魔法
キラキラと輝きを残してクリスの消えた後をみていた。空気はこんなに寒いのに、顔が熱くてしょうがない。
寒さに気がつき、慌てて部屋の中に戻る。さっきのクリスとのやりとりを思い出すととても冷静にはなれない……冷静になりたくて、クリスの魔法について無理やり考える。
転移魔法。
記憶が戻った私は、魔法と聞いて一番最初に思い描いた使いたい魔法は『治癒』と『飛行』と『転移』だ。
幸運にも銀の一族は『癒し』特化の一族で、『回復』『治癒』『治療』『解毒』『浄化』『解呪』『復元』『蘇生』『異常状態解除』等が良く知られている銀の一族の魔法だ。
私の前世の記憶から、この一族に生まれてきたのかもしれないと思っていた。私が一番欲しかった力だったから。
私は病院のベッドの上で、勉強する事も好きだった。知識は私を知らない世界に連れて行ってくれるから。
まぁ、子供用の図鑑が一番好きだったけれど……。ずっと写真やイラストを見ていた。地図や景色の写真集も好きだった。そこに飛んで行ったり、瞬間移動が出来たらいいなぁ……とよく考えていた。
だから、空を飛んだり瞬間移動出来るかもと期待したけれど……調べると、この二つは無いことは無いが、とてつもなく大変な魔法だった。
空を飛ぶ事に関しては、『緑の一族』の風の力を使うのだが……緑の一族はほとんどが平民で魔力量を多く持つ者が少ない。族長も伯爵位で、おっとりとした領地の耕作に力を注ぐ人だった。
むしろ緑の一族よりも、高濃度魔力保持者の風の力を得意とする人の方が魔法を使える様だ。
緑の一族の魔法は『風刃』『風矢』『嵐風』という攻撃的なものもあるが、『飛行』『大地の風』『眠』『蔦捕縛』といった風と植物の力を使う。
『飛行』は風の力で身体を浮かして移動させる。女性でも四十キロはある体重を浮かしつつ、風に乗せて移動させる二つの魔法を同時に使用し続けるのだ。
すぐに魔力が枯渇して魔力切れを起こしてしまう。なので、よっぽどでない限り使用していない。
高い塔に外から登りたいとかそんな時に使用しているらしい。
瞬間移動に関しては『転移魔法』があったが、これは飛行よりも更に大変だった。
十人から三十人位の魔術師と転移に必要な魔法陣が双方に必要だった。
しかもシグナリオン国内は『金の一族』の『結界』があるため、国の許可が取れない限り『結界』に阻まれてしまう。夢の瞬間移動は国の大事に使われる事がある。という位の大がかりな魔法だった。
それを一人で、しかも魔法陣もなくやってのけるクリス。
……いったいどうなっているのだろうか。
考えてみると、この手紙も何魔法に属するのだろうか……こんな(素敵な)魔法見た事も、聞いた事もない。
クリスとの『秘密』だから誰にも聞いた事はなかったけれど……これはとても大変な事なのではないか……。
属性がなくても使える生活魔法のような、魔力があれば大体の人は使える魔法もあるが……
この世界の魔法は、想像力と魔力と相性が大切になる。
相性は、血で受け継がれる。それが一族だ。
ただし、他の魔法が使えない訳ではない。各個人で相性が良ければどんな魔法でも使える。
因みにお兄様はああ見えて、闇魔法が得意だ。解呪や解毒を学ぶうちにかける方にも興味を持ち色々使えるらしい。
妹は水魔法が得意な様だ。銀の癒しの力と相性が良いので銀の一族では、水魔法を得意とするものが一番多い。
なので銀の一族以外にも、簡単な治癒魔法ならば使える人もそれなりにいる。特に、過去に銀の一族の血が入っている高濃度魔力保持者ならば、かなりの確率で使えるだろう。
ただし、銀の一族の様に強い癒しの魔法を使えるのは、一代か二代までなので、一族の血が流れていても簡単な治癒魔法しか使えないらしい。
私は元の魔力量もあるが。転生前知識により、かなりの種類の魔法が使える……属性はあまり関係無い様だ。知識を元に魔法を構築出来ると気づいた。
もちろん相性の良い癒しの力が一番使えるけれど……水蒸気や大気中の水分を意識すれば、水の精製や水魔法を上手く使えること。
空中の酸素を意識してイメージを上手く使えると、火の魔法が強く使える事などが実験でわかっていた。
同じ要領で、風魔法を使って飛んでみたが……疲労感がすごいので実用はしないと思う。……ちょっぴり嬉しかったけどね。
残る可能性は、精霊魔法だが……。
精霊魔法を使える人を私はみたことがない。
魔女因子を持つ人達の中でも、極稀に精霊魔法を使える人がいる位の噂しか聞いた事がない。
とにかく、魔女は群れないし国に属さないので情報がない。
クリスの母親である王妃様は確か、魔女の血が流れてると聞くが、ご本人はほとんど魔法が使えないと聞いていた。
やはり魔女の魔法なのだろうか……いつかクリスに聞いてみよう。箒で飛べるかもしれない。
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