乙女の悩みと婚約者(仮)
携帯忘れて仕事に行ってしまいました。
いつもの時間より遅くてすみません。
ちゃんと気持ちを伝えなくちゃと、思った私は……気づく。
??? ……どうすればいいの?
何て言えばいいの?
あれ? いきなり「好きです」は、おかしいかしら?
おかしいわよね……。
でも、うまく言葉に出来る自信がないわ。
いつものお手紙に書く?
ちゃんと会って言う方がいいかしら?
でも……会うには、お城に行かないと会えないのよね……。
王子様だもの。
これ、誰に相談すればいいの……
お兄様に話すには恥ずかし過ぎるし。
マーサはクリスの事を知らないし……
リチャードも、男の子だもんね。相談されても困っちゃうわよね。……私も恥ずかしいし。
次の顔合わせの時に伝えればいいかしら?
あ、やだ! なんだかドキドキしてしまうわ!
今、考えただけでこんなにドキドキしてしまうのに……
言えるのかしら?
とりあえず……練習してみようかしら?
『好き』って突然言う訳じゃないものね。えーと……会うでしょ? まずは、『こんにちは』でしょう?
……?
……??
『好き』????
なんか違う……私でもわかる。
漫画や小説とかって、どうなってたかしら?
パンをかじりながら走って、ヒーローにぶつかるとか……
不良に絡まれているところを偶然助けて貰うとか……
放課後、校舎裏に呼び出して告白するとか……
これって普通にあることなのかな? あるあるなの? それとも、漫画のお約束なの?
……普通がわからないから、ダメだわ。
参考にならない。
そうよ! 乙女ゲームではどうなってたかしら?
彼女との話を思い出す……
『剣の試合があって、応援に行くのよ!
お弁当を差し入れるんだけど、好きな食べ物を入れると好感度が上がって、それは素敵なスチルが見られるのよ~
騎士だから優勝候補なんだけど、私の為に優勝するとか言ってね! きゃ~たまらない!! 』
……そうだわ。友達は騎士推しで、王子情報が少ない……
第二王子の話……何かあったかしら?
『あ~金髪ツンデレね~。私ツンデレ萌えないんだよね。
なんか会った時に嫌な顔されると、へこまない?
地味令嬢が弱いから、簡単なら攻略してみようかな~と思って近づくと睨まれたり嫌がられて、イヤになっちゃうんだよ~
ライバルが手強いか攻略対象が手強いかって感じだよー。
だから攻略していないんだよね。
やっぱりさー強くて、「お前を守りたい」とか言われたい~! 』
クリス……手強いの? 近づくと嫌がられちゃうの? 睨まれる?
あんまり近づき過ぎない様にしなくちゃ。
でも……クリスっていつもニコニコして、私の話を聞いてくれて……ツンツンしていない気がする……??
やっぱり違うのかも……全然参考にならない。
そんな時、クリスから魔法の手紙が届いた。
やっぱり綺麗な魔法。そして、クリスからの手紙というだけで嬉しくなってしまう。
手紙には、久しぶりに会えて嬉しかった事。
クリスは私を婚約者に選ぶ旨、陛下に伝えた事が書かれていた。
ツキンと胸が痛くなる。
私は今日の手紙には、特別な言葉を期待していたのかもしれない。私が好きだから、と……そういった言葉があるかもしれないと。
勝手に期待して、なくて悲しむなんて……自分勝手な私自身に呆れてしまう。
その日、私はクリスに返事を書けなかった。
翌朝、お父様を通して王宮から第二王子の婚約者に仮決定したと伝えられた。
何故『仮』なのかとお兄様が聞いていたが、正確な理由は誰にもわからないとの事だ。
お父様の考えられる理由は二つだそうだ。
一つは学園に通う十五歳から、デビューまでの一年間に他のお相手を見初める可能性を考えているのではないか。
(銀の一族への配慮があるのではないかという)
もう一つは『王太子にふさわしい王子』に『王太子妃にふさわしい令嬢』のペアを組み直す可能性を残したのではないかという。
確かに……ありえそうな話だ。
王家も三人の王子に混乱しているのだろう。
正式には社交デビューの十六歳で婚約披露すると伝えられた。
そして春から、お妃教育の為にお城に通う。
三人まとめてお妃教育するとの事だ。こうして、王太子妃の見極めも兼ねているのかもしれない。
お兄様もクリスの側近候補としてお城に通うと聞いて驚いた。私は週に二~三回だけれど、お兄様はほとんど毎日行くと聞いて更に驚いた。
お兄様の方が大変なんじゃ……。
側近兼、友達兼、学友兼、等々色々兼ねているから、毎日一緒にいる必要があるらしい。
お兄様はリチャードにも久しぶりに会えるな。なんて喜んでいたが、お父様は『銀の一族から側近をとるなんて……』とぶつぶつ文句を言っていた。
私は今日も返事を出せないでいた。
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