魔女の呪いと試練と祝福
春になると王城に上がり王妃教育が始まる。
それまでの間クリスは婚約者として、定期的にタウンハウスまで会いに来てくれていた。いつも一緒にお茶をしたり他愛ない話をしたりして、のんびり過ごすだけの時間だったけれど、本当に幸せな時間だった。
そして大切な話もクリスが結界を張ってくれるので、しっかりと聞く事が出来た。
聞かれたくない事でもこうやって結界内で話す事が出来るし、手紙に書いても大丈夫との事だ。手紙は私とクリスにしか見えない様にしてあると言っていた。
それでも心配なものだけは焼いておいた。
大切な私達の普通の手紙はしまってある。
そして、よっぽどの事態でなければ突然転移してくる事はしないと、先日の訪問を謝っていた。その前に確認の手紙をしてくれるそうだ。
クリスに聞いたのは驚く事ばかりだった。
やはり手紙やクリスは、精霊魔法による転移魔法を使っているらしい。
クリスは強い魔力に加え精霊魔法も使えること。
王妃様から受け継がれた魔女因子だが、王妃様はほとんど魔法や魔女に興味がなく詳細がわからないために、王妃様の血縁の魔女に接触を図って色々教えて貰っているそうだ。
そのため、たまに魔女の知識を受ける代わりに魔女の依頼をこなす事があるという。以前二ヶ月近く連絡取れない時も、魔女の実験の助手をさせられていたらしい。
その魔女と話した所、あの呪いは『魔女の試練』ではないかというと事だった。
魔女は五歳から成人する十七歳の間に『魔女の試練』が必ずくるという。試練の内容は、その時の担当魔女によるんだそうだ。それも、魔女の血が担当も相手も時期も決めるらしい。
それがたまたま『魔封じの呪い』による試練で、たまたまクリスが王族であった為に毒による命の危機に陥った……不運が重なっただけではないか、との見解だそうだ。
魔女の試練で『魔封じの呪い』はポピュラーな部類だそうで、自分で呪いを解くもよし、解ける魔女を探しだすもよし、とりあえず放置して魔法が使えない不便を満喫するもよし……というものなんだという。
ただ、それ以外に魔女には気になる点があるそうで、それについては引き続き調べてくれている。
「……という訳で、あの呪いは試練だったんだけれど、試練を乗り越えたから『魔女の祝福』を受ける事が出来たんだ。
祝福は血の中に眠る『魔女の知識』と『魔女の力』を目覚めさせてくれるもので、試練についても分かったし母の親戚と連絡もとれる様になったんだ」
「……祝福……確かに解呪した時、祝福みたいに思えたものね」
「そう、そして使える魔力も増えたし、オリジナル魔法もかなり増えた。精霊との絆も深くなったしね。
……ほら」
そういうとクリスは、空を見上げて頷きパチッと指をならした。するとキラキラといつもの光が舞い上がる。
そこに見えるたくさんの小さな存在。絵本の妖精の様に見える。
「わぁー! なんて可愛いの! 」
私は喜びの声をあげてしまう。くるくると喜び回る妖精達、小さな女の子の様な妖精が私の頬にキスを落としていく。みんな嬉しそうで可愛い。私の肩やクリスの肩にもたくさん乗っていた。テーブルの上で、砂糖をいたずらしていたり、仕草も全部可愛い。おじさんみたいな見た目の妖精もいたが、小さいので可愛いく感じてしまう。
「精霊だよ。初めて会った時もリリィの周りにはたくさんの精霊が見えたよ。
リリィは精霊に愛されてる」
「精霊なの? いつも一緒にいるの? 」
「そう。見えないだけでリリィの近くにはいつもいるよ」
「今、リリィの頬に触れた子がいつも手紙をやりとりしたり、転移のお手伝いをしてくれる子なんだ。
小鳥のクリスタルは彼女との契約兼お家みたいなものかな」
「私も彼女と話したり出来ないの? 」
「話したりは出来なくても、クリスタルに魔力を流すと彼女の姿だけならリリィにも見えるよ」
「そうなの!? 嬉しい! 」
そんな話をしているうちに、キラキラは消えてしまい精霊の姿も見えなくなってしまった。
「見えないだけで、みんないるのでしょう? 」
「そうだね」
「ふふふ。 なんだか不思議ね。
クリス、みんなに会わせてくれてありがとう」
見えないけれど、存在している……本当に素敵な世界だ。そして、またひとつ私の夢が叶えられた。
因みに魔女の魔法でも、箒で飛べなかった。残念過ぎる。
こうして穏やかな日常はあっという間に過ぎ、春が来て私は王城に王妃教育に向かう日が近づいて来ていた。
例のコケシ姿の方が良いか、クリスとお兄様と話し合ったけれど……もうクリスの婚約者に仮とは言え決まっているので、しなくて良いと言われた。
……ゲームの舞台ではあの姿だったから、やはりここはゲームとは違うんだと再認識した。
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