王妃教育とライバル令嬢
私とリリィはいつも通りの姿でお城に向かった。
リリィは王妃教育に対しても、特に思う所は無いらしく『勉強会って初めて』と笑っていた。……大物過ぎる。
お出かけ仕様のドレスを着たリリィは美しい。兄の欲目ではなく本当に妖精の様に見える。ハズレ令嬢で過ごすことも考えていたが、どうやら両思いになりクリスは安心したのか、いつもの愛らしい姿でいこうと決まった。
リリィよりも先に友人として王城にあがった私は、お城でクリスと一緒に剣の稽古をしたり学習したりするのは、予想していたよりも楽しかった。
王子に仕えるのも案外悪くないな、なんて思っていたが……最近はリリィとの惚気話を聞かされるので兄としては複雑だった。
森で一緒に遊んでいた時も思ったが、私とクリスとはとても気が合う。王族と付き合うなんて面倒だし、一族の事もあって側近候補は断れる立場だったけれど……リリィの事も近くで見守ってあげられるし、何よりクリスと一緒に過ごしてみて、やはりクリスの事も放っておけない。
そんな事を考えているうちにお城に着いた様だ。馬車を降りるとクリスが迎えに来ていた。
クリスはお城では、あまり愛想のない何を考えているのか分からない王子だといわれていた。そして、あまり出歩かないので顔を会わせる事も少ない王子だった。
そんな王子がわざわざ婚約者を迎えに来て、見たことのない笑顔で馬車から降りる婚約者をエスコートをしている。手をとりステップから降りるとぐっと腰を引き寄せる。流れる様な仕草に、やはり王子様は違うな。なんて、違う事を考えていた……そうでもしないとやってられない。
リリィなんて、クリスしか見えて無いんじゃないか?
それをみていた騎士達や女官が一様に息を止め、幼いながらも美しい王妃候補に目を奪われていたのだが、クリスしか目に入らないリリィは気づいていない。そして、クリスは周りの牽制に来ているんだろう。……今、リリィに見とれてるやつは気をつけた方がいい……
二人は笑い合いながら城を進んでいく。すれ違った貴族や女官、文官や騎士がそれぞれ色々な反応を見せていて面白いが、当の本人達は全然気づいていない。……いや、クリスは気づいてるか。
顔合わせの中庭に入るとそれぞれの婚約者と王子が揃っていた。私達がテーブルに近づくと、みんな一斉にこちらをみて息を止める。
……そりゃそうだよな。あの姿から今日のリリィは想像出来ないよね。でも私とリリィは比較的似てるから、よく考えればわかりそうなのに。まぁ、クリスの作戦勝ちだろうね。
他の王子がどう思うか解らないけど……あの表情をみれば、考えるまでもないね。
――――― ―――――
今日はとうとう王城に行く日。
学校に行った事のなかった私は実はとっても楽しみにしていた。誰かと……といっても三人だけれど、お兄様以外と一緒に勉強するなんて初めてだ。ドキドキする。
ライバルという設定だけれど、私達はライバルじゃない。ヒロインに対してのライバルだから。王妃の座を争う訳でもない。争うのは王座を継ぐ王子達だ。
仲良くなれるといいな。
お城に向かうのはお兄様と一緒だ。とても心強い。
お城に着くとお兄様が馬車を降りてエスコートしてくれるはずが、クリスが来てくれていた。流れる様なエスコートにドキドキしてしまう。
「精霊達がリリィがくるのを教えてくれたんだ」
こっそりと耳元で教えてくれる。
「みんなにもお礼をしなくっちゃね。
来てくれてありがとう。クリス。とっても心強いわ。
やっぱり緊張するもの」
ふふふ。と笑い合う。
クリスとお兄様と顔合わせの中庭に向かうと、もうすでに全員揃っていた。私達の姿をみてみんな固まってしまった……。
そうだった。前回はコケシ姿だったのだわ。どう挨拶しようかと悩んでいると王妃様達がいらしたので、軽く挨拶をしてそれぞれのテーブルに着く。クリスのお母様とクリス、私とお兄様だ。
王妃様が席について、私達にも着座を促す。そして、クリスに小声でいう。
「クリスお願い」
クリスは頷くと魔法を使った様だったが、私達には分からない魔法だった。
「これで私達の声も聞こえないし、他のテーブルからは普通に会話してる様にしか見えないから大丈夫だよ」
クリスの言葉を受けて、王妃様が私の手を握り頭をさげた。
「リリアーナちゃんね。
……まずはこの子を救ってくれてありがとう。お礼が遅れてしまってごめんなさいね。公にお礼に行く事が出来なくて……
あなたには感謝してもしきれないのに……婚約も受けてくれてありがとう」
「えっ! あの……頭をあげてください。」
まさか王妃様にお礼を言われたり頭を下げられるなんて思わず、驚いてしまった。王妃様は知っていたのね。……そうよね。お母様だもの。
「いいえ。私は母親で原因を作った魔女なのに、なんの対策もとれなくて……あのままだったら、クリスを失うところでした。
リリアーナちゃん本当にありがとう」
「いいえ。間に合って良かったです」
「私は王妃としても何の後楯もなく、クリスとあなたの力になる事も出来ないの。
ただ……あなたの絶対的な味方でいると約束するわ、なんでも話してね。
仲良くしてちょうだい。……こんな風に可愛い娘が欲しかったのよね。嬉しいわ」
と笑いながら言ってくれた。
「母上、そろそろ怪しまれるので普通に座ってください。魔法を解きます」
「ああ、そうね。ありがとうクリス」
そして手を離しながら『クリスの初恋なんですって、仲良くしてあげてね』と小さな声で言って離れていった。
私は、ただ顔を赤くして俯くしか出来なかった。
そして王妃様やクリス達は執務に戻り、私達三人だけの授業が始まる。初日の今日は先生の紹介といくつかの資料を渡され、読んで来るように言われた。
そして、帰るまでの時間三人でお茶をする事になった。
二人ともヒロインのライバル令嬢になれるだけあって、お茶を飲む姿も綺麗で完璧だった。素敵だなと思い、ぽーと見とれてしまう。
「どうなさったの? 」
見とれてる私に気づいたアリシア様が声をかけてくれる。
「アリシア様もシルビア様も私の大好きなお話に出てくるお姫様の様で綺麗だなと思ってました。
アリシア様は燃える様な髪にエメラルドの瞳がとっても映えて、凄く印象的ですもの!
シルビア様も海の様な髪に月の瞳が神秘的ですし、お二人とも見ているだけで幸せな気持ちになりますわ! 」
そう! 二人とも本当に綺麗なの。私の夢見たお姫様の様で見ているだけで嬉しくなってしまう。
「そっ! ……っ……あなた、何を突然」
意外にもアリシア様の方が動揺されて、頬が赤くなっていた。シルビア様はあくまで冷静に答えてくれる。
「……そんな事を考えていらしたの? 」
「はい。だって、私達はこのままいけば義理の姉妹ですもの。
王妃になるかならないかは王子様次第だし、同じ王の王妃になる訳でもありませんから、仲良くなれるかなと思っていましたの。
私は領地に籠りきりでお友達も居なくて、お二人と仲良くなれたら嬉しいなと思います」
二人とも驚いたお顔ですが……そんなに変な事は言ってないと思うんだけど……ダメだったかしら?
「ふふ。リリアーナ様は不思議な方ね」
「本当ね」
「ところでリリアーナ様は何故、以前のお茶会であの様なお姿だったのです? 」
さすがシルビア様、ずばり聞いてくださるのね。
「実は……銀の一族として、王妃候補から外れたかったのがひとつ。
そして……私クリストファー殿下とは知らずに以前殿下にお会いした事があって……その……」
「あら、お二人はお知り合いでしたの? 」
「はい。会ったのは数回なのですが……」
「という事は……お二人は元々思いあっていらっしゃったの? 」
そこからは、お兄様がお迎えにくるまでキャーキャー言いながら恋の話で盛り上がってしまった。
みんな女の子だもの。恋に憧れがあるのよね。因みに、お二人とも婚約者の王子様に心惹かれているようで、それについてもまた一緒にお話しようと、お茶会の約束をしてわかれた。
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