じだ。学園に通う間は、週に一度お城に行く位になる。
主にそれぞれの王妃様との勉強会だ。
……今回に限り三人も居たけれど、特に混乱もなくいつも以上にスムーズに進んでいるという。三人同時に行ったためお城としての負担も変わりなかったので喜ばれているとの事だ。
貴族令嬢の結婚は、卒業した十七歳から二十二歳頃までに結婚する事がほとんどだ。
卒業後すぐに結婚する者もいるし、相手の家に入り花嫁修行する者もいる、特定の婚約者がいなければ社交界で婚活したりと様々だった。
そのため、学園はかなり結婚相手探しの場となっているので、注意するように色々な人に言われていた。
王子の婚約者に手をだすとは思えないけれど……あらぬ噂で傷つくのは女性だから気をつけるに、こしたことはない。
アリシアやシルビアまで私に注意して来て驚いた。
二人だって同じだからね!二人も注意しなくちゃ!と負けずに言ったら、何故かアリシアには可哀想な目をしたまま抱きしめられ、シルビアは肩を震わせて笑っていた。……悔しいのは何故かしら。
そして二人は正確には知らないだろうけれど、私はかなり強いと知ってるはずなのになぁ……クリスの防御の結界もたくさん張られてるらしくて、他の王子様達にどん引きされたくらいだし……
学園に入るにあたっても、王妃教育で学んだ事がいかされているので、私は良かったと思っている。
私達ライバル令嬢は、一緒に辛い王妃教育を受ける仲間であり、同級生でもあり、同じ公爵令嬢という立場もあり、この四年間でとても仲良くなれた。
いや、心を許せる友達になれたと思う。
私達三人のうち二人は王妃にはならないけれど、王妃を支える友でありたいと思える程に仲良しだ。
今日は学園で着る制服の仕立てが終わり、出来上がった制服を勉強後のお茶会で見せ合おうと話していた。
この制服は、前世でイラストを見た時には何とも思わなかったが……こんなにスカートが短いなんて、この世界ではありえない。
こちらの価値観で生きてきたので、とても恥ずかしい。
確かに私達ライバル令嬢や他の令嬢は、ゲームの中でも長いスカートをはいていた。
基本ラインさえ押さえておけば、カスタマイズは自由なのだ。そもそも、スタイルが違い過ぎてカスタマイズが必要な人が多い。
どうやら婚約者がいない爵位の低い令嬢や、庶民に膝丈のスカートの制服を着るものが多い印象との事だった。自分より爵位の高い貴族の妻や妾になりたいと思われるので、普通は膝丈スカートは避けているが、そういう希望者は一定数いるらしい。
『身体で妻なり妾なりを狙ってますって言っているようなものだよ。恥ずかしいと思わないのかな。……でも、その家の方針もあるからね。大きな声では言えないし、学園で許可されているものだからね。はぁ』去年から学園に通うお兄様は、かなり色々な方から言い寄られて大変らしい。
お兄様はゲームなら登場すらしない人だけど、攻略対象よりもハイスペックでイケメンだ。しかも、王子の側近で一族の族長候補……妾でもいいというご令嬢も多いらしくて、お兄様は『結婚もしていないのに、愛人なんて考える訳ないじゃないか』と、うんざりしていた。
そう。でもゲームではヒロインに婚約者を奪われてしまうのだ。
膝丈スカートのヒロインに。
去年、お兄様の入学式に変装して私も家族として参加した。
(半分くらいはクリスの入学式シーンを見たかった。)
そこで膝丈スカートのご令嬢を見て驚いたのだ。
そして、ヒロインの事を急に思い出した。
確かに物凄い衝撃がある。はしたないとも思うが……それ以上に目を奪われてしまった。
そうして目を奪われ、ヒロインを見てしまう。爵位は低くとも本当は純真で可愛らしいヒロインに心惹かれる……という事がありえるかもしれない。と思った。
だから私は、ゲームの様にならないかもしれないけれど、万が一に備えて対策をとる事にした。
もっと早く気づいていたらば、去年のアーサー様とクリスの入学前に対策をとれたのに……と思わなくもないが、やらないよりはいいのではないかと思い、アリシアとシルビアに相談した。
私の考えたのは……
『私達も膝丈スカートの制服を一度着て、婚約者に見せる』
ただそれだけだ。
もちろん、恥ずかしいから学園に着ていくつもりはないけれど。
でも一度私達の膝丈スカートを見て貰って、衝撃を受けるなり、慣れるなりしてくれるといいな。と思ったのだ。
アリシアもシルビアも最初こそ、難色を示した。なので一度私の屋敷に招待して、私が着て見せた。
「「……なんていう衝撃なの」」
……わかって貰えて良かった。
確かに私の膝丈スカートに物凄い衝撃を受けたらしい。膝丈スカートの衝撃で婚約者が他の令嬢に向いてしまうのは嫌だ。一度お城で着て見せるだけならば是非ともやりましょう! と協力してくれる事になった。
一人でやるより心強いし、他の二人の王子もヒロインに心奪われないで欲しい。もちろん、二人の膝丈スカートもサイズを知っていたので、こちらで用意済みだ。
そして、今日は決行日。
お兄様にも内緒にしていた。
クリスや他の王子様達にも、それぞれの婚約者から『必ず王子様三人で来て欲しい。三人にまず、制服着た姿を見せたい。三人以外は部屋に入らない様に』と伝言しておいた。
みんな「???」と不思議がっていたが、なんとか約束をとりつけた。
とんとんとん。
ノックにマーサが応える。
「皆様、王子様がみえました。よろしいですか? 」
私達は顔をあわせて頷きあった。
……そこからの事は上手く言えないが、パニック状態だった。
王子様達が入室して私達は椅子からたちあがり、カーテシーで迎えたまでは良かった。
アーサー様は大声で慌てふためきアリシアをお姫様抱っこして壁際に連れて走りさった。
クリスは走って来て私を抱きしめ、姿消しの魔法を使って完全に消えた。
ジェラール様は固まったと思ったら、無言のまま慌てて真っ赤なお顔でシルビアをカーテンにくるんだ。
アーサー様の大声で他の騎士や側近が入室して来そうになるのを、やはりアーサー様が必死に止めていた。
その後、学園の膝丈スカートは全面禁止になった。
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